が、ギルベルトはこちらも弁護士を通して、ローンも名義も本人達がいる場所で本人達が納得した上で変更手続きを行って、さらに有責配偶者に対して責任を問わないどころか十分すぎる金銭を渡すことまでして籍を抜いて、すでに婚姻関係は完全に終了しているのだから、金が足りなくなるたび無心されるのはキリがないしさすがに迷惑だと返した。
弁護士からは、ギルベルトから上司へ送った謝罪メールに関しては、元妻の再婚相手である浮気相手に伝えたいことがあるが、元妻と浮気相手とは弁護士を通して互いに接触禁止となっているので、自宅住所がわからず…という、自宅住所がわからないことに対する事情説明のみで不貞で再婚した旨などの記述は一切なく、そのあとの事情については上司が色々調べて発覚したことなので、ギルベルトが故意に陥れようとしたとは考えられない。
慰謝料自体も飽くまで浮気相手になんらかの被害が生じないようにという気遣いであること。
逆にこれ以上ギルベルトにしつこくつきまとうようであれば、通常の慰謝料を請求することを勧めることも視野に入れることなどを言われて、元々本人も少しでもお金が取れれば程度のダメ元で言ってきたらしく、引き下がっていったとのことだ。
その後…エリザが人を雇って調べさせたところによると、結局離婚時の預金が尽きた翌月からローンを払えずマンションは競売にかけられ、結局差し引きで1600万ほどの負債が残っていた。
それだけの負債を抱えて失職。
浮気相手はローンの額を勘違いしていたお前のせいだと元嫁を罵るも、ローンも共同名義になっているので、離婚しようと何をしようとどうしようもない。
二人で風呂トイレ共同のボロいアパートに住みながら、男は日雇い、元嫁は水商売で暮らしているらしい。
そんな殺伐とした元嫁達とは対象的に幼馴染3人と2人の子ども達の生活は、相変わらずふわふわと和やかに続いていた。
赤ん坊のエディがある日、初めて発した言葉は
──う~っちゅ?
最初はそれが何か誰にもわからなかった。
しかしそれからフリッツが離れていると、う~っちゅ、う~っちゅ、言いながらハイハイでその姿を追いかける。
それで最初にアーサーが気づいた。
「もしかしてエディ…『フリッツ』って言ってるのか」
と、そう口にすると、フリッツは父親譲りの赤い目をまんまるく見開いて、それから自分の方に一生懸命はってくる赤ん坊に駆け寄って抱きしめた。
そして、
「な、アルト!もしかしてエディも俺様のこと好きなのか?」
と、赤ん坊を抱きしめたまま床にぺたんと座って自分を見上げてくるフリッツに、アーサーが
「そうだな。
いつでもフリッツのこと追いかけてるし、フリッツのこと大好きだから一番最初にフリッツの名前呼べるようになったんだな、きっと」
というと、これも父親譲りの綺麗な白い顔が、赤く染まる。
そっか…そっかぁ…と、嬉しそうに繰り返すフリッツ。
そして、エディの赤ん坊らしくふっくらとしたバラ色の頬にちゅうっと口づけて
「俺様も、エディのこと好きだ。世界で一番大好きだからなっ!
ずっとずっと一緒に居て、世界で一番幸せなお嫁さんにしてやるからなっ!」
と言うと、言葉はわからずともエディにもなんとなく気持ちは伝わるらしい。
きゃっきゃっと笑いながらフリッツに抱きついている。
そんな2人をよだれを垂らしそうな勢いでガン見して速攻デジカメを構えて凄まじい勢いでカメラのシャッターを切るエリザに、
「…楽しそうだな、おい」
と、呆れた目を向けるギルベルト。
しかしエリザはそんな呆れた視線もものともせず
「楽しいわよっ!うちの子達は世界で一番可愛いわっ!!!」
と、叫ぶ。
そうしてひとしきりハシャギながら写真を撮り終わると、ふ~っと一息。
「エリザ、紅茶淹れたから」
と、アーサーが渡してくるアイスティをゴクゴクと飲み干し、そして宣言。
「あの子達がそれなりの歳になったら、今度こそあたしがちゃんと教えてあげるから。
家庭ってね、男と女と子どもがいれば成り立つとかそういうもんじゃないってね。
だって男女だって子どもできない夫婦はいるし?
シングルファザーやシングルマザーの家だってちゃんと家庭だわ。
形式じゃないのよ。
暮らしを共にしたい大切な相手がいる場所が家庭なの。
だから逆に父母と子どもの家じゃなくたって、あたし達だって5人で家族で、ここは立派な家庭だわ。
大人3人は全員、父でも母でもなくて、あの子達の親。
そうじゃない?」
そのエリザの言葉に、ギルベルトは目から鱗が落ちた思いがした。
正直、ギルベルトは自分の方がエリザよりも頭は良いと思っている。
成績も良かったし知識もある。
だが、こういう多様性と柔軟な発想は本当に彼女にはかなわない。
それが自分にあったなら、あんなにアーサーを傷つけたりはしなかったし、こんなに遠回りをすることもなかったのだが……
そんな事を考えて少し凹んでいると、いつのまにか寄り添っていたアーサーが自分にもアイスティのグラスを渡してくれて、
「…エリザはすごいな。
自由で柔軟で…でも、決まった目的を達成するために計画立てたり、きちんと物事を順序立てて進めていくのはギルが一番だよな」
と言えば、今度はエリザが
「で、あたしは大雑把で、ギルは細かすぎて…ふたりともウェットというか柔らかいところがなさすぎで、小さい子どもの心の拠り所になるには少しばかり向かないのよね。
フリッツもエディもなんのかんので眠かったり甘えたかったりする時は、アーサーいないとぐずるし。
部屋だって、あたしに任せれば放置で汚部屋。ギルに任せればちり一つないけど潤いのない空間になるけど、アーサーだと適度に綺麗で温かい場所になるし、まあ3人3様で良いバランスなんじゃない?」
と、それに付け足す。
言われてみれば全くその通りで、確かに幼馴染3人揃えば、それで大抵の事は解決する気がしてきた。
こうして大人は全員が親で、子どもは全員の子どもという、奇妙な奇妙な家族だが、5人はバラの咲き誇る素敵な家で、素敵な家庭を築いていったのだった。
【完】
Before <<<
素敵な家庭の作り方始めから
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