俺たちに明日は…ある?── 桜娘は見たっ!4

「あ…ギルベルト様」
「きゃあぁ~!本物のギルベルト様~!!」
と、リヒテンと桜がほぼ同時に口を開く。

「本物?」
不思議そうに眉を少ししかめるギルベルト。

「さ~く~ら~~!本当にやめて下さい(泣」
菊はあわてて桜の口を塞いだ。

「モググ…」
ワタワタとそれを外そうとする桜。


「アーサー様の…身の回りのお世話をするためにいらした桜さんです」
リヒテンが説明する。

「今まで周りに同じ年頃の女の方がいらした事がなかったので、お友達になって頂けたら…と思って、お茶にお誘いしましたの」

両手を胸元で揃えて言うリヒテンに目を向けると、ギルベルトは

「そうか」
と表情を柔らかくする。それから桜に視線を移した。


「アーサーにもリヒテンにも慣れない環境で心細い思いをさせているからな。
2人と年も近いようだし、心を許せる者がいれば心強いだろうと思うし、これからも仲良くしてやってくれ。よろしく頼む」
リヒテンの頭に軽く手をおいて言う。


(うあぁぁ…萌えすぎですっ!!カッコイイですっ!!素敵です~~!!!)
悶え死にしそうな勢いの桜。

「か…っこ…いい…」
すぐ側の菊だけがようやく聞き取れるような声でつぶやいて、その後言葉をなくす。

「ところで…ギルベルト様、何かお忘れ物でも?」
ふと気づいてリヒテンがギルベルトを見上げると、

「ああ、そうだった」
と、ギルベルトはリヒテンに目を落とす。

「京を離れるにあたって何か欲しい物などがあればと…王路でも取り寄せる事はできるが時間もかかる。
商人を呼びつけても良いが、今後アーサーも俺の代わりに色々やることになることもあるだろうから、どうせなら実際に街で一緒に店まで出向いて色々見せようとおもってんだ。
リヒテンもなにか欲しいものがあればついでに買ってくるぞ?」

「まあ、アーサー様と?」
リヒテンの顔にぱ~っと花が咲いたような笑顔が浮かぶ。
桜がその隣で目を輝かせて口を開きかけたが、菊が慌てて両手で塞いだ。

「ではお言葉に甘えて…これと、これ…お願いいたします」
と、リヒテンがいくつか依頼すると、

「おう、じゃ、行ってくるな」
と三人をその場に残して、ギルベルトがその場を離れた。

「ら…ラブラブだよね?!!」
二人の姿が消えた瞬間、桜が復活した。

「萌えすぎてもう死にそう!!…ていうか…このお屋敷美形の宝庫?!!」
握るこぶしに力が入ってプルプル震えている。

「か…紙と筆買いに行かないと!京娘瓦版組合、乙女通信編集者の血が騒ぐ!!」

「や~め~てぇぇ~!!私がが殺されますっ!殺されますから!桜~~!!!」
すがる菊。

確かに…男女ではなくとも、ギルベルトとアーサー、ふたりともとても整った顔立ちをしているので、並べば確かに絵巻物の一ページのようではあるのだけれど…と菊も思う。

しかしそれはそれとして…と菊はため息をつく。

「桜~。私が殺されるとしても、それ書きたいですか?」

どうせ、きっぱり肯定されるんだろうなぁと思って言うと、桜は一瞬首をかしげて、すぐ

「いいえ」
と首を横に振った。

「書きたいけど…菊が死ぬのは嫌ですよ。
やっと会えたこの世でたった一人の肉親ですし。
仕方ないから当分はオチして喜ぶだけにしておきますね。
いつか時効になったら回想録かなんかとして『花娘は見た!』とか言う本書くかもですけど」
とにっこり。

この場合、死なせるのは嫌だと言う言葉程度でも喜んで良いんだろうか…菊は迷う。

花屋の看板娘の桜ちゃんはこの世で唯一の自分の妹で愛嬌ある子で明るくて可愛くて…しかし腐女子なのであった…なんて本当に洒落にならない。

本田菊…マイペースでオタクな妹に振り回される人の良い男なのであった。



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