納得したところでやることは一つだった。
そこで念のために確認を取る。
「なあ、アルト。
アルトがお姫さんだったってことはだ…俺様の勘違いじゃなければ、入社する数日前、街でミアと一緒のところを助けたあの美少女って、アルトだったってことだよな?」
と、その質問は食事が終わった後の方が良かっただろうか…。
食事を口に運んでいたアーサーの手がピタッと止まる。
そして硬直。
「…覚えてねえ?」
と、もしや、すごい確率の偶然であの時のミアとアリアというのは、名前が同じなだけでお姫さんとは無関係だったのか?と、思って聞くと、アーサーはカトラリを置いてテーブルに突っ伏して、
「…覚えてる…忘れて欲しい……」
と、言った。
なるほど。
やっぱりそうだったか。
すげえな、化粧。
アルトの子猫のようなグリーンアイがなきゃ、俺様それでも信じられなかったかも?
そんな事を思いながら、ギルベルトはアーサーの頭を撫でながら言う。
「いや…忘れたくねえっつ~か、ものは相談なんだがな?」
「…相談?」
つっぷしたまま、顔だけギルベルトの方へ向けるアーサー。
そんな仕草も可愛いと思う。
2人が今後穏やかに暮らしていくために思いついた計画…それは存外に楽しいものになる気がしてきて、ギルベルトは話を進めた。
「俺様な、北部の方の観光地に別荘持ってるんだわ。
今回のバカンスはそこにアルト連れて行こうと思ってたんだけどな」
「…北部かぁ…暑いから避暑にはいいな」
暑いのが苦手だと以前話していたアーサーは、涼しい避暑地に思いを巡らせたのか、ふにゃりと微笑む。
「だろ?でな、ちょっと話はそれるけど…俺様な、昨日も言った通りアルトに関してはかなり本気なんだわ。
出来れば一生一緒にいたいと思ってる。
だからアルトさえ良ければ、デート重ねて婚約して、最終的に籍を入れて家族になれればと思ってんだけど…」
嫌だとは言うまい…昨夜の反応からするとそう思うわけだが、さすがにドキドキする。
いや、諦める気は欠片もないので、断られたら同居人から関係を深めていくつもりではあるのだが、アーサーの口から出た言葉は…
──やめた方が良くないか?
で、不覚にも泣きだしそうになった。
告白したのが初めてなので、当然振った事は数知れずだが振られた事は一度もない。
でも過去振った相手もこんな気持ちになったのかと思って、次そういう事があれば少しでも傷が浅くなるよう言葉を吟味しようとギルベルトは思った。
「…俺様じゃ…だめか?」
と、たぶん自分が逆の立場なら答えにくい質問をしてるなぁと思いつつも、ついつい零すと、アーサーはふるふると首を横に振る。
「いや…ぎるはダメじゃない。ダメなのは俺の方だ。
ギルはすごくカッコ良くて仕事も出来てモテるし、俺なんかじゃ釣り合わないだろ。
絶対にあとで正気に返って後悔するから…」
と、その言葉に現金な事にしおしおとしぼんだ心はまた復活して、脳内が回転を始めた。
「しねえって!
昨日も言ったけど、俺様27年間生きてきて、誰かを特別に好きだと思ったのがお姫さんとアルトなんだよ。
そのどちらもお前だってなったら、勘違いとかなわけねえだろうがっ!
俺様の側の気持ちは絶対だ。
だから問題はアルトが嫌かどうかだけなんだが?」
ついつい力が入って身を乗り出すギルベルトの目の前で、アーサーはまた顔をテーブルに投げ出した手に埋めて
「ギルが嫌な奴なんているわけないだろ。ばかぁ…」
と、顔だけじゃなく耳まで真っ赤に染め上げた。
よっしゃっ!!と、その答えにギルベルトは心の中でガッツポーズ。
そしてつっぷしたアーサーに顔を寄せるように近づけて言う。
「じゃ、そういうことでだな、俺様は世界中にお姫さんは俺様のモンだって叫びたいわけなんだが、アルトはどうだ?
言って良いなら言うし、公けにしたくないってんならしばらくは言わなくても良い」
突然降ってわいたリアルな話に、アーサーはまたピタリと動かなくなった。
考え込んでいるらしい。
「…ギルの…ファンのレディ達が怖いな……
相手が絶世の美女とかなら諦めもつくんだろうけど、俺みたいな貧相な男だとかわかったら、炎上しそうだ…」
少ししてやっぱりテーブルに顔をうずめたままぼそりと言うアーサーの言葉に
「いや、アルトは納得の可愛さだけどな。
でも相手が誰であれ睨まれはするだろうし…隠しておきたいなら隠しておくか?」
と、ギルベルトは即、相手の評価に関しては否定しながらも、嫌がらせの可能性に関しては同意して黄色い頭をくしゃくしゃと撫でる。
「んじゃ、アルトだって事は言わねえけどな、俺様、恋人がいる事は言っておきてえんだ。
相手がいるのにベタベタとされるの好きじゃねえし?
そこで相談なんだけどな?」
と、話を持って行く。
趣味と実益を兼ねた非常に良い思いつきだと自分では思う。
笑顔で機嫌良く切りだすギルベルトを、アーサーは
「相談?」
と、疑う様子もなくあどけない表情で見あげた。
「そそ。
俺様は恋人以外にベタベタはしねえし、されたくねえ。
で、幸いにしてジジイ…っと、本田課長のことな?が、遠距離恋愛の恋人がいるって広めてくれたことだし?
しかも都合よくバカンスの時期だしな」
「…いいけど…」
「まじかっ?!!」
絶対に少し躊躇されると思っていたがあっさり了承されて、ギルベルトはテンション高く身を乗り出した。
しかしこの直後、まだ全てを聞かずに了承したアーサーの認識が自分と全く違うことに、がっくりと脱力することになるのである。
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