こんなにわくわくと浮かれた気分になったのは久々だ。
結局あのあと4人で軽く経験値稼ぎをしたのだが、単純に遊ぶためだけの仲間というのを持ったのは本当に何年ぶりだろうか。
リーダーのゼンイツは少し臆病だが面白い。
シーフのタンジロウは心底ゲームに疎いらしいが、その分教えてやると素直に感心して一生懸命吸収しようとする。
そして…プリーストのギユウ。
なんとなくおっとりふわふわとした雰囲気がする。
口数が少ないのはおそらくこの手のゲーム…もっと言うならキーボードに慣れていないせいだろう。
それでもクリック1つで出来る頷くなどの操作は一所懸命やっているので、おそらくわざと話さないとかではない。
ディスプレイの向こうで会話についていけないと焦っているのかと思うと、なんとなく微笑ましい気がした。
移動中もまるでカルガモの親子よろしくいつも自分の後ろにぴったりくっついて回るのも可愛い。
今まで周りにいなかったタイプの人種で…そこにいるだけで楽しい気分になった。
単調に思えた戦闘も、後ろにいるそのおっとりしたキャラを守るためだと思うと楽しい。
そんなわけで8時ぴったりにインする。
もちろん一番乗りだ。みんなまだ来てない。
しかたなしに噴水のあたりで他を待ってると、他の参加者の会話が聞こえてくる。
イヴという女ウォーリアとゴッドセイバーという男ウォーリアだ。
会話からするとゴッドセイバーの方がイヴに気があって、色々気を惹こうとしているようだ。
(うちのギユウの方が絶対に可愛いよな…)
と、無意識に思ってる辺りが慎重な割に一目惚れ体質らしい…。
そうこうしてるうちにタンジロウがイン。
そのうち
「俺さぁ、今レベルトップだしー、ミッションもちょーやってるしー。
でもゲームだけじゃないしー。
リアルもマジパネェつーかー、俺、鈴木大輔って都立S高の2年なんだけどー、
ちょー背高いしー、ちょーイケメンだしー…」
などと、リアルまでみんなに聞こえる通常会話で話始めるゴッドセイバー。
こいついつか殺されるんじゃないか…?と密かに思うが、それが実際にそうなるとは、この時点ではさすがに思っても見ない。
ただ念のためと自分達以外で会話を聞いてそうなあたりをチェックする。
タンジロウと自分とイヴの他にはアゾットというプリースト。
まあ…プリーストじゃ一億狙うのは無理だろうなとは思う。
そのうちタンジロウが退屈になったらしく
「あの、サビト…」
と話かけてくる。
『…ん?』
「サビトも…高校生…なんですよね?」
『だな。このイベントの参加者全員そうだって主催言ってたしな』
初日に全員に敬語は要らないし呼び捨てで良いと言ったのだが、タンジロウだけは敬語が抜けない。
というか、彼はゼンイツ以外には敬語を使っている。
何故だ?と不思議に思うものの、本人に言っても──う~ん…何故なんでしょう…気づいたらなんとなく?──と首をかしげられてしまうので、まあ良いかとそのあたりは諦めた。
それはさておき、サビトが当たり障りのないあたりまでの答えを返すと、タンジロウはそのまま
「サビトは、リアルではどんな感じの人なんですか?俺は…」
と、いきなり通常会話で話だすので、それには焦って
『ストップ!!黙っとけ、馬鹿!!』
と、皆まで言わせない様にとりあえず遮る。
「あ…えっと…嫌なら無理に聞き出そうとまでは思ってないんです。
じゃ、俺のこと話しますね。俺は…」
と、何もわかってないのであろう、まだ続けようとするタンジロウにサビトはため息をついた。
そしてタンジロウがそれ以上話し始める前に、そういうんじゃない、と、一応ワンクッション置いたあと、とにかく話をするならパーティー会話にしろとさらに言った上で、説明を始める。
『ネット上だと相手も嘘つけるからな。下手に自分の個人情報漏らすと悪用されるぞ。
実際騙されて呼び出されて乱暴されたりとか、ストーカーされたりとか結構あるんだからな。
特に女はやばいが、男だってやばい場合がないとは言えない。
絶対に下手に相手を信用すんな。
ましてや誰が聞いてるともわかんない通常会話でリアル明かすなんて史上最悪の大馬鹿野郎だぞ』
タンジロウはその説明で納得したらしい
『ん…わかった。気をつけます』
と、神妙にうなづく。
素直なのがタンジロウの最大の長所だと思う。
とりあえずあとから来た2人にも念の為同じ注意をしておいた。
これでまあ注意するだけはした。
という事でレベル上げに行く前に、昨日から気になっていた事をとりあえずクリアにしようと、サビトは商店街に足を向けた。
それでなくてもレベルが低いのに初期装備のままのタンジロウとギユウにせめてレベル相応の装備を買ってやらないと敵に殴られたら終わる。
昨日までパーティーの存在すら知らずにただソロでペチペチと敵を叩いてただけらしい二人のこと、当然装備代なんか貯めてるはずもなく…レベルが上がったら装備を買い替えようと貯めていた金で二人に装備を買ってやる。
どうせレベルの低い3人に合わせてやっていたらレベルが上がるのなんて当分先だ。
それまでには充分必要なだけの金が貯まるだろう。
決して効率的ではない。
というより効率から激しくかけ離れたやり方なわけだが…不思議と楽しい。
成功して勝つ為ではない作業。単純に楽しむために遊ぶ事がこれほど楽しいとは思っても見なかった。
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