ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん原作_6

女子校の学園祭…それに男子高校生一人で行くのは日頃女の子に囲まれまくっているユートでもなかなか勇気がいる。
それでも平和な生活の為にとユートは女の園に足を踏み入れた。


美しい細工の門をくぐると校庭までは遊歩道のようになっていて、道の左右にはバラのアーチ。
途中には座って休める様に藤棚の下に優美なベンチまである。

いかにもあのお姫様オーラを振りまいて歩くフロウが通っているお嬢様学校だな、と、ユートは感心した。

校舎に行く途中にある、こちらも優美な佇まいを見せるチャペルの前では生徒達がパンフレットを配っている。
ユートもそれを一部もらうと、目を通した。

来たはいいが、どうやって探そうか…。
会いたくない時は嫌でもいるのに、会いたいと思う時にはいないのが困った物だ。


ユートが人ごみの中をプラプラ歩いていると、少女達の黄色いおしゃべりが聞こえてくる。

「ね、さっき私風早先輩にお会いしちゃった♪」
「あ~、なんだか素敵な方連れてらしたわねぇ」
「うんうん。優波姫の閣下みたいに凛々しいのも素敵だけど、風早先輩だったらやっぱりああいう貴族っぽい美少年と絡んで耽美な世界っていうのもお似合いよねぇ」

…なんだかすごい会話である。

どうやら学校でも”姫”ならしい有名人なフロウをしょっちゅう学校まで送り迎えしているうちに、コウも一部では有名になっているらしい。

というか…自分の学校、海陽だけでなく、聖星(こっち)でも閣下なのか、コウ…と、ユートは少しおかしくなって一人吹き出す。


そうだ…藤を探そうか…と、ユートは思いついた。

聖星の人間についての詳しさについては他の追随を許さない人物だと姉の遥が言っていたのを思い出して、ユートは藤を探し始める。

高校を卒業して付属の大学に行った後も、その凛とした雰囲気と少し中性的な美貌で女子校の少女達にとっては変わらず憧れの存在らしい。
行く先々で歓声が上がるので藤を探し出すのは簡単だった。


廊下で下級生に囲まれている藤を見つけると、ユートは
「藤さんっ!」
と声をかけるが、女子高生達のキャイキャイ高い声にかき消される。

かといって女子高生を押しのけていくと、下手すると触れてしまって痴漢扱いされかねない。
困っているユートを見つけたのは、和馬だった。

「どうした?近藤。ヤンデレに追われてるんじゃなかったのか?」
言って、藤の隣からユートに声をかけつつ
「ちょっと知人を見つけたので、失礼」
と、にこやかに周りに声をかけると、女子高生に道を作ってもらってユートの所にまでくる。



「猫かぶり中なわけね」

そのいつもの偉そうな態度を押し込め礼儀正しい態度を見せる和馬に、ユートは思わずいつもは一方的に言われるだけの皮肉を口にしてみるが、和馬はニコリと

「TPOがわからない愚民とは違うからな。
ましてや自分以外の人間の交友関係に響くとなれば、そこで気遣いができないのは単なる愚か者だ。それがわからない凡人と一緒にされてもな」
と、恥じる様子はない。

まあ…少しムッとするものの、今は和馬と喧嘩している場合じゃない。

「藤さん呼んで下さい、お願いします」

もう…プライドにこだわってる場合でもない。

疲れた様子でそういって頭を下げるユートに和馬は一瞬ぎょっとして、それからコソコソっと
「そんなに…追いつめられた状況なのか、お前…」
とささやく。

「マジ…昨日は”魔王に呪い殺されちゃいますよぉ!!”と叫ぶ電波に追いかけられながら新宿中を逃げ回りましたけど、それが何か?」
疲れきったユートの言葉にブッと和馬が吹き出した。

「ホント…笑えないんだけど?」
笑う和馬に疲れた視線を送るユートに、憔悴した人間をいたぶっても面白くなかったらしく、和馬は肩をすくめた。

「仕方ない、情報くれてやるから片がついたら顛末を報告しろよ」
「情報?!」
身を乗り出すユートに和馬はうなづいた。

「さっきな、コウ達といた時にその電波が来てな、それで判明したんだが…聖星の学生じゃないぞ、そいつ。顔見て確認したんだが誰も知らん」
「そ…そんなぁ…」
なんのためにここまできたんだ…脱力しかけるユート。

だが和馬の続く言葉
「だが…白鳥有栖な、愚民のお前は知らんかもしれんが、有名な女流画家だ。俺達と同じ年のな。
まあ…そんじょそこらの高校生がそんなの知ってて名乗らんだろうから、たぶん本人だ」

「へ??あの電波が?!!」
「ま、天才となんとかは…というしな。逆玉に乗れるぞ、良かったなw」
からかう様に言う和馬に、ユートは
「要らん!」
と即答。

それにもクスっと笑いをもらすと、和馬はさらに続けた。

「ついでに制服の出所も教えてやろう。
そいつの母親の再婚相手の娘がこの学校の3年だ。
で、たぶんそいつの制服をがめたんだろう。
ま、俺らが知ってるのはそのくらいだ。
再婚相手の娘はダンス部らしいから体育館にでも行ってみたらどうだ」

ああ…こいつが天使に見えるなんて重症だ…と思いつつ、ユートは心から和馬にお礼を言う。

それに対して和馬は相変わらず
「せいぜいヤンデレと一緒に電波受信してこい!
俺はディスプレイの外側で見物するだけで充分だから」
と皮肉を返し、

「殿下~、殿下も記念写真お願いしますぅ~」
という女子高生の黄色い声に藤の元へ戻って行った。

和馬と分かれてユートは体育館に急いだ。

現在10時半。
11時までダンス発表会があるはずだから、待っていれば話くらいは聞けるかもしれない。


「あの~、すみません、白鳥さんてどの人ですか?」

体育館に駆け込んで舞台のそでで待つ事20分。
出てきたレオタードの女子高生にヘラっと声をかけるが…当然…警戒される。
まあお嬢様学校だ。男子高生がいきなり声をかけてきたら、少し引く。

困ったなぁ…と少し俯いた時に、胸元から首から下げたロケットがサラっとこぼれ落ちた。

「あ~!もしかして優波姫の!それって閣下もなさってたペンダントですよねっ!」
一人がそれに目を止めて、わらわらと女子高生達に囲まれる。

「うそ~、意外に普通の人ですねぇ~」
「あら、閣下と比べちゃだめよ~。
閣下は”あの”優波姫の想い人でいらっしゃるんですもの」
「そうよねぇ~、風早先輩と比べてひけを取らないくらいの男性じゃないと優波姫に並べないものね」
「でもこの人だって一般人としてはまあまあだと思わない?」

一般人としては…ですか…と、ユートは内心ため息。
まあ…別にここにいる目的は女子高生達の人気取りではない。

「えと…申し分けないんだけど白鳥さんてどの子かな?少し聞きたい事があって…」
「あ、白鳥先輩ですか~。さっきまでいらしたんですけど…どこでしょう…」
「午後からロミオとジュリエットでロミオやるから大急ぎで着替えて食事かもですね~」

どうやら見当たらないらしい。

そのとき
「あ~ユートさま♪アリスに会いにきてくれたんですねっ♪やっとアリスの事思い出してくれました?」
と、後ろから抱きつかれる。

出た~!!!



「あ、すみません。みつからないようだからまた今度で…」
女子高生たちにお礼を言うと、ユートは抱きついている腕を強引に引きはがした。

「あ~の~ね~、とりあえず…なんでここの生徒でもないのに聖星の制服着てるかから説明してくれる?」
くるりと振り向いて言うユートにアリスはにっこり

「だって可愛いでしょ♪アリスにぴったりだしっ。
ここの制服着てると他の人も優しくなるしね♪」
と悪びれずに言う。

そのおかげで俺はこんなところまで…と、内心ため息をつくユート。

そんなユートに構わずアリスはにっこり
「そんな事よりね、愛を語り合うのにぴったりの場所があるのよ、行きましょ♪」
とユートの腕を引っ張って行く。

「ちょ、なんで俺がっ!」
あわてて腕を振りほどこうとするユートだが、アリスは腕はがっちり掴んだままピタっと足を止め

「えと…一度だけ。そこでね、一度だけ前世で言ってくれたみたいにアリスの事好きだって言って?
現世では…魔王の呪いが強すぎて二人は幸せになれないらしいの。
だから…来世まで待つから」
と少し潤んだ目でユートを見上げた。

「アリスは絶対に忘れない。
生まれ変わったら絶対にまた探し出して会いにくるからっ!」
ホロリと大きな目から涙がこぼれ落ちる。

ユートは迷った…が、それで気が済んで諦めてくれるなら…と、しかたなしについて行く事にした。


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4 件のコメント :

  1. ジュリエット殺人事件とヤンデレ...の6のリンクがhomeに繋がってしまいます。お時間の有るときに修正お願いします🙇

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    1. ご報告ありがとうございます😀
      修正いたしました。
      また何かありましたら、よろしくお願いします😄

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    2. 素早いご対応ありがとうございます💛…😢でもジュリエット殺人事件(オリジナル)の方が読めません。お時間のある時にご確認ください。

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    3. あ~、ジュリエットは6じゃなくて、メニューから飛ばない感じでしたね。
      勘違いしてました😅
      修正しました。
      ご報告ありがとうございました😊

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