寮生はプリンセスがお好き8章_13_救出【完】


その夜
化け物が消えてから香がサラを拘束したことに関しては、ボブの申告通り、縄が燃えた時に外にいた事、そしてその後カバンにライターを戻していたことなどを告げて、わざわざ化け物を招き入れるような行動を取った可能性があることを理由に念の為ということで皆に説明した。

普通なら相手が女性だということもあり人道面その他で揉めそうな措置ではあるが、化け物に危うく殺されるところだった面々は精神的に参っていたので、反対する者はいなかった。

幸いにして死人はなし。
結界を燃やされてあんな化け物に襲撃されたことを考えると奇跡である。

一応化け物の燃えカスが吸収された球体とそれを産んだらしき小鳥は、無事救助されてここを脱出出来たらツヴィングリの方で厳重管理の上、球体の処理の仕方を調べる事にするということで話し合った。
もちろんその経過と結果はバイルシュミット家と王財閥の方には報告すると言う。

そもそもこの化け物は一体だけなのかもわからないので、念の為皆東屋に集まって夜明かし。
どうしても眠い人間はレジャーシートを敷いて寝て、そうでないものはおそらく安全だと思われる日中に寝ることにした。


そうして眠気覚ましに始まる雑談。

最初の話題は壁画と化け物の関連性について。

──これ逆だったんですね、たぶん。
と、モブース達が言い出したことが始まりだった。

「球から生まれて人を襲って蝶が退治するって思ってたけど、あの化け物って実は植物系で、蝶は化け物から餌の蜜かなんかをもらう代わりに化け物の捕食を助けて、化け物は人を襲って食い、最後、球を生む小鳥に燃やされて、灰が球に格納されておしまい。
蝶がむらがってる絵って、化け物を止めてるんじゃなくて、化け物の蜜吸ってる絵だったんですね」

「あ~、それな。
俺、前に本で見たことあるけど、虫の中には空気中にフェロモンを放出して相手を引き寄せるみたいなのがいるらしいから、もしかしたらあの蝶も何かそういうの出して化け物引き寄せてたのかも?
アンさんが持ってた蝶ってinビニール袋で結構空気遮断されてたけど、小屋の方のは前回になってる窓からダダ漏れてたのかもな。
だからあっちに行ったんじゃね?」

「なにはともあれ、カイザーの手から小鳥がビーーーム!!って感じで化け物倒してたのめちゃ格好良かったっス!
最後から二番目の絵で化け物が包まれてたのって最初は血かと思ってたけど、炎だったんスね」

と、ぐったりしている他の面々を尻目に盛り上がる白モブ三銃士。


──モブとか言いつつ、実は大物なんじゃね?モブ寮生でこれって銀狼寮ぱねえ!
と、そんな3人を見て香が苦笑した。



救助が来たのは翌朝のことである。

バイルシュミット家から依頼を受けたツヴィングリ社がバイルシュミット家の全面協力の元、驚きの速さでたどり着いた。

なにやら完全武装の兵士に囲まれた時にはぎょっとしたが、その中の指揮官らしい人間がバッシュに敬礼。
そこで救助隊だとわかって皆歓声をあげる。


その後は全員ヘリで救出。
一旦はツヴィングリ社の支社内に収容された。
そこで健康チェック。

小屋に籠もっていたCP4人はまだ若干体の痺れが残っていたようだが、それもその日のうちには回復するとのことだった。



そして早朝救出され午前中に健康チェックを終えて昼食を摂ったあとの午後。

今回の目的でもある王財閥の総帥、王耀が到着した。
もちろん他には秘密で、バッシュが今後の相談と称してギルベルトだけを呼びに来た。
そしてアーサーの相手はアデルにさせて、フェリシアーノに関してはアンがせっかく仲良くなったフェリシアーノに最後に話がしたいと言っていると言って、ルークを待たせてフェリシアーノだけ連れて行く。

こうして香とギルベルト、フェリシアーノを応接室に集めたバッシュはそこで王を待った。


そうして王の来訪を告げる部下。
全員が席を立って王を迎え入れた。


正直ギルベルトですら王については不思議に思う。
アルフレッドの父親と同年齢ということなので、自分から見ると親ほどの年のはずなのだが、全くそうは見えない。

こうしてアルフレッドを助けたパーティ以来2年ぶりに会う王は全く変わらずせいぜい20代にしか見えない。

彼は立ち上がったままの面々の顔を見回し、ただ一言
「まあ、座るよろし」
と、着席を促した。

その言葉で全員が座る中、ただ1人立ち上がったまま深く頭を下げる香。

「このたびは申し訳ありませんでした」
との彼の言葉に王は

「話をするには順番というものがあるね。
香も座るよろし。
話が進められないある」
と淡々と言う。

それに香はもう一度勢いよくお辞儀をして椅子に腰をかけなおした。


そうして全員を座らせたのだが、王自身は立ったままだ。

不思議に思いつつ皆黙って視線を向けていると、王はそのまま
「今回はうちの養い子の誘いで巻き込んですまなかったある」
と、いきなり頭をさげる。

え?え?
と、フェリシアーノですら驚いて目を丸くした。
もちろんギルベルトだって驚きのあまり目と口をぽか~んとあけて呆ける。

なにしろ天下の王財閥の総帥だ。

「大人
と、慌てて腰をあげかける香には、
「まあ、お前がちゃんと我に確認を取らなかったのも一因あるな」
と言うので、香は顔面蒼白で
「申し訳ありませんっ!」
と、ガバっと頭を下げるが、王はそれには苦笑して
「それでもあの困難な状況でよくアルフレッドを守りきったある。
さすが李一族の本家の息子あるよ」
と、下げたままの頭をくしゃくしゃと撫で回した。

それから、王は他の面々を見回して言う。

「今回のことを報告がてら、ギルベルトとフェリシアーノのことも香から聞いてるある。
結論から言うと、こちらからも協力体制をお願いしたいと思ってるね。
我は学園内のことまでは手を出すのは難しいし、香も1人きりだと手が回らないある。
更に言うなら我にとってもシャマシューク学園は大切な母校あるね。
おかしな輩に汚されるのは我慢できないある。
というわけで王財閥で金は出す。
でも表向きはバイルシュミットの依頼ということで、ツヴィングリの総帥の孫自らにシャマシューク学園に編入して欲しいと思っている。
どうあるか?特別な人材なのはわかってるから金に糸目はつけないあるよ?」

「吾輩が?」

いきなりの指名にバッシュは驚くが、なるほど、そのために内々の極秘の話し合いなのに自分に退席を求めなかったのかと、逆に納得した。

そうして腕組みをしつつ考え込むこと数分。
バッシュは顔をあげてしっかりと王に視線を合わせると、

「吾輩は本来大変多忙な人間である。
そこを雇いたいとなれば、我社のS級の傭兵の10倍の料金はもらうことになるが?」
と、探るように言う。

それに王はフッと笑った。

そしておもむろに懐から小切手を出し、サラサラと数字を書いて
「とりあえず1年分。これでいいあるか?」
と言うなり、スッとバッシュの方に飛ばす。

ちらりとのぞくとそこには9桁の数字が並んでいた。

バッシュはそれを確認して小切手に向けていた顔をあげ、王に視線を向けると
「表向きはバイルシュミットの依頼ということだが、転入先は銀狼寮でいいのか?」
と聞いた。

つまり転入は了承したということだろう。

それに対しての王の返事。

「敵に警戒されたくないのと、ギルベルトには2年ほど前の借りも返さなきゃならないあるね。
だから転入先は銀狼寮で、普段は銀狼寮のプリンセスを守ってるよろし。
金狼寮の方には苦情係として訪ねて、香からの依頼があれば裏で助けてやって欲しいある。
アルフレッドはどうせまた銀狼寮のプリンセスにちょっかいかけるあるからね。
苦情を言う機会はたんと作れるあるよ」

「了解した」
と、ここで王とツヴィングリの契約が成立。
話は今回の顛末の方へと移っていく。


「結論から言うと、今回の黒幕はアルフレッドの父親の一族、ジョーンズ社ある」

と、まあそれは聞くまでもなく予想はついたことではあった。
というか、他にないだろう。

その後の王の話では、やはりあのチケット自体、王から送ったものではなかったらしい。
チケットの送り主はクルーズを主催している会社自身。
それは色々な会社や人を噛ませて巧妙にカモフラージュしているが、アルフレッドの父親の一族、ジョーンズ財閥の息がかかっているらしい。

彼らはなるべく足がつかないようにアルフレッドを事故死させたいということで画策しているとのことだ。

極力アルフレッド個人を狙ったものではなく、大勢居た中で不運にも…という形を取るために今回の事故を起こしたらしい。

誰も気づかなかったが、初回の寮対抗イベントで毒殺があって以来、アルフレッドが口にいれる可能性のある物は先に香が少量ずつ口にして毒味をしているので、料理に毒を入れても他が死んでアルフレッドの口には入らず警戒されるだけというのは、おそらく相手方は気づいていたようだ。

座席もまず香がチェックする。
李家の護衛がついている事は彼らもさすがにチェック済みだ。
暗殺も失敗が続けば当然より用心されてガードが固くなる。

そんな中で偶然を装ってアルフレッドを殺害するのに彼らが選んだ方法は、国が上陸を禁止している島に向かわせることだった。

その島には古くから住んでいる原住民がいて、彼らは排他的で外部の人間との接触を一切拒否している。

過去に漂着したり上陸を試みたりする人間が何人も殺され、数十年前に渡航禁止を押し切って布教に訪れた神父が殺害されて以来、島に渡った人間はいないらしい。


なので現在の状況も何もわからないのだが、ギルベルト達がたどり着いたのは緑の多い島の北部で、原住民が住んでいるのは岩場の多い島の南部。

渡航禁止前に漁に出て流されて街にたどり着いた島民が言うには、島民達は元々は緑の多い北部に住んでいたが、北部には彼ら曰く魔物がいて、昔はその魔物から人々を守るシャーマンがいたのだが、ある時その家系が途絶えてしまってからは犠牲者が多発して、資源は少ないが魔物のいない南部に逃げ延びて、海から食料を調達する生活になったそうだ。

魔物に関しては王も半信半疑だったらしいが、実際に遭遇した香の報告で少し興味を惹かれたらしく、そちらは非合法に調べるとのこと。

まあ王財閥は裏にも色々通じているのでギルベルトもその手の話には首を突っ込まないことにする。


ということで、もうあの島は特殊な地域で、安全管理的なことは王が引き受けるということで、その話も終了。

最後に話題は学園の乗っ取りの話へ



その前の王の大切な母校、おかしな輩に汚されるのは我慢できないという言葉に、フェリシアーノがなんと自分が学園長の跡取りであることまでカミングアウトを始めた。

それにはさすがの王財閥総帥も驚いた顔をするが、

「俺にとっても爺ちゃんが世界中の子どもが家の財力や立場に関係なく友情を育める場所をと作った学園はとても大切なんです。
だから変に利用されたり乗っ取られたくない。
力を貸して下さい」
と頭を下げるフェリシアーノに

「我にとって、あそこはまさにそういう場所だったある。
友人と呼べる人間は全てあそこがなければ作れなかったね。
だから本当に大切な場所ある。
こちらから頭を下げてでも協力させて欲しいあるよ」
と、申し出る。


「王財閥にバイルシュミット家、それにツヴィングリ社にシャマシューク学園の学園長。
そんなのが組んだのを敵に回すって、敵がマジ可哀想な気がする的な

苦笑する香。

「何言ってるあるか。
相手には敵対なんてしなければ良かったと思わせるくらいはやらないとダメね」
と、その言葉にニヤリと笑みを浮かべる王。

正直…単なる大財閥以上に裏に通じすぎていて厄介なこの財閥総帥と敵対するくらいなら、ジョーンズ財閥の遺留分くらい放置したほうがマシだったんじゃないだろうか…と、ギルベルトも思う。

ああ敵さんは本当に厄介な眠れる獅子を叩き起こしたんだろうなと思いつつ、バッシュを初めとしておそらく王が送り込んでくる味方そして敵もおそらく増やしてくるのであろう人員で、荒れ模様になるのであろうバカンス後に思いを馳せて、ギルベルトは心のなかで大きなため息をつくのであった。


──8章完──

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