ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん原作_5

翌日…流星祭。

待ち合わせは10時正門前。
9時に出れば十分間に合う訳だが7時起き。

去年出会った頃よりは若干長い肩くらいの髪をアオイは一生懸命とかす。


そして…滅多にしない化粧。
服装も自分的には少しばかりおしゃれにしてみたのだが、待ち合わせの場所に着いてがっくりと肩を落とした。

正門前に待っている二人…コウとフロウ…二人とも制服なわけだが、充分すぎるほど秀麗なカップル。
もう元が違う。
キラキラしい二人に周りの人間がみんな振り返って行く。

少し気後れして躊躇しているアオイの耳に聖星の生徒達の

「優波姫何なさってるのかしら。
閣下と並んでいらっしゃるとやっぱり絵になるわよねぇ」
「待ち合わせなさってるのかも…。いつも4人で色々なさっているって話だから…」
「ああ、じゃあ今日はあとのお二人もいらっしゃるのかもしれないわね」
「あのお二人のお友達ですもの、やっぱり麗しい方々なんでしょうねぇ」
という、ささやきが耳に入ってきた。

とてもじゃないが…周りの視線が怖すぎて近づけない。

早く野次馬が行ってくれないかと待っているが、なかなか人は途切れない。

「あれ、アオイちゃん?」
そんな時いきなり後ろから肩を叩かれた。

驚いて振り向くと、綺麗な人影。

「あ、藤さん。ご無沙汰してます。いらしてたんですか」
風早藤。ユートの姉の遥の友人で、コウとも姉弟のように仲が良い女性だ。
アオイともユートつながりで2回ほど一緒に旅行に行った事がある。

「まあ、ここの卒業生だからな。どこぞの都立の女子高生が来ているよりは自然だな」
アオイの言葉に皮肉な声が返ってきた。

「金森さんも…いらしてたんですね」

金森和馬…コウが生徒会長時代に副会長を務めた当時のコウの右腕。
前回の旅行で一部から敵対心を向けられていた藤の護衛を務めた事で、藤とはかなり親密になった関係で今ここにいるのだろう。

だが、物理スペックが非常に高いわりに自意識が異様に低いコウとは対照的に、常に一般人を愚民と称する思い切り上から目線の毒舌家の和馬の事は、アオイは少し苦手だった。

少し顔がひきつるアオイに楽しげな視線を送る和馬。

「いらしてなければ良いのにと顔に書いてあるな」
いたぶる気満々と言った感じの和馬の言葉に、アオイは涙目になった。


「こら、そうやって弱いものいじめしない。
アオイちゃん、弟と待ち合わせなんじゃないの?そこにいるよ?」
藤がそれに気付いて和馬に注意すると、アオイに笑いかける。

「あ、はい。そうなんですが…」
アオイがそう言ってちょっと困ったような顔をすると、藤は
「一緒に行こうか」
と、手を差し出してくれた。

「はい。ありがとうございますっ」
アオイは心底ホッとしてその手を取る。


「あ、アオイちゃん♪藤さんと金森さんと一緒にいらしたんですね♪」
風早先輩だ~♪という生徒達の黄色い声でアオイ達に気付いたフロウがにっこり可愛らしい笑みを浮かべて手を振ってくる。

「姫~、夏休み以来だね♪どう?元気?」
藤はそれに向かって手を振るとかけだした。

フロウは以前藤とは流星祭恒例の中等部と高等部合同の演劇ロミオとジュリエットで共演した、藤にとっては亡くなった親友にそっくりな雰囲気を持った最愛の後輩である。

「優波姫が待ってらしたのって風早先輩だったのねぇ♪」
「ロミオとジュリエットの再会ね~」
周りがきゃぴきゃぴ騒ぐ。
自分に注目が来ない事にホッとするアオイ。

「ユートはやっぱり今日は一緒じゃないんだな」
そんな二人から少し目を離して、コウはアオイに言う。

「そう言えば珍しいな」
そこで初めて気付いたように和馬が目を丸くした。

「どうしたんだ?あの凡人は」
「ん…実はな…」
コウが事情を説明すると和馬が吹き出した。

「いわゆるヤンデレという奴かっ!やるなっ、凡人!流行先取りだっ」
ケラケラ笑う和馬に
「笑い事じゃないぞ…。おかげで俺まで”お兄ちゃん”とか言われたぞ」
と、コウが顔をしかめる。

「いいじゃないかっ。お前そういうの好きそうな気がするがっ。
愚民の世話とか好きだし」
「電波な妹なんて要らん」
「電波な彼女ならいいのか?」
「姫は電波じゃないっ!”やんごとない”だけだっ」

もういつもの台詞…。

「電波とやんごとないってどう違うんだ?」
みんながそれで流すところをわざわざそう返すのが和馬だ。

それに対してコウはきっぱり
「”やんごとない”のは、そのわけのわかんなさを理解できない自分が全て悪いって気にさせられるくらい可愛いんだ!」
と力説。

和馬に
「なかなかすごい血迷いっぷりだな。」
と呆れられる。

まあアオイは
(ああ、そうだったのか…)
と、言葉通りとって納得してしまったわけだが…。


そこに噂をすれば…
「お兄ちゃんっ!アリスに会いにきてくれたのねっ!」
いきなり現れる電波。

「コウ…こいつ?」
指を指す和馬にコウはため息で答える。

「俺はお前みたいな妹持った覚えはないっ!」
きっぱり拒絶するコウ。

アリスは隣にいるアオイに気付き、ドン!と突き飛ばした。

その拍子に有栖の小さなバッグの口が開くが、それにも構わず
「お兄ちゃん騙されてる!こんな女に近づかないでっ!魔王に呪い殺されちゃうよっ!」
と、叫ぶアリス。

「なかなかすごい電波っぷりだなっ」
爆笑している和馬と涙目のアオイ。

コウが怒鳴ろうとした時、気付いたフロウがかけよってきて、コウとアリスの間に割って入った。

「大丈夫っ。コウさんにはちゃんとマリア様のご加護があるように私が日々お祈りしてますっ!
それより…コウさんの事何も知らないのに妹なんて名乗らないで下さいっ!失礼ですっ!」
珍しく怒った顔のフロウ。
まあ…怒っても可愛くて怖くはない訳だが…。

しかし圧倒的に可愛らしいその美少女の乱入に、アリスは少し引きながら
「し、知らなくないもん…」
と口ごもる。

「知るわけありませんっ!マリア様に誓ってもいいですっ。
コウさんにはちゃんと名前も書いてありますし、全部丸ごと私のなんですから、私の許可なくコウさんの事知ってるわけないですっ!」

あまりにきっぱりとした意味不明の言葉に、アリスはウッと口ごもった後に、いきなりクルリと反転して駆け出して行った。


「すっげえ!電波対決姫圧勝?!
許可なくって何?許可なくってっ!!知るのに許可必要かっ?!
もう和馬は大ウケである。

「フロウちゃん…すごい…」
アオイは拍手したい気分で尊敬の眼差しをフロウに送った。
自分もあんな風に撃退できたらどんなにいいだろう…。

当のコウは藤にボソボソっと
「どうしよう…少し嬉しいと思ってる自分が…」

そしてそれに対して藤は
「いや…それは正しい。羨ましいよ、弟」
とやはりボソボソっと答える。

「そこのプライドない姉弟、何二人でコソコソ馬鹿な話してるっ!」
それに対して和馬が呆れた声をあげた。

「で…誰です?あの失礼な方」
まだぷ~っと可愛らしく頬を膨らましたまま、フロウがコウを見上げて聞いた。

「えと…な、ユートに粘着してる電波」
「粘着?」
不思議そうに首をかしげるフロウに
「ようは…ストーカーみたいなもんだ」
と、コウが説明すると、フロウは可愛い眉を寄せて
「怖いですね…。コウさん追い回されなくて良かったですね」
とコウに抱きついた。

「そもそも…あんな方初めて見ました。
身元わからない方が学校の制服着てるのって気味悪いです」
「身元がって…姫学校中知ってるわけじゃないだろ?」
「うちの学校…一学年100人いないので…高等部だけだと全校で300人いませんから」
「そそ、ほとんどが幼稚舎からの持ち上がりだから高等部だと15年ほどほぼ同じメンツだしね…。前後の学年も同学年ほどじゃないにしても顔見て過ごすから、名前と顔が一致しなくても見覚えくらいはあるよね。」
フロウの言葉に藤もうなづく。

「たださ…人数少ないだけに、制服もほぼ指定の店で作ってもらう感じだし、全く関係ない人間の手には渡らないと思うんだけどな…」

「とりあえず名簿調べて見るとか?名前は?」

和馬の言葉にアオイが
「白鳥有栖…」
と言うと、和馬は
「白鳥有栖?!それってもしかして白い鳥に有無の有りに木へんに西の栖?!」
と身を乗り出した。

「なに?知ってるの?和馬」
藤がちょっと驚いた顔で和馬を見た。

「知らないんですか?今話題の女流画家ですよっ。
100年に一人の天才と言われていて、その作品の価値が今すごく上がってるんですよ。
確か今俺らと同じ年だとか…」

「そんな…すごい人なんだ…」
呆然とするアオイ。

自分より可愛くて…しかもそんなすごい才能がある少女…。

落ち込むアオイの横でコウは
「あんな電波にも取り柄はあるんだな。まあ…迷惑なのは変わらんが」
と淡々と言う。

その後先生に挨拶に行くという藤と、それについて行く和馬と分かれて、3人は校内へと入って行った。


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