ツインズ!錆義_12_義勇視点-不安

自分…本当にとんでもない事を了承してしまったんじゃないだろうか……

待ち合わせの場所に向かう電車の中、義勇は今更ながらそんな事を思いつつ徐々に蒼褪めていった。

現在進行形で失恋している妹は可哀想だが、これは…状況によっては自分もなかなか可哀想な事になるかもしれない……





結局アオイに押し切られて、再度女装をする事になった義勇。

女装はもういい。
諦めた。

でも…その格好で知らない相手に会って、アオイいわく、天元の話だとすっかりその気になっている相手に交際のお断りをいれなければいけないとか、あまりに無理ゲーだ。

というか、ばれるだろ。
いくらなんでも1対1で対峙したら、さすがにバレるだろう。

そう訴えてもアオイは聞く耳を持ってはくれない。

帰宅してすぐ、

『私のとっておき──いつか天元に休日デートに誘われたら着て行こうと思ってた服──を貸してあげるわね』

と、ノリノリで出してこられた袖口と首元にフェイクファーがついた可愛らしいコートに、真っ白なワンピース。

確かに可愛い。
見てると楽しい。

でも!!これを外に着ていけと言うのは無理っ!!

可愛い格好だけに、男だとバレた時に居たたまれない。

そう主張したかったわけなのだが、そこで、しょぼんと

──もう…これを着る機会なんて私には訪れないから……

と、普段強気な妹にうなだれられたら、もう兄としては何も言えない。

よしんばアオイの方が強くて凛々しいとしたって、義勇はそれでも兄なのだ。
妹は可愛い。
落ち込んでいたら元気づけてやりたい。

ああ、もう仕方がない!!

「わかった。
努力はしてみるけど…バレても知らないぞ」

はぁーとため息を一つ。
そして諦めて身につけた。 


可愛い…。
自分で言うのもなんだが、それでもそれらの服も、一緒に貸してもらったバッグも靴も、何もかもが可愛い。

これ、アオイと男女が逆だったらとまでも言わない。
せめて自分が女でアオイと姉妹だったとしたら、ここまで気が重くはならなかったんじゃないだろうか…。

それでもそれらを身につけた自分に泣きそうな目を向けるアオイを見ると、強く断れない。

こうして約束の次の週末、義勇はまた決死の覚悟でそれらのアオイの本気装備を身につけて、こそこそと家を出たのである。



前回のアオイとの女装デートの時と違って週末なので、幸いにして電車は空いている。

なのでチカンなどの心配はなさそうだが、電車内を見渡せてしまうため、人目が痛い気がする。

なまじ格好がとても可愛らしいため、注目を浴びてしまっているようだ。

男だとバレたらどうしよう…
と、そんな事を思いながら、義勇はぎゅっと唇を噛みしめて身を固くして俯いた。

しかしながら実はそれは杞憂なのである。

実際に傍から見ると、まるでディスプレイの向こうから飛び出て来たような美少女が、非常にわかりやすく可愛らしい服を着ているので、ついつい目が行ってしまうだけなのだ。

が、当然ながら女装をした義勇の容姿について評価し語ってくる相手など、女装である事を知っている妹のアオイしかいないのだから、そんな風に客観的に見て可愛らしい少女にしか見えない事など、義勇は知る由もない。

だから注目を浴びている=どこか変に思われている(ある意味、ディスプレイの向こうではなくリアルにそのあたりにいる人間として可愛らしすぎるという意味では変なのだが、そういう意味の変ではない)と思い始めると、どんどん不安が募っていく。

通りすがりの人間の視線すらごまかせないようでは、約束の相手と11で対峙するなどできやしない。

どうしよう…バレたらどうしよう…


そして、ふぅ…とため息をつく。

何故こうなってしまったんだろう…。
そもそも…その気になっている相手になんと言って断れば良い?
断っても諦めてくれなかったら?

義勇自身はあまりに双子の妹と一緒に居すぎたせいで、そう言えばあまり異性に興味を持つ事もなかったが、周りの級友の話を聞く限り、彼氏が欲しいと言う女の子よりも、彼女を欲しいという男の方が必死な気がする。

よく、女の子が言う「誰か彼氏が欲しい」という言葉は、自動販売機の前でどれにしようか選んでいるような状況で、男が言う「彼女が欲しい」と言うのは、砂漠で水を求めているような状況だと聞く。

まあ、天元をしておススメと言うだけあって、顔良し成績良し運動神経良しの男らしいので女に飢えていると言う事はないだろうが、逆にモテるだけに振られるという事に抵抗があって諦めてくれない可能性もあるかもしれない。

自分が本当の女の子なら、知人にでも頼んで彼氏のふりをしてもらうのも手かもしれないが、男である以上それも不可だ。

相手に速やかに諦めてもらえなければ、バレる可能性が増え、バレる可能性が増えれば、かなり人生が終わる気がするが、どう説得すればいいのか見当もつかない。

そんな事をグルグると考えているうちに、約束の駅についてしまう。

これと言った対処も思いつかず、重い気持ちを引きずったまま、義勇は仕方なく駅へと降り立った。



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