どっちを優先しようか悩んで損したぜ!」
もう思い切りため息と本音しか出てこない。
まず安堵して、それから思いだした。
なるほど。
あの時に初めて気づいて…それから悩んでいたのか、と、思うと、知らなかった自分がどうこう出来たわけではないが、可哀想な事をしたと思う。
知らないまでももう少し状況を冷静に考えて原因を推測しようとしてみたらそこに行きついて、そうしたらアーサーが胃を壊して痛い思いをすることはなかったんじゃないだろうか…
そう思ったら、すごく自分が悪い気がしてきて、
「ごめんな。俺様が気づいてやれれば、アルトが胃を壊して辛い思いせずにすんだのに…」
と、抱きしめる手に力を込めると、今度はアーサーの方が驚いたように
「ぎる…怒ってないのか?」
と目を大きくみひらいた。
怒るわけがない。
怒るわけがないだろう。
ギルベルト的にはどちらかを選ばなければと心を痛めていた最愛の2人が実は同一人物だったということは、どちらも見捨てずに済むのだ。
「なんで怒るんだよ。
嘘ついてたわけでも騙してたわけでもねえだろ。
アルトは言わなかっただけだ。
まあ、俺様の人生の2大特別な人物のアルトとお姫さんが同一人物だったってことがわかって、手放してはやれねえかなとは思ってるけど…
なにしろ27年間の人生の中で初めて出会った、男でも女でもプライベートでも仕事場でも…どんな状況でも大切に思える相手だ。
むしろ気づいてやれなくて、不安な思いさせてごめんな?
俺様、猛省して本当に大切にするから、戻ってきてくれるか?」
抱きしめて額に口づけを落とすと、大きな目からまたぶわりと涙が零れ出た。
──…っ…もどって…いいのか?
嗚咽の中から絞り出すような言葉に、2人の家を出ると言う事が家族も実家もない、実質天涯孤独なアーサーにとってどれだけ辛い事だったのかと想像出来てしまって、胸が痛む。
「当たり前だろ。俺様とアルトの家だ。
今後どちらかが何かやらかして、どうしても一緒にいると言葉が過ぎるような状況になったら、俺様の方が頭冷やしにマンションに泊まるから。
アルトは二度と出て行かなくて良い。
まあそんなことまずねえけどな。
アルトと離れるくらいなら、俺様の方が土下座でもなんでもするし?」
そう言って少し身体を離すと、視線を合わせて笑う。
「で?戻ってくれるか?俺様の大切なお姫さん?」
と、言葉を続けると、涙が伝う頬が一気に真っ赤に染まった。
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