なので、錆兎は必然的にユウと2人でクエストなどをする機会が増えた。
なのでメインクラスの半分のレベルにはなるが、別クラスのアビリティを使えるようになるサブクラスに敵のターゲットを自分に向けるプロボがある戦士をつけるのだが、それで攻撃を受け続けると、元々の防御が高い戦士と違ってダメージを負いすぎる。
それならいっそ、魔術師の魔法にあたる忍術を多用してタゲを取れて、回避も忍術の一つの幻術であげられる忍者をサブクラスにした方が良いかもしれない…。
ということで、ユウと2人で行動する時用にレベル20くらいで放置していた忍者をサブクラス用に35まで上げようと思い立った。
が、問題はその間のユウである。
本人は釣りでも、低難易度のクエストでも、なんでもして時間を潰しているからと言うが、とにかく粘着されやすいキャラなだけに心配だ。
それを指摘すると、ユウはさらりと髪を揺らしながら小首をかしげた。
「ん~~、なんで私粘着されるんでしょう?
ケイトさんの時で学習したので、ギルド会話以外ではハーブティの話もバスソルトや刺繍の話もしてないんですけど…普通に野良の方に言い寄られるのは何故でしょう?
女性キャラって少なくはないですよね?
他の方はどうなさってるんでしょうね?」
不思議そうに聞かれて、錆兎は改めて考えて見る。
確かにそうだ。
ネットゲームでは異性である女性キャラを演じる男、いわゆるネカマも多い。
だが、錆兎もそうだが、ユウを目の前にしたプレイヤーはおそらく皆、彼女はリアル女性だと思っているだろう。
だから粘着をする。
「ふむ…なんでだろうなぁ…。
なんかお姫さん女っぽいっというか…
あ~。過剰に女っぽさを演出しないからかもしれんな」
「…過剰に?」
「ああ。男が女演じる場合、漫画とかの女っぽさをすごくデフォルメしたキャラクタを参考にする事が多いから、ベタベタと女っぽいキャラはなんとなくネカマな感じがするのかもな。
お姫さん、ギルドでの話題はおいておいて、野良とかでは普通に敬語で、~なのぉ、とか、そういうベタっとした言葉使わんし、自分の事、ユウはぁ~とか、名前で呼ばないし、普通に自分で出来る事は、できな~い(;o;)とか言って人にやってもらおうとせず、ちゃっちゃと自分でやろうとするしな。
そういうとこが返って女っぽい感じか」
「なるほど…φ(..)メモメモ
つまり…ネカマっぽくすれば良いと言う事ですねっ!
わかりましたっ!!
ウサさんがサブクラスのレベル上げしている間、私、もう1つサブキャラを作って、そちらでネカマプレイしてきますっ!!」
はぁああ???!!!
「そうだっ!どうせなら、もしどなたかに声かけられることがあったら『あたし、ネカマの星めざしてるんでぇ~す★』とか言ってしまえば完璧ですよねっ!!」
なんだか変なスイッチが入ってしまったらしいユウに、錆兎は唖然として言葉を失う。
そうか?そういう問題なのか??
本当に大丈夫なのかっ?!!!!
と、錆兎がグルグルと色々考えている間も、ユウは
「じゃあ、服装は…機能性よりも、なるべく可愛く見える組み合わせですよねっ!
フェイスはこのフェイスで、髪はどうしようかなぁ…
いっそのことピンクにしてみるとか…」
とすでにサブキャラのキャラメイクの構想に入っている。
今でさえ可愛いユウが本気で“可愛い”を目指したらどうなるんだろうか…
見て見たい気もするが、見るのが怖い気も……
いや、きっと見る気はなくても絶対にまた巻き込まれる気がする…。
そんな予想出来すぎるくらい出来てしまう未来に頭を抱えながら、錆兎は自身の忍者上げの支度に没頭するのだった。
「『あたし、ネカマの星めざしてるんでぇ~す★』とか言っちゃえば完璧ですよねっ!!」
との言葉で、錆兎がサブクラス上げをしている間、ネカマプレイ(??)をする事にしたらしいユウ。
女性だと思われて粘着されるなら、いっそのこと最初から女だと思われるように可愛い女の子のフリをしているのだと言ってしまえという事らしい。
その発想はなかった。
発想がちょっと錆兎の想定の範囲を超えすぎていて反応に困るのだが、ユウと2人でクエストなどを行う時に少しでもユウを安全にと思うと、サブクラス上げは必須である。
だからとてもとてもとても心配なわけだが、静観するしかない。
そんなわけで錆兎は忍者のレベルをあげるべく、同レベル帯のめぼしいクラスのプレイヤーに一斉にパーティの誘いのウィスを送って返事待ちをしていた。
すると、
「ウ~サさんっ♪作ってみちゃいましたっ☆」
と、目の前に現れる愛らしさ満載の少女キャラ。
フレンドリストを見るまでもない。
言わずとしれた錆兎のお姫さんである。
ピンクのふわさらな髪に大きくてまんまるな藤色の瞳。
体格はユウよりは若干小さくて華奢で、少し幼く甘い感じがするが、全体的な雰囲気はやはりユウとそう変わらない。
「ふふっ、ウサさんと同じ目の色にしちゃいました♪」
なんて少し恥ずかしそうに見あげてくる図なんて、
──もう、やめろ!そのまま外に出るな!他の奴と接触したら危ないっ!!
と、声を大にして言いたい。
『ウサさんのアドバイス通り、女の子のきゃぴっと感を出してみましたぁ~☆』
と言うユウのサブキャラ、アリスは、怪しいネカマというより、なんだかアイドル感満載である。
ぜんっぜん、ネカマっぽさが出せてないだろぉぉーー!!!!
…と、本気で言いたい!!
これ、アイドルデビューしてしまうんじゃないか?!
よもやのミア2世になってしまうんじゃないか?!!
と、“お姫さんの本気”に頭を抱えるが、さきほど送ったパーティの誘いに続々と返ってくる返答に対応するのに忙しく、ロクに対策すら練る暇もない。
「と、とにかく、おかしな事言ってくる奴いたら、パーティ中でも良いから、俺に言えよ?!
絶対だぞ?!!」
と、だけ言い残して、それでも一刻も早くユウを1人にしなければならない時間を無くすべくレベル上げへ。
しかししかししかしっ!!!
…普通にしていても可愛すぎてストーカーがいっぱい出没するユウのことだ。
それが、“可愛い”を追求した日には…何も起こらないはずがないのだと言う事を、このあと錆兎は思い知ることになるのだった。
とにかく一刻も早くまたユウと活動できるように、忍者のレベル上げに没頭する日々。
パーティ作っては狩り、パーティ作っては狩り。
雑談する暇も惜しんで、ひたすらモンスターを叩いて叩いて叩いて…コツコツコツコツ…そしてついに忍者レベル35達成!!
可愛い可愛いユウと話し始めてしまうと、自分はもうレベル上げに集中できないであろうことは自分でわかっていた。
そのため、挨拶以外は自粛していたのもあって、もう色々ユウロスが厳しかったのだが、ようやく話せるし一緒に遊べる!!
『お姫さん!サブクラスのレベル上げ終わったぞー!!』
と、このところずっとサブキャラのアリスを使っているユウにそう声をかければ
『おめでとうございます!お疲れ様でした~♪』
と、返ってくる。
あまつさえ
『これでまたご一緒できますねっ♪』
なんて嬉しい言葉も添えられて、気分は急上昇。
そこで
『お姫さんの方は調子はどうだ?大丈夫だったか?!』
と、錆兎的には当たり前に続けると、何故か
『え~と……』
と、歯切れが悪い言葉が返ってくる。
それからしばしの沈黙。
沈黙……沈黙……沈黙……
そして最終的に返って来た言葉は、
『でもっ!このサブ垢は倉庫キャラにすれば無問題かなとっ!!』
で、思い切り大丈夫じゃなかったのか、と頭を抱えた。
まあ…確かにメインキャラではないので、普通なら使わなければ良さそうではあるが…しかし…このゲームの場合、状況によってはそうでもない。
ユウは気づいてないのかもしれないが……
『あ~…でもサブキャラでもフレンド登録してるとメインキャラを使うとリストに出るぞ?』
と、指摘してやる。
そして、気づいてなかった気がするよな…と思いながら少し反応を待った。
すると、案の定
『あああーーー!!!!!』
と、悲鳴があがる。
ああ、やっぱりな。
ここで何も起きなければユウじゃない…。
…とため息をつきつつ、錆兎が
『で?何があったんだ?』
とさらに聞く。
サブクラスのレベル上げ終了日にまずやる事がユウの粘着対策ということはまあ、思い切り想定の範囲内の事で、覚悟はしている。
むしろ日常が戻って来たなという感じさえする。
だから当たり前に
『話してみろ。何か困ったことになっているなら、なんとかするから』
と言ってやれば、
『本当に申し訳ありません…。
えっと…実は……』
と、ユウは申し訳なさそうにぽつりぽつりと話始めた。
──レイグラムさんて方と知り合ったんですよ…
と、そこでユウの口から特定の名前が出て来たところで、(ああ、これいつものか…)と、錆兎は苦笑した
ユウは可愛いオブ可愛いなので、特定の異性の名前が出てくる時は、たいてい粘着に悩まされている時だ。
まあ、ケイトの時の事もあるので、下手をすれば女性キャラでも中の人間が実は男で…と言う事もままあるのだが…
錆兎がそんな事を考えている間にもユウの話は進んでいく。
『私、このゲームは1人で始めたので、ケイトさんにお誘い頂くまでって、ずっと1人でやってたんです』
『ほお?』
『初めてパーティに入ったのってレベル9でね、それまではソロで敵殴ってました』
『あ~、まあ知り合いがいないとそうなるな。
俺は知人はノアノアがいたがレベルが全然違うから、やはりそんな感じだったし…』
『ですよね。だからね、サブキャラでもそんな感じのつもりで、ユウの方から少し装備だけは渡したんですけど、そのワンドで当分は街の外の弱い蜂でも殴ってレベル上げるつもりだったんですよ』
『なるほど?』
『でも…レベル4くらいになって、そろそろ蜂じゃなくてクマでも殴ろうかと思ってた時に、パーティのお誘い受けたんです。
なんでも、メインはブラックナイトなんだけどタンクもあげておくと便利だからナイトをあげ始めた方らしく、1人で殴っているのも退屈だから一緒にやりませんかって…』
(うん…まあ、今思いついた。
本当に今更だけどな。
俺もナイトあげてないし…
どうせユウがサブキャラでもホワイトメイジあげるなら、レベル20まではナイトで一緒にレベル上げして、レベル20になったらナイトの代わりに忍者でユウのサブキャラとレベル上げすれば良かったんだよな。
本当に今更だけどなっ!!)
と、それを聞いて内心ほぞをかむ錆兎。
しかしそんな風に錆兎が後悔に苛まれていても、ユウの話はどんどん続く。
『確かにヒーラーだと攻撃力ないし、前衛がいてくれると殲滅速度も速くて楽なんですよね』
(本当に俺としたことがっ!!!)
『まあウサさんが忍者をあげている間の暇つぶしなので、別にレベル上げも急ぎませんし、レイグラムさんも別に急いでないということで、わりあいとのんびりおしゃべりしながらやってたんです』
(………)
『ところが…ですね。レベル10くらいになって、普通にパーティ入れるようになっても、パーティ入らず、2人で狩りをするわけなんですよ』
(………)
『2人きりが良いとおっしゃって…』
(………)
『レベル上げならそろそろ6人パーティを組んだ方が?と提案すると、他のプレイヤーにアリスを取られてしまうから嫌だと言うので……』
(取られるも何も、元々お前のものじゃないっ!!)
『これ、まずい奴だなと思って、当初の予定通り言ったわけなんです』
『何を?』
『最初に話したじゃないですか。あれですよ。
──あたし実は男でネカマの星を目指してるんでぇ~す!☆
ってやつです』
(お、おぅ…そうだったな……)と思いつつも
『でも…今困ってるってことは、通じなかったってことだよな?』
と、突っ込んでみると、お姫さんははぁ~と大きく息を吐きだして肩を落とした。
『──今更それはあり得ない…って言われました。
今更ってなんですか、今更って』
『あ~…うん、まああれだ。
それまで女の子っぽすぎたというか……』
『えぇ?!でも頑張ったんですよっ!!
流行りのアニメとか見て研究したりして…
なのに
──レベル40になったら、ウェディングドレスと同じグラフィックのドレス装備できるようになるから、買ってあげるよ?
とか言われて、なんだか水商売のお姉さんになった気分でした』
(な、なんだ、それぇぇええーーー!!!)
ギリィ!!とリアルでコントローラを握る手に力を入れ過ぎたら、また、ミシリとコントローラがきしんだ音をたてた。
(ユウにキャバクラのホステス相手にするみたいな真似をするとはっ!万死に値するっ!!)
…と、頭に血が上りすぎて、アドバイスをしたのは自分なのを忘れて錆兎は思う。
『それでね、これもう説得は無理だと思って、レイグラムさんがまだログインしないうちにこっそり野良パーティに入ってレベル上げしちゃったんですけどね』
『…ああ』
『なんと待ってるんですよ。メインのブラックナイトになって、狩りをしているパーティの横で』
『はあぁぁ~~???』
『結局…パーティのリーダーさんが気を使ってしまわれて「もう、ここで解散しましょう」ってなって、解散しました…』
錆兎自身の感情はおいておいても、狩りをしている低レベルパーティの横でレベル70のメインジョブで待っているとか、もう普通じゃない!!
どうしてユウはそういう輩を呼んでしまうのだろうか……
ともあれ、それは充分な理由づけになる。
『お姫さん、とりあえずアドバイスだ』
『はい…』
『そいつは本当にやばい奴だ』
『…ですね……』
『メインキャラ知られる前に、そいつをフレンドリストから削除。
それからブラックリスト入りして、即サブキャラ消して証拠隠滅しとけ』
『らじゃっ!!』
いつもは邪険な態度を取ることに躊躇するユウもさすがにここまで来ると異常事態を感じたらしい。
プチっと素直にフレンドリストから削除して、相手に気づかれる前にと、せっかく育てたサブキャラではあるものの、サクっと削除をして、メインのユウに戻った。
「ただいまです~♪」
と、ギルドハウスの部屋にメインキャラで戻って来たユウ。
久々に見るユウはやっぱり可愛い。
「今回はゴメンな?
俺の判断ミスで怖い思いさせた。
それでな、俺考えたんだけどな、今度何かあげないといけないジョブが出来た時には、サブキャラまで作るくらいの気があるなら、他のあげてないジョブで2人一緒にあげればいいんだよな」
「あ~!そうですねっ!!」
お姫さんの頭を撫でこ撫でこしながらそう言うと、一瞬目を丸くしたあと、ふわりと笑った。
「んじゃ、今日は久々にレアモン狩りに行こう!」
「はいっ!!」
シュンっ!と2人でメインジョブに戻って、ウサは育てたての忍者をサブクラスにつける。
そうして2人は本当にひさしぶりに、2人連れだって、レア装備を落とすモンスターを狩るために、ギルドハウスの外に出たのだった。
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