スマイルテイクアウトで一つ0円キャンセルはききませんVerぷえ_2_2

そうしてようやく20分が過ぎ、ギルベルトは新たに入った他のバイトに仕事を任せて急いで奥へ引っ込んで着替えを終えた。

その後、カウンター横の従業員用の出入り口から店内に入ってみれば、さきほどの少年はぽつねんとどこか心細げにポテトを齧っている。


そこでギルベルトがバイト中ずっとそうしたかったように、その小さな小麦色の頭に手を伸ばし

「お待たせ。準備出来たぜ~」

と、くしゃくしゃと撫で回すと、ぴゃっとすくみあがって大きな目をさらに大きく見開いて振り向く様は、まるで野生の小動物のようで、なんとも言えず愛らしい。


──場所変えようぜ。これ片付けるな?
と、トレイに手を伸ばし、目をぱちくりさせている少年に

「俺様はギルベルト。ギルでいい。
思い切りスマイルサービスさせてもらうから、よろしくなっ」

と、自己紹介をすると、少年は戸惑ったようにギルベルトとカウンターの間できょろきょろと視線をさまよわせた。


トレイの上の食べ物飲み物はすっかり空だったので、

「ん?まだなんか食いたいか?」
と、一応聞いてみるが、それにはふるふるとあどけない仕草で首を横にふる。

それでもなお戸惑っている様子なので、もしかしてさきほど帰って行ったように思えた連れが戻ってくる可能性もあるのか?と、念の為、

「連れは?」
と、確認を取るが、それには短く

「帰った」と、答えてきた。


なら、もうここに留まらなければならない理由はないだろう。


ギルベルトは少年を促して立たせ、ドアに誘導してドアを開けると、

――今回はご注文ありがとうな?スマイルテイクアウトで一つ0円お待たせだぜ~
と、まだぽかんとしている少年にそう言って、微笑みかけた。





こうして終始笑顔に徹して少年と一緒に街に繰り出す。
驚いた事に少年、アーサーは、中学生ではなく高校生だということだった。

まあどうせ連れ出すなら、小学生よりは中学生、中学生よりは同じ高校生のほうが色々面倒はなさそうなので良いのだが、互いに見せあった生徒手帳では確かに高校生なのに、見かけだけではなく、中身もどこか世間ずれしていないというか、人慣れない感じで、幼い印象を受ける。

なにしろ、アーサーはまず第一声

「スマイルのテイクアウトって、店員が笑顔で店外でつきあってくれるなんて初めて知った」
というのだ。

いや、確かにそういう意味合いで連れ出したのだが、普通に考えればそんなサービスがあるわけがないとわかるだろうとギルベルトは思う。

でもどこか嬉しさを押し隠したように恥ずかしげにそんな事を口にしたアーサーの言葉を否定など出来ず、ギルベルトは内心途方にくれた。


本当なら

「ま、スマイルテイクアウトなんてのはねえけど、今日は暇だし誰かと遊びたい気分だったから、笑顔の俺様をテイクアウトだぜ~!」

なんて感じに流すつもりだったのだが、こんな風にあどけなくも純粋なキラキラした目で嬉しそうに言われて、本当に何も言えなくなる。


しまった!あの連れの男よりまずいことやっちまってる

と、思いつつも、ふわりと嬉しそうに笑みを浮かべる少年を前にすると、自慢の頭脳も働いてくれないのだ。



結局、出てくる言葉は

「んじゃ、とりあえずどこに行こうか。
行きたいとことかあるか?」

と、実にありふれたもので、それに対する答えがなんと

──げ…ゲーセンて……行ってみたいんだけど……

と、すごく恐る恐るといった風な言葉で……


お~~い!!行ったことねえのか?!どこのお坊ちゃんだよっ!!

と、思わず叫びだしそうになった。


もちろんギルベルトとて依存はない。

ただ、あまりにあどけなく無防備な様子が少し心配になって、ゲーセン内というか、もう繁華街の中では絶対に目を離さないようにしなければ、と、内心強く思った。



そしてゲーセンへ。
そこでもこのお坊ちゃんは一味違った。

自分がよく行くゲーセンに行って、ギルベルトは当たり前にアーケードゲームの方へと足を向けかけたのだが、後ろでアーサーがピタリと足を止めた。

慣れない空間で足を踏み入れにくいのかと振り返ってみれば、彼の淡いグリーンの目は入り口近くのクレーンゲーム内のぬいぐるみに釘付けだ。

色とりどりのウサギのぬいぐるみ。

ギルベルトの視線に気づくと、そちらを指さして

「あれ!あのグレーの毛並みに紅い目のウサギ!ぎぎるみたいな色合いだなって思って」

と、途中までは勢い込んで、でも何故かギルと名を呼ぶのが気恥ずかしいらしく、そこで赤くなって声が小さくなる。

きゅん!とした。

え?とギルベルトはそんな自分の感情に戸惑う。

──きゅん!って何だよっ、きゅん!て!!

動揺しながらそんな考えを否定するように軽く首を横にふると、

えっと?なにか気に障ること言ったか?」
と、気づけばアーサーが不安げに見上げていたので、ギルベルトは慌てて笑みを浮かべると

「あ。悪い。ちょっと考え事。
そうだな。ちょっとクレーンやってみっか」
と、クレーンゲームの方へと向かった。


手先は器用、計算もばっちり。
正直、クレーンゲームは大の得意だ。

アーサーが指さしたグレーのウサギを一発で落として、取り出し口からそれを取り出すと、それをアーサーに渡してやる。

「え?」
「あ~、俺様ぬいぐるみは小鳥さん派なんだ。だからそいつはやるよ」

きょとんとするアーサーにそう言うと、アーサーはちょっと目を見開いたあとに、蕾が徐々に咲き誇るように満面の笑みを浮かべた。

あ、ありがとう……

ぎゅうっとそのウサギを抱きしめて笑顔でみあげてくるアーサーに、なんだか顔が熱くなってくる。

「おうっ!今日はせっかくだから思い切り楽しもうぜ!次、何やりたい?」
と、ギルベルトはそれを振り切るように、思い切り笑ってみせた。



その後、アーサーが興味を見せたのはプリクラ。

ウサギを抱えたアーサーと2人でとったそれは、互いに半分ずつ分けて、その後はまたクレーンゲームに。

そんなこんなで、元々午後のシフト後に昼過ぎからだったのもあって、あっという間に午後6時すぎ。

慣れてない様子のアーサーはきちんと送ってやらなければ危なそうなので、一応駅まで送り届けることにした。


どちらも帰りは電車なので一緒に駅の構内に入ると、さらに念の為、アーサーが乗る路線のホームまでついていく。

そこで、

「じゃ、今日はありがとな。楽しかった!」
と言って頭を撫でつつ、

「これ、俺様のメルアド。またよかったら連絡してくれ」
と、メルアドを渡して別れた。



なんというか帰りに友人と遊びに行くことも、その際にゲーセンに寄ることも珍しいことではなかったが、なんだかそれとは違う趣があったというか……

そう、一緒につるんでいるというより、エスコートしているような感じだったなと、アーサーと別れて自分の乗る路線のホームに向かいながらギルベルトは思った。

だが楽しかったので、まあそれもよし。
また連絡くれるといいなぁと思いながら電車に揺られて帰宅。

なにか忘れている気がするんだがと、その間ずっと心にひっかかっていた事案については、その夜に判明して、ギルベルトは自室で頭を抱えることになった。


部屋にいる時に受け取ったアーサーからのメール。

なんだか世間知らずの箱入りの子どものように思えたので、自分の方から相手のメルアドを聞き出すというのも気が引けて、自分のメルアドだけ教えてあちらの判断に任せたのだが、そこでメールを送ってきてくれてそこはひたすらに嬉しかった。

そしてワクワクしながら開いたメール。

その内容は……

『今日はありがとう。とても楽しかった。
マックのスマイルがテイクアウトできるなんて思っても見なかった。
あのまた一緒に遊んでくれると嬉しい。
メルアドってもしかしてテイクアウトの予約が出来るとかなんだろうか?
俺、今日は試験最終日で午前授業だったんだけど、普段は平日は普通に遅いので、休日とかにできれば嬉しいんだけど、無理かな?』


うっ……あああああ~~~!!!誤解とけてなかったぜーー!!!!

そうだっ!忘れてたっ!それだったっ!!
すっかり忘れていた重大問題を思い出して、ギルベルトは頭を抱える。

遊ぶのは良い。
むしろ自分からもお願いしたいくらいだが、これ、もしかして騙してたとかそういう方向に行かないか?!

もしくはとても人慣れない恥ずかしがり屋だったので、勘違いしてたとかわかったら逃げてしまいそうだ。

どうする?どうする、俺様っ?!!

スマイルテイクアウトで一つ0としてでもいい。
ただしあの子専用キャンセルなしまで持ち込みたい。

こうして難関大学の試験問題より難しい問題を前に、ギルベルトはその日は夜通し頭を抱えてすごすことになったのであった。



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