オンラインゲーム殺人事件5_パーティー結成(3日目)─我妻善逸の場合

40…50…59……よしっ20時っ

善逸がゲームを初めて早3日目。
だが、今まで他のプレイヤーに出会えた事がない。

もしかして時間帯が悪いのだろうか…
皆、20時ぴったりにログインしてでかけてしまっているのだろうか…

そう思って、毎日毎日他のプレイヤーを探しまわる日々にさすがに飽き飽きした善逸は、今日こそはと20時ぴったりにインしたわけだが…やはり誰も居ない。

何故誰もいないんだよーー!!と、叫んでみても、やっぱり誰もいなかった。



善逸は街をでてすぐの所でインしてるのだが、本気で他のプレイヤーに会った事がない。
みんなもしかしてもうある程度レベル上がって現地でログイン、ログアウトしているのだろうか。

あ~もうチンタラチンタラやってんのも飽きてきたな~。
マジ爽快感もないし、つまんね~。

つかさ、他のプレイヤーいないオンゲーなんて意味ないよな。
好きなジョブ選べるだけオフゲーのがまだましだ。
ミッション達成金の10万の話なきゃとっくにやめてる。

などと思いながらも、その10万のためにやめられない

しかたなしに近場の敵叩いてるうちにLv4になって装備も買い替えたわけだが…こんな事してる間にどんどん他との距離が離れていってるんじゃないだろうか。

そう思った善逸は決意した。
今日はLv上げ中断!意地でも他のプレイヤーみつけてやるっ!



そして歩き回る事10分。
ようやく人影発見!

見るからにシーフな茶色の皮鎧の少年キャラと見るからにプリーストの白い長衣のキャラ。
こちらは衣装だけではキャラの判別が難しいが2人で話している時の一人称が”俺”なので、おそらく男キャラだろう。

そんな2人が協力してやっているのかと思ってみたら、名前の横にパーティーマークついてない。
二人それぞれソロやってるようだ。意味あるのか、これ…と、思う。

二人して通常会話を垂れ流しながらそれぞれ狩り。
お互いを無視してるわけでもライバル視してるわけでもなく、なごやかにやってる模様。
様子見がてらちょっと二人から見えない所で敵を狩り始める善逸。

「ギユウさん、ちゃんと自分も狩れてますか?
なんだか俺にヒールだけして終わってる気がするんですが…」
とシーフが言うのにプリーストが

「ん。別に良い。狩れなくても問題ない。ヒールはかけられている
と答えてる。

と、その会話で善逸は納得した。
おそらく二人ともパーティー機能知らないのだろう。

こうなったら行動開始だ。
説明するならパーティー会話の方が確実だし、と、善逸は二人にパーティーの誘いを送った。

即パーティーに入ってくる二人。
不思議そうに周りをキョロキョロ見回してる。

ちなみに…会話方法は全員に伝わる通常会話の他にパーティーだけに伝わるパーティー会話、あとは特定の個人にだけ話すウィスモードがある。

まあこのままだとただの怪しい奴なので、善逸は姿を現してパーティー会話で
『こんちは。急にごめんね』
と挨拶をした。

シーフのタンジロウと、プリーストのギユウ。
案の定パーティー機能知らず、しかし二人仲良くなったから一緒にっという感じで隣で狩ってたのだとタンジロウから説明がある。

そこでパーティー機能とか基本的な事説明してやったら、すごく尊敬の目で見られた。
ゲームの中のキャラとはいえ、他人に感心されるのは悪い気はしない。

善逸が、自分も1人なので一緒に狩りたいと申し出たら、二人共快く了承してくれた。
これでようやく落ち着いて経験値稼ぎができる。




プリーストがいると本当に楽だ。
このゲームはHPやMP減ると座って徐々に回復するの待たないとならないのだが、ギユウがヒールをかけてくれるおかげで、善逸とタンジロウはエンドレスに殴れる。

もちろん、回復魔法をかける時以外はギユウはお座りで回復魔法使って減ったMPを回復。
贅沢言えばあともう一人純アタッカー欲しいところだが、エンチャンタの火力不足もシーフのタンジロウと二人で殴る事である程度補えるし、もうソロには戻れないなと思う。


『俺達…結構すごいよねっ!このまま魔王に一直線?』
俄然テンションが上がって言うと、タンジロウは──そうだなっ!と、思い切り頷くが、ギユウは無反応。

あるいはゲームに慣れていないのかも知れない。
ということは、リアル女の子の可能性も?!と、少し心浮き立ったりしてしまうのは青少年の悲しい性というものである。

まあそれはさておき確かに3人集まって強くなってきた。
魔王は当たり前に無理だが、そろそろミッション1くらいはできるのではないだろうか。
それで10万もらえるわけだし…とりあえず第一の目的は達成される。

というわけで、ゼンイツは二人にミッションの説明をした上でミッション1に誘ってみる。


受託自体はプロローグで強引にさせられてるから、ちょっと離れた山の麓の衛兵に手紙とどけるだけ。

道沿いに行けば敵には絡まれないとは思うが、そんなに街から離れた事ないから実際に遠くても道沿いなら絡まれないかは本当の所は謎。

倒せない敵に絡まれて死ねばデスペナルティで多少経験値が減ったりするが、まあこのレベルだと痛くもない。
むしろそのあたりはあまりレベル上がらないうちに試した方が良いかも知れないと思う。

ということで、二人を連れてミッションの山へご~することにする。




………が………だるい…。

山までは直線距離だとたいした事ない。
だが道はクネクネ曲がってて、道沿いに行くとすごい距離だ。

『もうさ…道沿いいくと一日終わりそうだし、直線つっきっちゃうか~』
善逸が提案すると了承する二人。

かくして…彼らはモンスターに絡まれるの上等で草むらをつっきる事にした。
まあ…倒せるはずだったのだ、”地上の”モンスターなら。

ところが3人はいきなり草むらに隠れてた落とし穴に落っこちた。



ズザザザザ~っと転げ落ちるとそこは暗い洞窟。

やばいよな…。
と善逸は焦る。

どうみても上級者向けの狩り場。
地上の敵はRPGでは最初の敵としておなじみのスライムとかだったが、こちらコウモリだ。
強さはわからないが、まあスライムより数段強いのは確かである。

『…ここはどこだろう?』
と、タンジロウがあたりを見回しながら言うが、そんなの善逸にだってわかるわけがない。

『死んで戻るしか…ないのかな…』
なんてなさけない台詞しか出てこない。

言ってから思い切り自己嫌悪に陥る善逸を尻目に

「さすらってればいつかはどこかに辿り着くのでは?」
と、いきなりフラフラと歩き出すギユウ。

おいおいっ!!!

『うあああ~!!ギユウさん、待ってっっ!!!』
と、悲鳴を上げるタンジロウ。

やばいよ、この人コウモリに突っ込んでるよ。
アクティブかどうかも確認せずに……
マジ、天然なのかよっ!!

と、善逸も慌ててあとを追う。


案の定絡まれるギユウ。一撃でHP真っ赤。

あ~あ…と善逸が半分あきらめのため息ついてたら、ザクっと一刀両断にされるコウモリ。

いきなり闇に浮かびあがる青白い大剣を担いだベルセルク。
まるで何かの主人公のようにカッコいい。
NPCのヒーローか何かか?と思っていると、

そのベルセルク、サビトは回復もしないでボ~っとしているギユウに

「とりあえず自分を回復しとけ」
と声をかける。
まあ、もっともな意見だ。



そろってレベル4な善逸達と違ってレベル10。
3日でLv10か~。
やっぱりジョブ格差なのかなぁ…思ってると、サビトは善逸とタンジロウにも気付いたらしくビシっと指をさして叫んだ。

「そこの馬鹿二人っ!!いますぐコウモリの群れに特攻して100回死んで来いっ!!」

言われて善逸は頭を抱えたくなった。

あ~そうきたか~。
確かに攻防微妙とは言え一応このパーティーの中じゃ前衛な二人がいて、一番柔い後衛のプリーストを前面で歩かせてたらそりゃあ外道に見えるよねぇ。
でもまあ…初対面の人間にそこまで言われる筋合いはないわけだけど…と、それでも思っていると、

「初対面でそれはさすがに失礼だとおもう!!」
と、善逸は心の中で思ってただけなのだが、タンジロウがバカ正直にそのまま口に出した。

まあ…気持ちはわかる。
というか、善逸もそう思うが、今の現状を考えたら突破口になるのは、おそらくこの辺りの敵を撃破できるLvと力があって、とりあえずギユウの事は助けてやってもいいって思ってるらしきこのベルセルクだけなわけで…。

喧嘩しても良い事ないよな、などと非常にあざとい考えの元に善逸はそれをなだめる事にした。

「仲間を助けてくれてありがとう。
俺たち慣れてない上に、落とし穴に落ちてここにきちゃって戸惑ってるうちに絡まれちゃって…」
ヘラっと表でベルセルクに言いつつ、パーティー会話では
『とりあえずお礼が先。助けてもらったんだし』
とタンジロウをなだめる。


すると、

「ギユウさんを助けてくれた事は…お礼を言います。ありがとう!
でもいきなり100回死んでこいはないんじゃないですか?
それにゼンイツは馬鹿じゃないです」

一応説得はされたらしい。
されたらしいが、こいつは思った事をそのまま口に出さずにいられない性格なのか、余計なことまで全部言う。

これじゃ相手の機嫌取るの無理だろ…最悪…やっぱり死に戻りかなぁ…などと善逸が考えていると、ベルセルクのサビトは今度はいくらか冷静な感じに

敵から後衛守るのが前衛の仕事だろう。
後衛は装備できる防具も柔いし受けるダメージも違うんだからな。
前衛がちゃんと守んないとすぐ死んでしまうだろう?」
と、諭し始める。

その言葉に、そんなのわかってるんだけどさ~、しかたないじゃん?とか思ったのは善逸だけだったらしい。

なんとタンジロウはあっさり
そうだったのか!
ゲームってほとんどした事なくて、パーティー組んだのも今日初めてだったから全然知らなかった。
これから気をつけます。教えてくれてありがとう!!」
と、ペコリと頭を下げた。


はあ?え?ええ??
いきなり態度180度変わっちゃうの??
普通もう少し躊躇みたいなものない??

と、善逸は驚いて、そこでチラリと今度はサビトの方を伺うと、サビトの側も

「わかればいい、覚えておけ」
と、これまたあっさり収めた。


なんというか…ずいぶんとすっきりした奴らだなぁ…と、善逸は感心する。


まあでも怒りはとりあえず収められたみたいだから、これで交渉可?とさらに思ってると、サビトはなんと自分の方から

「とりあえず…俺をパーティーにいれろ。送ってく。
お前らだけじゃ帰れないだろ。そんなLvで来る所じゃないしな、ここ」
と申し出てきた。

もちろん善逸達の方に異存があろうはずもなく、謹んで申し出をお受けする。
そこでまあ善逸もわかった気がした。サビトはいわゆる委員長タイプなのだろう。

あれだけぶっきらぼうで俺様な感じの初対面とは裏腹に、帰る道々、聞きもしないのにこのあたりの敵についてとか、このゲームでの注意点、ひっかかりやすい罠の事など色々親切に教えてくれる。

ジョブ格差とかもあるけど、こいつの知能的なスペックが高くてこのLvなのかも。
と、善逸は思った。

最初の時点では同じだけの情報しか与えられてないのに、必要な情報をすごくピンポイントで集めている気がする。

その一方で、たぶんこいつなら1億狙えるかもと思える感じなのに、それとは裏腹に1億取る気ないんだなと思うくらいに人がいい。

なにしろ初対面の自分たちに

「ここはだいたいレベル10くらいで少し強めに感じるくらいの敵がいる場所だ。
だから道々絡まれたらとにかく俺の近くにこい。敵のタゲとってやるから。
で、敵が一度に2匹以上来たら、俺がタゲとって出口と反対方向に走るから俺と反対方向に逃げろよ。
そこからはなるべく敵から距離とって絡まれない様にな」
などと言うくらいだ。


それに対して善逸がさすがに
「んで?サビトどうすんの?死んじゃわない?」
と聞くと
「そりゃ死ぬな」
「いいん?」
「それが前衛だから無問題だ」

うあ~お前勇者かよという感じだ。
もうあれだな、クラスの安全は俺が守るくらいな感じ?
と、善逸は呆れ返った。

こいついると今後楽だよな~などと思いつつも、でも接点なさすぎな現実。
Lv倍以上だし、俺らは便利でもこいつにしてみたらずっと行動共にするメリットなさすぎ。
たまにみっそん関係の質問ウィスでも送って関係つないでおくか~などと善逸が秘かに思ってると、いきなりギユウが

「…何故帰るんだ?」
とのたまわった。

え~っと…ここで何するんですか?
サビトいないと俺ら即死しますが?
つか、サビトが俺ら送ってくれる気があるうちに帰っておかないと死に戻りなんですが?

色々な質問が頭を回って、ゼンイツも何から切り出していいかわからない。
タンジロウもとっさにどう反応していいかわからなくて答えを探しているらしく無言。

でも使命感に燃えるサビトは頑張ってその電波につきあうつもりらしい。

「意味がわからん。帰らないでどうすんだ?」
と、答えた。

まあ…すごく端的にして的確な質問だ。
やっぱりこいつ頭いいや。
と心のなかで大絶賛中の善逸。

しかしギユウのわけのわからなさはそのさらに上を行っていた。

「ここでレベルあげすれば良い」

まあ…ゲームをやったことないらしいし…わかってないんだなとお前…と納得のギユウの答えに、サビトはまた答えた。

「えと…な、さっきも言った通りここはLv10くらいの狩り場なわけだ。
んで?Lv4の3人がどうやってそこでレベル上げするって?」

そこまで律儀に説明せんでも…”ここの敵強いんだからお前らに倒せるわけないだろ”で、良い気がするんだけど…と善逸の心の声。

こいつ…マジ良い奴じゃない?と思うが、…その後のギユウの言葉…

「大丈夫っ。サビトがいるし」

え?え?え?

「へ?…いや…あの……いるしって……」
さすがのサビトも戸惑って口ごもった。

「サビトが倒せば経験値入るから。
俺も回復の魔法は覚えた」

どこか得意げに言うギユウに善逸は頭を抱えた。

「一生懸命回復しようと思う」
とさらに続く義勇の言葉に、そこでサビトはがっくり膝をついた。


もう…どうしようって感じだよな。
理由説明してもおもいっきり無駄っつ~か、意味ねえよ、多分。
どうする委員長。流されるか?と善逸が思ってたらホントに流されたっ。

「…負けた……どこの……やんごとなきお姫さんなんだ?
思い切り上から目線で苦しゅう無いって言われてる気がしたぞ………」

こうして…半ば強引に(?)サビトは善逸達のパーティーに引きずり込まれる事になった。

すごい。天然は全ての頂点にたつものなのか?最強なのか?
と、善逸は驚きつつも、おそらく何も考えては居ないのであろうギユウに心のなかで拍手喝采を送った。




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