とある白姫の誕生秘話──お姫さんと俺様1

恐ろしい…現在、ギルベルトは実に恐ろしい体験をしている。


ギルベルトin某ホテルのデザートビュッフェ。

甘い物は食べられなくはないがそれほど量は食べない。
一口もあればいい。

そんなギルベルトがデザートビュッフェに来ているのである。

いや、デザートビュッフェと言ってもサンドウィッチなどの軽食もあるので、別に食べるものがないわけでもない。

実際、今も、腹の足しにはチョイ足りねえな…などと思いながらも、コーヒーを片手にサンドウィッチをつまんでいる。

恐ろしいと言うのはそんなことではなく……

──ギルさん?味見します?

と、目の前の絶世の美少女が、たくさんケーキが並んだ皿から、おそらくわりあいと甘さは控えめなのだろうというチョコレートのケーキを一口分フォークに刺して、あ~ん、と言わんばかりにギルベルトに向けて差し出している、今のこの状況だ。

──こんなに可愛い子が女の子のはずがないっ!

はるか昔、まだ学生時代にエリザが何かを見てそう言いきった時には、『なんだ、こいつ。頭おかしいんじゃね?』と思ったものだが、今はそんな事を思った自分を殴り倒したい。

確かにそうだ。
こんなに可愛い子が女の子のはずがない。




アーサーの家出事件の翌日のことである。

当日の夜はとりあえず戻ったのが遅かったので持ち出してしまったアーサーの私物の整理は明日に回すことにして、とりあえずギルベルトの部屋で並んで寝ることに。

とはいっても、ギルベルトの側は、寝たフリこそしても、一度消えられたのが怖くて一睡も出来ずに朝を迎えたわけだが……。

そうして物理的にはいつもの通りの朝を迎え、前夜に泣きすぎて疲れたのかすやすやと熟睡中のアーサーを残して急いで朝食を作り、それを手に寝室へ戻った。

ベッドの上には、いったんはどちらかを諦めなければと思っていたお姫さんと愛息子という大切な2人が1人になった相手が横たわっていて、思わず凝視してしまう。

絶対に一生逃がさないようにしねえと…と、真顔で思い浮かぶその発想が我ながらやばいな、とは思うものの、もうこれは仕方ない。

世界で一番大切×2の存在なのだ。

(そのかわり、すっげえ大切にするからかんべんな?)
と、小さくそのこめかみに口づけを落とすと、ギルベルトは朝食のセッティングを始めた。


こうしてセッティングが終わりかけた頃、起こすまでもなく焼いたベーコンの良い香りに釣られたらしい。
目を閉じたまま、アーサーがまるでウサギのように鼻をひくひくさせる。

その愛らしさに小さく笑って、ギルベルトが

「お姫さん、朝だぞ」
と、声をかけると、どうやら目が覚めたらしいアーサーは

「その呼び方やめてくれ。
さすがに恥ずかしいから」
と、赤い顔をして布団の中から睨みつけてくる。

そんな顔して睨んだって可愛いだけなんだけどな…と、ギルベルトはまるで少女漫画のようなことを思いながらも、それは了承できねえな、と、その抗議をするっとスルーして

「飯食おうぜ?
ほら、冷めちまう。
今日はカリッカリのベーコンとパンケーキだぞ」
と、ちらりと皿の中身を見えるように傾けた。

一緒に暮らし始めて知ったことだが、アーサーはこんな細いのにすごく食いしん坊だ。
だから美味しいごはんを前に意地を張り続けてなどいられないだろう。

そう思っていたら案の定で、布団の中からモソモソと出てきて、カトラリを手に料理の皿とギルベルトの顔の間をちらちらと視線が往復する。

その様子はまるで飼い主の許可を待つ子犬のようで、なんとも言えず愛らしい。

「どうぞ、召し上がれ?」
と、笑いを堪えてギルベルトが言うと、嬉しそうに食事を頬張り始めた。

その様子を見て、アルトを繋ぎとめ続けるには胃袋からだなぁ…などと内心思いながら、ギルベルトもカトラリを手に取る。


こうしてしばらく普通に食事をしていたが、ふと疑問が沸き起こって、ギルベルトは手を止めた。

そう…ギルベルトがお姫さんのことを知ったと思いこんだ、一つの事象について……

もしアーサーが本当にお姫さんだとすると…いや、そんな嘘をついても仕方ないし、お姫さんのキャラ名なんてギルベルトは教えていないのに知っているわけだから、本当のことなのだろうが…

クルクルと脳内の疑問を反復しつつ、ギルベルトは食事をするアーサーに視線を向ける。

そして記憶を辿りつつ、まるでゲームのキャラメイクのように、目の前のアーサーにパーツを足した図を想像して…想像して…想像力を働かせて…最終的に納得した。



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