オンラインゲーム殺人事件9_パーティーは楽しい(6日目)──我妻善逸の場合

皆の頼れるリーダーのサビト、おっとり不思議ちゃんなギユウ、それに温和で優しいけどしっかり者のタンジロウ。
3人の仲間ができてさらにゲームが楽しくなった。


正直、善逸はこれまで対等に見てくれるような友人もいなかったので、こんな風に親しい相手は居なかった。

なのにここにきて、親も居ないこれと言って取り柄もない自分なんかどうせ…という、夏休み前までの自分が嘘のように、色々を満喫している気がする。


皆とはあれからいつも一緒で、同じ時間に同じ場所で待ち合わせて行動する仲間になっていて、アイテムなんかはお互い必要な物を融通しあったりとか協力するようになっていた。

戦闘の時の役割なども決まっていて、まず善逸が能力アップの魔法をかけて、タンジロウがブーメランで敵を一匹安全地帯までひっぱってくる。

それをサビトが圧倒的な火力で殴ると敵はサビトに向かっていくので、そこで善逸と短剣に持ち替えたタンジロウも殴りに参加。ギユウはHPや毒とかを回復するという感じだ。

一人でやるより全然面白くて、レベルとかが上がるのも全然早い。
サビトに教えてもらって最初のミッションも終わらせたから、指定した口座には主催から10万円が振り込まれた。


もちろん自分たちだけじゃなくて他の参加者もボチボチ仲間を見つけてパーティーを組んでるようで、例のイヴはゴッドセイバーだけではなく、もう一人ショウという名前の男のベルセルクも引き連れて、女王様状態みたいだ。

以前だったら女の子キャラと仲良くなれて良いなぁと思っていたのと思うのだが、今はそんな事を感じる事は全く無くて、自分の仲間が一番だと思う。

ただ、男二人が競う様に美少女キャラに膝まづいて何か言ったり渡したりしてるの見るとちょっと面白い。


今も3人が善逸達の近くでレベル上げしてたのだが、まったり立っているイヴの所までショウが敵を連れてくると、ゴッドセイバーがいきなり無言でダっとどこかに駆け出して行った。
それをスルーで二人はそのまま敵を叩いている。

「イヴ~!」
やがてゴッドセイバーが戻って来た………でかい巨人を連れて…

「俺の敵の方がでけえしー、やっぱ俺マジやばくねっ?」


えっと…お前別の意味でやばくない?HP真っ赤なんだけど?
てか…倒せるの?それ……

…と、呆れたのは当然善逸だけではなかった。

『脳みそに何かわいてるな……』
サビトが自分達が対峙していた眼前の敵を叩き伏せて、チラリとそちらに目をやってつぶやく。

『まあ…とばっちり来ない程度に距離取っておこうか…』
タンジロウも苦笑しながらみんなのHPを回復し終わって自分のMP回復のために座ってるギユウを少し離れた岩陰にうながした。

善逸は敵の感知範囲外からそちらの様子を伺うサビトの横に立ってやっぱりそちらに目を向ける。

善逸達より少し遅れてゴッドセイバーの連れて来たモノに気付いたイヴとショウ。
まず叫んだのはイヴだ。

「ちょ、ちょっと信じらんないっ!何連れて来てんのよっ、あんたっ!!」
「一番強そうなの連れて来たしー。俺すごくねっ?」
「すごいわよっ!もう信じらんないくらいすごい馬鹿っ!!
倒せない敵連れて来てどうすんのよっ!!」

イヴの言葉にゴッドセイバーはポカンと立ちすくんだ。

「え~!マジっ?!ありえなくねっ?!」
「ありえないのはあんたの頭よっ!
それ連れて向こう行って死んどいてよっバカっ!こっち連れて来ないでっ!!」
「まじすかっ!!」

『ほんと……ありえんな……』
あちらのドタバタを遠目で見ながら呆れた息をつくサビト。

しかしサビトはそのまま後ろを振り返り善逸に声をかけた。

『ゼンイツ。能力アップ一通りかけといてくれ』
その言葉に善逸は
『なに?助けるん?』
と、そのままサビトの隣で魔法をかけ始める。

『ん~、義を見てせざるは勇なきなりって言うからな。
でも倒せるかわからんからお前らは離れてろ』
言ってサビトはスラっと背中に背負った大剣を抜いた。

善逸達の側でそんなやりとりが繰り広げられてる間にも、イヴ達は修羅場を繰り広げてる。

「きゃあぁっ!ちょっと、どうすんのよ、これっ!」
悲鳴を上げるイヴの前に
「まかせろっ!」
と、立ちはだかるゴッドセイバー。

「暗黒に染まりし神の使徒、このゴッドセイバーの虚空より現れいでる刃の煌めき!受けるがいいっ!!
ナイトメアスーパーメテオインパクト!!!

そのまま巨人に特攻………スカっとかわされた。

「ムッ!貴様、やるなっ!!」
巨人の周りをそのままグルグル逃げ回りながら叫ぶゴッドセイバー。
呆れるイヴとショウ…。

「イヴ…この隙に離れようぜ」
もっともな提案だ。
うなづいてイヴはショウと共にジリジリと後ろに下がって距離を取り始める。

「ク、クソッ!お前は俺を怒らせた~!黒き業火がごとき俺の怒りを受けてみよっ!今燃え上がる漆黒の必殺技!ファイナルゴッドライトニングスラッシュ!!!

………スカッ。
…だめだ、こりゃ。
残りHP…たぶん10以下?そろそろ死ぬかなぁ……。

などと思いつつ善逸はリアルで肩をすくめる。

しかしまたグルグル巨人の周りを回っているゴッドセイバーに、巨人が手に持った斧を容赦なく振り下ろしかけた時、青白く光る大剣が巨人の胴を斬りつけた。

「ん、一応当たるには当たるか……」
静かにつぶやくサビトに、巨人の攻撃が向かう。
しかしその攻撃はスカっと外れ、また巨人に斬りつけるサビト。

それに気付いてゴッドセイバーはようやく逃げ回るのをやめ、巨人相手にスカスカと素振りを始める。
そしてサビトはそのまま何度か攻撃を受けてHPを半分くらい減らしつつも巨人を倒した。

ズドン!と音をたてて倒れたあと、ス~っと地面に巨人が消えて行くのを確認すると、そのまま無言で大剣をまた背に担いでこちらに戻ろうとするサビトの背中に、ゴッドセイバーが
「待て!」
と、声をかける。

「俺は暗黒神の使徒、黒い稲妻ゴッドセイバーだ。共に強敵を倒した盟友のお前の名前を聞きたい」

サビトは一瞬無言で立ち止まる。そしてため息。

「…キャラ名…頭の上に出てるだろ。見えんのか」
それだけ言ってまた歩き始める。

まあ…そうなんだよね……。
そもそもゴッドセイバーの攻撃一発も当たってないから”共に”倒してないし…
と、リアルで善逸は苦笑した。


「サビト君すごいねっ♪マジかっこ良かった♪」
巨人が倒れて安全なのを確認してイヴが戻ってくる。

「今度リアルで会わない?名前教えてっ?」
ピタっと寄り添いかけるイヴからスっと距離を取るサビト。

彼女の言葉にゴッドセイバーが口をはさむ。

「俺のダチだしー、3人で会わね?」
「何よ?サビト君のリアフレなの?GS」
「いや、今ダチになったしー」

「なってないっ!」
サビトがイラっと言う。

「じゃ、あんたは要らない、GS」
イヴがきっぱりと断言した。

そんなゴッドセイバーとは対照的に、イヴのもう一人の仲間ショウは
「サビトがすごいわけじゃないよ、イヴ。向こうにはエンチャがいるから。
能力アップの魔法かけてるから同じくらいのレベルでも強いように見えるだけだって」
と、つめよる。

一方そんな敵対心ビシバシに言うショウの言葉にもサビトの方は極々冷静に
「ま、そういうことだ。」
と肩をすくめると、それ以上色々言われるのはごめんとばかりにちゃっちゃと善逸達の方にかけ戻って来た。

『悪い。待たせたな』
善逸達に言うサビトのはるか後方では
「もうっ!サビト君行っちゃったじゃないっ!
GSもショウもエンジェルウィング一つ取ってこれないくせにっ」
と、イヴが怒ってて、二人が必死にご機嫌を取っている。
ホント女王様のようだ。

色々なパーティーがあるもんだねぇ。
と、そんな事を思いながら、善逸はレベルあげを再開すべく、敵を釣りに行くタンジロウに能力UPの歌をかけ始めた。


が、数分後…

(ゼンイツ君て…寄生だよねぇ…)

それは突然届いたイヴからのウィス。
はい?いきなりなんでしょう??

善逸はレベル上げをしているらしいイヴのパーティーにチラリとだけ目を向ける。
イヴもこちらをチラリと見るが、通常会話では無言。

(いったん組んじゃったから言えないんだろうけど、サビト君はレベル高いしスキルもあるから、レベル低いしスキルも大したことないメンバーって実は足手まといよね…)


そう言われると言い返せない。
確かにサビトは強い。
サビトだけじゃない。
タンジロウは敵を釣るという重要な任務があるし、回復を一手に引き受けるギユウは言わずもがな。

つまりはゼンイツだけ貢献度低いということか。
確かにそうかもしれないけど…何が言いたいんだろう。

なんだかすごく嫌な気分になってきた。心臓がバクバクして、なんだか泣きそうだ。
だから何?どう答えてほしいわけ?俺にどうしろと?

もちろんそんな善逸には気付かず、いつものようにタンジロウが釣ってきた敵をサビトが殴って、時折ギユウがそのサビトの減ったHPを回復してはこまめに座って自分のMPを回復している。

『サビト君とかレベル倍なわけだし、君が一緒じゃなければもっとレベル高い敵狙えて経験値もいっぱい入るよね』

はいはい、そうでございますね。
でもそれは俺じゃなくてサビトに言ってよ。
チクチクとしたウィスに涙目な善逸。

いつだって自信なんてないのだ。
生まれや育ちは決していいとは言えず、体格も顔も特出していいとは言えない。
成績だって下の方で、唯一の取り柄と言ったら足の速さくらいだ。

そんな自信のなさがどこか出てしまっているのだろうか。
いつもいつも馬鹿にされてきたので、さらに自信がなくなっていく悪循環。

言い返したいけど言い返せない。
自然と無言になるしかないゼンイツに飽きたのか、そのうちウィスがやむ。

そんな時唐突に…
パーン!!とゲーム内で驚いた時などに使う破裂音が鳴り響いた。

『サビト!俺、足手まといだった?!迷惑なくらい?!』
いきなりパーティ会話で叫んだのはタンジロウだった。

『結構言われたとおり出来てたと思ってたんだけど、あとどのあたり注意すればいい?』
と、言うタンジロウに、サビトは

『はぁ?なんのことだ?』
と、返す。


もしかして…と、それで善逸は思い当たった。
このウィスを送られてきたのは自分だけではなかったのか…

そこで思わず
『よ、よかったぁ~!!俺だけじゃない?ねえ、あんなこと言われたの俺だけじゃないのね?!』
というと、さすがにサビトもおかしいと思ったのだろう。

『誰に何言われたって?誰でもいいから全文ログ流せ』
という言葉に、タンジロウがだだ~っと流すログ。

それはゼンイツの所に来たものと全く同じで、心の底からホッとした。
サビトとパーティーを組むのに釣り合っていないと言われているのは同じだが、それが自分だけか自分だけじゃないかというのは善逸にとっては重要だった。

もちろんサビトはそんな言われ方に納得するはずもなく

『悪いが皆つきあってくれ』
と、再度イヴ達の方に戻っていく。

そうしておいて、通常会話で
「さっきうちのメンバーに送ったウィス、全部見せてもらったが、大きなお世話だ!
うちのメンバーは皆足手まといなんかじゃない!
それぞれが必要な役割をきちんと果たしてレベルあげに勤しんでいるだけじゃなく、人間性もとても信頼できる。
今後、うちのメンバーにこんなことを言ってきたら、迷惑行為として運営に通報させてもらうから、そのつもりでいろ!」

と、ピシっと言うと、相手に言い訳をする暇も与えずに、踵を返し、今度はパーティー会話で

『俺のことで不快な思いをさせてすまなかった。
今後こういう馬鹿な事を言ってくるやつがいたら、俺に直接教えてくれ。
適宜対処させてもらう』
と言う。

その上で
『一応言っておくと、俺はお前たちと共に行動するのが楽しいと思っているし、足手まというんぬんにしても、レベルの低いうちは1人で色々こなせても、ミッションも中盤くらいになってくればおそらく1人でこなせないようにできているだろうから、仲間は必要だと思っている。
タンジロウはいつも前向きに己の役割をこなそうとしてくれているし、ゼンイツは慎重でいつも一歩引いているから周りの事がよく見えていると思う。
ギユウに関しては全プレイヤーの中で2人しかいない回復役だから必要性は言うまでもないしな。
お前たちがいなければ、俺は自分だけで魔王にたどり着くとは思えないし、足手まといなんて思ったことはないからな』
と、続けた。


慎重で周りのことがよく見えている…そんな風に言われたのは初めてだった。
いつだって根性なし、臆病者と言われてきたゼンイツは、その言葉ですでに泣きそうだ。

どんなに罵られても侮られても、慣れてしまって泣くなんてことはなくなっていたのに、サビトのその言葉でディスプレイが潤んで見えなくなった。


『ということでな、悪いんだがタンジロウとゼンイツ、今日は少しギユウと話したいことがある。
だから2人で素材狩りでもしていてくれないか?』

そう言われて了承して、いったんパーティを離脱すると、タンジロウがあらたにパーティを作って善逸をさそってくれた。

一応一度はサビトの言葉に納得したものの、心の奥底から自己評価の低い善逸は、もしかして希少なヒーラーのギユウにだけ何かあるのか…と、そんなことを少しだけ思ってしまったのだが、一見大雑把でぶっきらぼうに見えるサビトは実は細やかな性格だったらしい。

パーティが出来たくらいのタイミングで

(一応な、自己申告をしたタンジロウとゼンイツはこれで大丈夫だと思っているんだが、何も言わないギユウは少し心配だから、きちんと話をしておきたい
おそらくギユウはキーボード操作に慣れていないから会話が遅いんだと思うから、話をするにも少し時間が掛かりそうだしな。
というわけで、今日はすまんな)
などとウィスを送ってきた。
おそらくタンジロウにも同じウィスを送っているのだろう。

そんなサビトの対応に
『なんか…サビトって先生みたいだな』
と、タンジロウが言って、ゼンイツもそれに同意した。





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