…出来る出来ないじゃない。するかしないかだっ!
…確かに…これは絶対に記録として残さなきゃなっ!
シャマシューク学園銀狼寮のモブ寮生モブースと、中等部からの親友で同じ寮のモブ寮生マイクとボブは、救命ボートの中でコソコソとそんな話をしている。
船が事故で救命ボートに乗り移るなんてことになっても、そこに推しが入れば天国だ。
というか、そんな事故にあって寄り添う推しの姿なんてめったに見られるものじゃない。
3人は現在の自分達の状況よりもそんなレアな推しCPを見られる幸せを満喫していた。
推しCPがバカンスでクルーズ船に乗るらしい…。
モブース達がそれを知ったのは、とある休み時間のことだった。
どうやら金狼寮の副寮長プリンセスが銀狼寮のカイザーのお伺いをたてずに勝手に銀狼寮のプリンセスをお誘いしたらしい。
プリンセスの身の安全を管理するカイザーに許可を得ずにプリンセスをお誘いするなどという行為は、寮対抗で諸々が進んでいくこの学園の人間からすると、その寮に対する明確な敵対行為と取られても仕方がない。
なので、それを知った金狼寮のカイザーがいきなり銀狼寮のカイザーに土下座した。
そのやりとりは当然目立つので、モブース達はクルーズの事を知って、当たり前に同じクルーズの旅を予約。
もちろん彼らは白モブ家系のモブースを筆頭に無害な白モブ達なので、推しCPの邪魔をするどころか、声もかけない。
ただクルーズを楽しむ推しCPを遠目に見て楽しむためだけに自分達も参加したのだ。
食事はバイキング形式で、乗客はいくつかの部屋に分かれていたが、幸いにしてモブース達は推しCPと同じ広間で、カイザーが長い指先で優雅に扱うカトラリーでプリンセスの小さな口に料理を運ぶ様を堪能する。
カイザーと反対側のプリンセスの隣には、銀狼寮のプリンセスと並んで愛らしいと言われる銀竜のプリンセス。
二人揃えばまるで天使のお食事会と言った感じで、楽園はここにあったんだ…と、モブース達はうっとりとそれに見とれた。
6人で囲んでいる丸テーブルで、プリンセスの正面あたりに座って皿に山盛りになった料理を貪り食べている金狼寮の副寮長アルフレッド、通称ゴリプリは見ないことにして…
そうして推しを堪能しながら食事を摂っていると、いきなり衝撃があって消える灯り。
やがて非常用の大きい懐中電灯を灯して事故があって避難が必要になった旨を告げる係員。
その途端にプリンセスを銀竜金狼組に預けてテーブルを離れるカイザー。
え?この非常時に?とモブース達は驚いたわけだが、よくよく見ると料理の中で日持ちのしそうな菓子や点心をピックアップしているカイザー。
その他、テーブルに置いてあったミネラルウォーターの入っていた瓶に飲み物を詰めている。
なるほど。これから救命ボートに避難することになるので、その間にプリンセスが喉が乾いたり空腹になったりしないためか…と感心しつつ、自分達もカイザーに倣って同様に飲食物を確保した。
もちろんいざとなればプリンセスをお守りするカイザーに献上するためである。
そう、自分達はモブなので、プリンセスに直接お渡しするような愚は犯さない。
訓練されたモブ。
それが同人同好会の銀狼寮3モブなのだ。
…というわけで、救命ボート上。
今日も推しがカッコいい&可愛らしい。
当たり前に自分のコートの中にプリンセスをすっぽりとくるむように抱きしめるカイザー。
時折何か話しかけながら、そのつむじや額に口づけを落とすのを見ていると、こんな時でも幸せだ。
もう推しと同じ空間に居させて頂いているだけでも幸せなのに、なんとプリンセスが他を慰めるためにと同行者に配っていたキャンディをモブース達にも下さった。
ありがたすぎて卒倒するかと思った。
これは家宝にしなければ…と、3人そろってそれを丁寧にハンカチでくるんでカバンの中へ。
これだけでも遭難した甲斐はあったというものだ。
この先危険なことになるかも…などとは思っても居ない。
というか、危険があるとしてもそこに推しCPがいるのだ。
ローラン似のカイザーは何があってもアリア似のプリンセスを守り切るのは必至だし、自分達はモブなので物語の中に名が残るような展開を振られたりはしない。
どんな困難があっても、カイザーがプリンセスを守って困難に打ち勝ってハッピーエンドなのだ。
そんな根拠のない自信が彼らにはあったのである。
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