寮生はプリンセスがお好き8章_12_来襲2

悲鳴をあげる女性陣&プリンセス二人。
見張りの位置から走り寄ってそれを囲む男性陣。

プシュップシュッとバッシュの銃から銃弾が放たれるが効果は全くないようだ。

シューシューという呼吸音と生臭い匂い。
ベチョベチョと濡れたような足音。

まるでよどんだ沼のように濁った緑色の体はよくよく見れば多数のイボのようなもので覆われている。

4本の手はグネグネと波打つような動きで前に伸ばされ、そのうち1本が避けそこねたルークの足首を掴んだ。

「ひぃぃっ!!!」
と、バランスを崩して尻もちをつくルークの悲鳴にフェリシアーノが顔を覆う。

そのままずりりと引きずられようとするルーク。
だが、そこでギルベルトが大振りのナイフを持って飛び出して、ザシュッと怪物の手首を斬り落とした。

そして同じく飛び出した香が三節棍を怪物の眉間に突き入れる。

一瞬怪物が怯んだ。

そのタイミングですばやく銃をナイフに持ち直したバッシュがルークを片手で立たせると、まだ彼の足首に絡みついたままウネウネと動いている化け物の手の指を斬り落として足先で手をルークの足首からこそぎ落とすと後ろに下がるように指示をする。


そうしてギルベルトとバッシュ、そして香の3人は中央にある東屋を背に武器を構えるが、不思議なことに化け物は中央へは向かわなかった。

ビチョリ、ビチョリと歩を進めた先は唯一人が籠もっている北西の小屋。
2組のCPが籠もっている小屋だ。

と、その場にいる全員が驚く。

だって普通は人数も多く遮る壁もない東屋の方が襲い易いだろう。
何故ドアを閉めて籠もっている小屋の方を襲うんだ?

呆然とするギルベルト達の目の前で、化け物は閉まった小屋の戸をガンガン叩いている。

小屋の中からは悲鳴。
厚いとは言い難い木の扉はすでに壊れかけている。

このままでは袋のネズミだ。


──窓から逃げろっ!!
と、ギルベルトが大声で叫ぶが、

──動けねえっ!!体がしびれて動かねえんだよおぉ!!助けてくれええーーー!!
と、中から男の悲鳴が返ってきた。


「バッシュっ、ギルっ、ここ頼むっ!!」
と言いおいて、香が小屋の方に走った瞬間に、ベリベリっと木のドアが化け物の手によって小屋から引き剥がされる。

化け物の後方から駆け寄った香の目に映ったのは、暗い部屋の中、光る蝶。
羽ばたくたび何かキラキラした粉のような物を舞い散らせながら、ふわりふわりと化け物の方へと飛んできて、その濁った沼のような肌にとまってストロー状の細い口を化け物のイボに伸ばす。

生臭い匂いに混じるどこか甘い匂い
ああ、そうか……こいつらは共生依存なのか

化け物は自らの体から蝶の餌になる体液を出す代わりに、蝶は鱗粉を振りまいて獲物を痺れさせ動けなくして化け物の餌を提供するのだろう。

と、それはそれとして、主の養い子を狙う輩の情報源として、おそらく一味であるサラだけでも助け出したい。

そう考えて香が出方に迷っていると、


──香~!!!避けるんだぞっ!!!!

という声と共に何かの気配。
慌てて身をかがめると、それまで香の頭があったあたりを、でかい木の幹がすっ飛んでいって、化け物の頭を後ろからふっとばした。

ひぃぃーー!!!
と思うものの、それを投げ飛ばしてきた養い子の怪力は実に頼もしい。
伊達にゴリプリと呼ばれては居ない。

プリンセスとしてはあるまじき姿だが、別にここにはプリンセスを評価採点する教師陣はいないので良しとしよう。

そんなことを思いつつ、さてこれで解決かと思えば、なんと化け物は頭がない状態で、今度は東屋の方へと向かってくる。

あがる悲鳴。
歩みはゆっくりなのでそれぞれ逃げる一同。

とっさのことで、ギルベルトはアーサーを抱き上げて走り、バッシュはアデルと、ルークはフェリシアーノと手に手をとって逃げる。

アルフレッドは1人森の方へ。
どうやらまた木を引き抜いてくるつもりらしい。

そんな風にバラバラになった中、化け物は3人で逃げる幼馴染組の方へ。

「え?え?なぜっ?なぜーー?!!」
パニックになって泣き出すアン。
男二人も焦りながらも、それでも彼女をかばうように一緒に逃げる。

その様子にギルベルトはハッとした。

──蝶だっ!蝶の袋を捨てろーー!!!

そう叫ぶギルベルトの声に

──いやああーーー!!!

と、悲鳴をあげながらアンが投げた蝶の袋は、近くを逃げていたモブースの腕にジャストミート。

するとやはりそれが原因だったらしい。
化け物はモブースを追い始めた。

──いやああーーー!!!

と、腕に絶対死守を命じられたピチュと卵を包んだタオルを抱えているために袋を捨てられずにモブースが叫ぶ。

その悲鳴に、アーサーをバッシュ兄妹に預けてギルベルトがナイフを手に走り出した。

モブースに伸びる化け物の手を間一髪、ナイフで斬り落とすと、白モブ三銃士が揃って、おぉ~~!!と、感嘆の声をあげる。

やっぱりリアルローランだ、ローランっ!!
さすが我らがカイザー、超カッコいいっ!!
怖い怖い怖い怖い!化け物怖い!でもカイザー眼福すぎてやばいっ!

化け物に追い回されて確かに青ざめているのだが、変なスイッチが入ってしまったらしい。
3人並んで逃げながら叫ぶ三銃士。

完全に自分達からターゲットが外れたのを察して、3人を遠目に眺めながら
「えっとさモブースは手が空いてないとしても、あとの二人のどちらかが袋捨てれば良いんじゃないかな?」
と、冷静につぶやくフェリシアーノ。

「ん~3人は気づいてないけど、ギルはわざとそのあたり指摘しない的な?
あいつらがひきつけてればプリンセスに化け物来ねえし?」
と、それにまた冷静に答える香。

「ま、今のうちに敵確保してくるっ」
と、とりあえずこちらは大丈夫そうなのを見計らって、サラを捕らえにロープを持って小屋の方へと向かって行った。

このまま朝までというのも無理だろうが、もう少し時間を稼げないだろうかと誰もが思い始めたその時、

──あっ!!
と、モブースがこけた。

勢いで彼の手を離れて宙を舞うタオル。

やばいっ!!と、それまでは少し距離を置いて伴走していたギルベルトが間に入ろうと飛び出してそれをキャッチする。

迫る化け物ナイフは持ったまま、しかしタオルを抱えて戦闘態勢に入れないギルベルト。

だがっ!!


──ピィィィーーー!!!!

いきなり凄まじい鳴き声と共に威嚇するように大きく羽を広げる小鳥。
パカッと開くクチバシ。
ブワッと吐き出される赤い光。
それはまっすぐ化け物を包み、まとわりついた蝶ごと化け物の濃緑の体が燃え上がった。

え??

みんな何も出来ずにただ呆然と見ているなか、化け物は真っ黒な灰になる。
そしてそれが何故か小鳥と共にタオルに包まれている赤い球体の中へと吸い込まれていった。

本当に唖然とするしかない。

ギルベルトが恐る恐る手の中のタオルを見下ろすと、赤い球体の中にうっすら黒い何かが浮かび上がっていて、小鳥の方はと言えば何事もなかったかのように羽繕いをしていた。



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