オンラインゲーム殺人事件6_パーティー結成(3日目)─鱗滝錆兎の場合

40…50…59……よしっ8時っ!

時計をにらみながら8時を待つようになって早3日。
一日で大方の流れを掴み、二日目でとりあえずミッションもやってみた。

そして三日目。
今日も黙々とコウモリを切り続ける。



基本操作や戦闘法などに慣れてしまうと、ミッションの攻略以外は単純作業だ。
そう楽しいものでもない。
かなり時間を浪費している気分になってきた。

それでも続けるのは万が一このゲーム内で何かが起こった時のためだ。

現在レベル10。ゲーム自体は単調にして順調。
このまま行けば今日中にはもう2~3レベルは上がって、次の狩り場探しに出かける事になるだろう。


このゲームでは何もせずに座っていれば徐々にHPとMPが回復していく。
死ぬと経験値が減るため、常に余裕を残して回復し、死なないように務めるのがレベルUpへの近道だ。
なのでコウモリを5匹ほど倒してHP半分くらいを残した状態でHP回復のために座る。


薄暗い洞窟。
コウモリの姿くらいしか見ないはずのその場所で、いきなり白い影が浮かび上がった。

新しい種類の敵かっ?!と思い、立ち上がって近づいて行くと、なんと他のプレイヤー。
真っ白な長衣。HPゲージが真っ赤。

考えるより先に体が動いた。
そのキャラを襲っていたコウモリを一刀両断に斬り捨てる。

動揺しているらしくコウモリが倒されても何をするでもなくぼ~っとその場に立っているそのキャラにあらためて目を向けると、どうやら回復系後衛のプリーストだ。
普通は前衛が表に立ち、後ろでその前衛に守られながら回復をするジョブのはず。


とにかく次に攻撃を受けたら即死するであろうそのプリーストに

「とりあえず自分を回復しとけ」
と言いつつ、他に攻撃をしかけてくるようなものがいないか辺りを警戒すると、そこにシーフとエンチャンターの姿が…。

一番か弱いはずのジョブに先頭を進ませてるその二人に、怒りがフツフツと湧いてくる。


「そこの馬鹿二人っ!!いますぐコウモリの群れに特攻して100回死んで来いっ!!」
そして爆発。

その言葉にシーフは怒るが、エンチャンタが迷ってここにきてしまって戸惑ってるうちに絡まれてしまった事を説明した上で、パーティーメンバーを助けてもらった事へのお礼を述べると、シーフも続いて礼を言う。

しかし何故そこまで怒られたのかわからない様子なので、一応前衛は後衛を守るのも仕事である事を説明すると、意外にあっさり納得して礼を言ってきた。
悪気があるとか保身に走っているとかではなく、単に無知だったらしい。

そう言われてみて見れば、どう考えてもこのレベル10くらいの狩り場に来るには無理がある全員レベル4の3人。
このまま放置すれば恐らく死に戻りだろう。

ここでそれを放置できるような人物ならそもそも賞金狙いでもないのに、興味のないゲームをやっていないわけで…


「とりあえず俺をパーティにいれろ。送ってく。お前らだけじゃ帰れないだろ。
そんなレベルで来る所じゃないしな、ここ」
言ってしまったこの言葉が、今後自分の人生を大きく変える事になるとは、この時にはさすがの彼も思ってもみなかった。

まあ…もともと賞金狙いでもない、目的はゲーム内秩序を守る事なのだから、これもその一貫と言えなくはない。
しごく真面目に考えて、道々何も知らない面々に色々注意をしながら進む。

最初に助けたプリーストはここが安全地帯とばかりにしっかりと自分の真後ろにピタっとはりついていて、それがなんだかくすぐったいような不思議な気分だ。
そのどこか可愛らしい雰囲気のプリーストが唐突に口を開いた。

「…何故帰るんだ?」

一瞬何を言われてるのかわからなかった。
というか…考えてもわからない。

他の二人も同様らしくフォローがない。
しかたなしに口を開く。

『意味がわからん。帰らないでどうすんだ?』
と言った瞬間しまった!と思った。

…言い方…きつかったんじゃないだろうか…。

リアルでもしばしばきついと言われる自分の言い方でひどく傷つけたのでは、と、内心ひどく動揺する。
ところがプリーストの方は全く気にしてないらしい。

「ここでレベルあげすれば良い」
と、なんでもないことのように言う。

その様子に心底ホッとしながらも、まだゲームがわかってないらしい彼に、今度は慎重に説明した。

『えと…な、さっきも言った通りここはレベル10くらいの狩り場なわけだ。
んで?レベル4の3人がどうやってそこでレベル上げするって?』

どう考えても無理だ。
これで大人しく帰るだろうと思っていたら、彼、ギユウはきっぱり
「大丈夫っ。サビトがいるし


一瞬意味がわからなかった。
『へ?…いや…あの……いるしって……』

「サビトが倒せば経験値入るから。
俺も回復の魔法は覚えた。一生懸命回復しようと思う」

別にデジタルデータに過ぎないわけなのだが、どことなくあどけなくも可愛らしい様子で言われてしまう。

いつのまにか…頭数に入れられている??
何故??レベルがあまりに違うのは一目瞭然。

しかもどう考えても…これまでの態度を考えれば自分はきつい奴であえて一緒にとは思わないはずなのだが…

とりあえず…考え込む時間欲しさにその場にがっくりと膝をつく動作を使ってみた。
そして結論…

『…負けた……どこの……やんごとなきお姫さんなんだ?
思い切り上から目線で苦しゅう無いって言われてる気がしたぞ………』

自分にとっては経験値的にアイテム的に美味しくなくなるとか、そういう事よりもうなんというか…このニコニコ無邪気に懐いてくるギユウを突き放せなくなっている。
可愛い…と思ってしまった自分の負けだ。

勉強にしても武道にしても常に勝ち続けていた彼はこの時初めて負けを感じた。
しかしそれは意外と不快じゃなく楽しい気持ちになるものだった。





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