こんな幸せな偶然があって良いのだろうか…
即帰るつもりだったから、今後のスケジュールなんてたててない。
だから
「お姫さん、どっか行きたい所とか店とかあるか?」
と聞いて、
「特にないです。
いつも兄に任せっきりなので、よく来る割に土地勘ないんです。ごめんなさい」
そう言われた時点で、彼女を連れて座れる場所がある所まで来て座らせると、
「ちょっと5分待ってくれ」
と、声をかけてから急いで近場で良さげなカフェを検索する。
そうして駅からそう遠くない、そこそこメニューが豊富で良さげなカフェを見つけて移動。
そこに落ち着いてまず彼女にメニューを渡し、レジ、トイレの位置、客層などなど密かに周りをチェックした。
可愛らしい店の雰囲気の通り、女性客やカップルが多い店内。
まあ急いで調べたわりに当たりらしい。
彼女がミルクティに決めてからメニューを渡してくれたが、錆兎自身は見る事なくそれをもとの場所に戻した。
そして
「アオイ、甘いもんて苦手か?」
と、声をかけると、彼女はぶんぶんと首を横に振って
「大好きですっ!
この前も兄がパフェをごちそうしてくれるって話で待ち合わせしてたんです」
と、答える。
錆兎はそれを聞いた上でウェイトレスを呼ぶと、自分用にコーヒーを、アオイにミルクティ、そして、もう一つ
「ここで何かオススメのケーキがあればそれを一つ」
と彼女のためにケーキを一つ注文する。
そうしてウェイトレスが去ると、改めてアオイを向き直った。
本当に…嘘のように彼女は可愛い。
周りの客が遠目で噂するくらいに可愛い。
そうやって周りの視線が集まってくるのは自分の容姿も起因しているということには、錆兎は当然気づいていない。
ただただ可愛すぎる彼女を何かあったらしっかりとガードしてやらなければ…という思いを胸に、とりあえず話を進めることにした。
「まず、悪い。先に謝っとく。
俺も本当は天元にわりあいと強引に約束させられて、やつのほうには断らせてもらえないんで相手の子に断ってすぐ帰ろうと思ってたから、今日ノープランなんだ。
でも俺はお姫さんとなら一緒に過ごしたいと思ってんだけど…」
そう切り出すと、アオイはぷくりと頬を膨らませた。
もしかして何か気に障ることを言ったか?!
と、錆兎は焦るが、その口から出てきた言葉は
「本当に天元は…!
私には相手にはもうOKもらったから会うだけでもって言ってたんですっ!」
「あ~、両方にもう相手は会う気になってるからキャンセルできないって言ってたのか」
と錆兎が苦笑交じりに言うと、うんうんと頷いた。
自分に対してじゃないとわかると、そんなふうに膨れるアオイは見てて可愛い。
というか、何をしていても可愛い。
「とりあえず天元は明後日会ったら一発殴っとくな。
で、お姫さんの側は…今日これから…というか、今日だけじゃなくか。
一緒にでかけてもらえるか?
無理はしないでいい。
俺はこれも縁だし、なんていうか…お姫さんといるとなんとなく楽しいし、一緒にいてほしいけど、お姫さんは色々怖い目にもあってるしな。
知らない男と二人が不安ってのはわかるから。
嫌なようなら、ここ出たらちゃんと天元の家の最寄り駅までは送るから、遠慮なく言ってくれ」
なにしろ泣きながら自分に助けを求めてきたくらいには今回の事が嫌だったらしいので、断られても仕方ないかと思う。
できれば…もし二人きりが無理でも天元やアオイの兄あたりと一緒に複数ででも良いからまた会えたら嬉しいのだが…。
そんな思いで、でもそこは彼女の負担にならないようにとなるべく淡々と告げると、彼女はやっぱり動揺したようにうつむいて、しばらくそうしていたが、やがて顔をあげた。
「あ、あのっ!!」
「ん?」
「わ…私、男性とか慣れてなくて…」
「みたいだよな。だから本当に無理しないでいいぞ?」
「いえ、あ、あのっ…お、お友達ってだめですかっ?」
そこまで言ってぎゅっと目をつむるアオイ。
すごくいっぱいいっぱいですという感じが本当に可愛くて、内心悶え転がる。
「俺はそれでも全然構わない」
最悪二度とこんなふうに会う機会は持てないかと思っていたので、友人からでも全く無問題。
むしろ二人で出かけるのはNGではなさそうなので、さきほど再開した時に涙のお願いをされたことを考えれば快挙だ。
そう思って即答すると、それでも彼女は何か言いにくそうにモジモジしている。
まだ何かあるのか?
「他に何か俺に言いたい事あったりするのか?
なんでも遠慮せずに言っていいぞ?」
そうこちらから声をかけると、彼女はさらに真っ赤になって、すがるような目をしておずおずと切り出す。
「あ…あの…本当に図々しいお願い…なんですけど…」
「ん?」
「錆兎さんが本当にお付き合いしたいと思う方ができるまででいいんです。
その…そういうお付き合い…してるってことにしてもらえませんか?」
「あ~、また天元に余計な世話されるもんな」
そう言うとうんうんと頷くアオイ。
申し訳なさそうに提案されたわけだが、錆兎にしてみれば渡りに船だ。
おそらく男慣れしていないアオイはいわゆる男女の関係になるのは怖いのだろう。
だけど錆兎とでかけたりするのが嫌なわけではなさそうだし、恋人というとそういう濃厚な接触をしなければと思っているらしい…と、錆兎は理解した。
確かに昨今、つきあったらすぐそういう関係になる男女が多いが、錆兎的にはキスをするまでには最低1年。
それ以上になるのは、互いに結婚できる年になって自分に自活できるくらいの収入ができた頃に正式にプロポーズして、婚約期間は1年くらいは経て結婚をしてから、と考えているので、それまでは逆にお友達のような関係でも全く問題はない。
というか、すぐそういう関係になりたがる昨今の女子たちと違って、そういう奥ゆかしいところがかえって好ましく思えた。
問題ない。全く問題ない。
と、いうことで……
「んじゃ、これからは”恋人”っていう名のお友達な?
メルアドとライン交換していいか?」
と、錆兎がそれを了承した旨を伝えてスマホを手にすると、アオイは心底嬉しそうな顔でうんうんと頷いて、バッグの中から可愛らしいレースとリボンがいっぱいのポーチを出して、そこからスマホを取り出した。
こうして最初はどうなることかと思ったが、錆兎は無事理想の彼女をゲットしたのである。
もちろん…その後に諸々の問題が噴出することは、この時は予想だにしていないわけだが…
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