続聖夜の贈り物_4章1

「ど~こ~いくんだ~~!!」

ギルベルトはこそっと窓から部屋を抜け出そうとしたアーサーの襟首をつかんで、窓枠から引きずりおろした。
引きずりおろされたアーサーは無言でしゃくりをあげている。

その相変わらずな様子にギルベルトはため息をついた。


王の館からねこのみみ亭につくと、昨夜から寝ずに駆けずりまわっていたギルベルトは、他への連絡はフェリシアーノとルートに任せて、一休みしようと部屋へと戻る事にした。

当然王の館で、『1m以上離れる事は禁止だ』と宣言した通り、アーサーも連れてだ。


そしてしっかり腕を掴んで部屋のドアをくぐった瞬間、いきなりアーサーが何かプツンと切れたように泣きだした。


『なんだ?どうしたんだ?どっか痛いのか?』
と聞いても無反応で、ポロポロ涙をこぼす事1時間。

いい加減脱水症状も怖いのでとりあえず水分を取らせようと、アーサーからしっかり魔法装備を取り上げた上で、水を汲みに続き部屋にある水道に行って戻るまで約1分。
戻ってみると窓枠に足をかけたアーサー発見。身柄確保←今ここ、という感じである。


こぼれおちそうなくらい大きな瞳に涙をいっぱいたたえて悲しげに泣くその様子は幼い子供のようでどうにも痛々しく、ギルベルトの胸の方がチクチク痛む。

「なあ…どうしたってんだよ?
俺様に教えろよ。
そんな風に泣かれてるとマジ俺様の方が辛いんだけど?」

ギルベルトは床にへたりこんだままのアーサーの前に自分も座り込んで、ぎゅうっとアーサーの頭を抱え込むように抱きしめると、小さな子供にするように、そのぽわぽわした手触りの金色の髪をソッとなでる。

「…にたい……」
そこで初めてアーサーが口を開いた。

「ん~?わりっ、声ちっちゃくて聞こえねえ。もういっかい言ってくれ」
ようやく口を聞いてくれた事にホッとして、ギルベルトはその小さな声を拾おうと、アーサーの口元に耳を寄せる。

しかし今度ははっきりと拾えたその言葉は、ギルベルトが一番聞きたくない言葉だった。

「…死にたい……」

実際に行動にも出られたそのアーサーの望みは断固としてかなえてやるわけにはいかない。
自分の方がいい加減泣きたい気分になってきたが、ギルベルトはズキズキと胸が痛むのを押しこめて、うつむくアーサーの柔らかな頬に両手を当てて上向かせた。

「なぁ…なんでそんな事思うんだよ?
確かに今後面倒な事あるかもしれんけど、怖い事、危ない事からは俺様が責任持って守ってやるから、アルトはなんにも心配しなくていいんだぜ?」
ギルベルトの言葉にアーサーはギュッと目をつぶって、ふるふると首を横に振る。

「そんなんじゃない」
吐き出すようにそう言うと、アーサーは今度は自分から顔をあげてギルベルトに視線を合わせた。

「俺が面倒なんて別にいいんだ。
物心ついてから面倒じゃなかった事なんてなかった。むしろ楽しい事、楽な事なんてなかったし、全然構わないんだ」

結局アーサーが今何歳なのか聞いていない。
でも少なくとも10年以上は生きてきて楽しい経験がないと言うその告白に改めて胸が痛んだ。

「楽しい事なんていっぱい教えてやるよ。
楽だって、大変なことは俺様が一緒に手伝ってやるし、これからは楽したらいいだろ?」

生まれてすぐ吹きさらしの箱の中に捨てられて、生を受けて初めて感じたのがつらい世の中だけだった子猫を拾ったような…そんな切なくも愛おしい気分になる。

寒かった外の世界など忘れるくらい、甘やかして甘やかして可愛がってやりたい。

ぎゅうっとまたギルベルトが抱え込むと、アーサーはワタワタとその拘束から逃れようとする。

もちろん力の差は歴然としていて逃れようはないのだが、それでもなんとか頭だけは自由になって、アーサーは
「そんなのダメなんだよっ、ばかぁ!!」
と叫ぶと、またポロポロと泣きだした。

「もう取り返し付かねえけど…俺、お前やフェリの人の良さにつけこんでるっ。俺のせいで人生狂わせてるっ。
本当は大切だと思う奴らに囲まれて楽しく平和に暮らせたはずだったのに、俺のせいで追われるみたいに国捨てて、危険な目にあって、あんな物騒なモン取り込んで人生まで捨てさせちまった。
なんでなんだよ…?
なんで生きてるだけで…存在するだけで他人を不幸せにしちまうんだよ…」

ああ…そっちだったのか…。
想像できなかったわけじゃないのに、どうにもアーサーの思っている事と自分の理解はずれていく。
おそらくそれはアーサーの方も……

「なあ…王の館で聞こえてたんだろ?俺様、全然不幸じゃねえんだけど?」
ギルベルトはまた嗚咽をもらすアーサーの頭を抱え込むと、自分の胸に押しつけた。


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