とある白姫の誕生秘話──オブザーバーの秘かな楽しみ2

それは思いがけぬ時に思いがけぬところからかけられた声であった。


ロズプリコラボ男性化粧品企画。

それはこのところのBL好きの女性、主に腐女子と呼ばれる女性のブームに押されて近年大人気の男性歌劇団ローズプリンスオペラの役者が愛用して来た化粧品のメーカーが一般男性向けに出す化粧品の販売を一手に請け負うという大型プロジェクトである。

歌劇団発祥とほぼ同時期に立ちあげたらしい創業200年の老舗化粧品メーカーが初めて一般男性向けに化粧品を販売する。

これまで歌劇団のイベントに合わせて女性向けの化粧品を期間限定で売り出した事はあるが、その時は発売数時間で売り切れ。
いわゆる転売屋まで出て大騒ぎになったらしいが、そのメーカーが出す化粧品だ。
かなりの利益が見込まれている。

そんなすごい仕事を取って来たのは、社内でもやり手として有名な広報企画部の名物女性。

様々な業界の女性管理職からフリーランスの人気イラストレータ、コピーライターまで、独自のルートで強いコネクションを持っているらしい。

今回の仕事も彼女がそのルートで化粧品メーカーで働くオーナー社長の娘つながりで取って来たそうだ。

仕事が出来て、しかもスタイル抜群の美女。
面倒見も良くて人望も厚い。

そんなところは、まるで誰かさんのようだ…と、本田は思う。


実際、一般男性向けにということで社内の男性陣を使おうとなった時に白羽の矢が立ったのが自分の部下のギルベルトとそのさらに部下のアーサーだったこともあり、スケジュールその他の調整で呼びだされたのだが、人見知りの本田に距離を感じさせない絶妙な人当たりの良さ。

時間が時間になるので、社内でパンをかじりながらよりは、知人の店の個室で美味しい物でも食べながら…と、食事に誘われて、普通なら知らない人間と食事など絶対に行かない本田が思わず頷いてしまうくらいには、接し方が上手い。

だからこそそれだけの人脈を作れるのだろうが……


そうして連れて行かれたのは、高級住宅街のど真ん中にある洒落た洋館。

門をくぐると綺麗な薔薇が咲き誇り、その向こうにある豪奢な洋風の建物はレストランだと言うが、看板が出ていないので知っている人間以外は個人宅だと思って入れないと思う。

つまり、よく料亭などにある一見さんお断りの店ということだろうか。

そう思ってちらりと横の美女に視線を送ると、彼女はにこりと綺麗な笑みを浮かべて

「ここね、知人の紹介つながりだけで成り立っているのよ。
某財閥令嬢が趣味でやっているお店だから特に利益を追求もしていないし、お客が少なければそれはそれで良いらしいんだけど、閑古鳥が鳴いているのは見たことないわね。
ゆったりとした個室のレストランで美味しい物を食べながら他を気にすることなく込み入った話をするには最高の場所だから。
あたしも大切な話をする時はよく使うしね」

と、まるで本田の考えを読んだかのように話を振ってくる。
こんな察しの良いところも誰かさんのようですね…と、思いつつ、本田はただ、──そうなんですか…と、今ひとつ感情が読めないと言われる笑みを浮かべて頷くにとどめた。


洋館のドアのところにはタキシードの店員。

「お待ちしておりました」
と、恭しく礼をするのに頷いて、エリザは勝手知ったるとばかりにそのままシックだが高級感あふれる廊下を進んで別の店員の待つドアの前へ。

「ベル、来てるかしら?」
と、今度は立ち止まって聞くエリザ。

そこで本田は、え?と思う。
他に人がいるなんて聞いていない。

「はい。すでにお待ちになっていらっしゃいます」
とドアを開ける店員。

「そう、ありがとう」
と、店員に言うと、エリザは

「ああ、ごめんなさい。言い忘れていたわ。
今日はね、例の化粧品メーカーの社長令嬢、つまりこの話を持ってきてくれた女性も同席してもらうことになっているの。
でも大丈夫。
初日だしね。そう難しい話はしないから」
と、本田を振り返ると部屋へと促す。

こうなるとここで踵を返して帰るわけにもいかない。

「できれば…始めに言って置いて頂けるとありがたいのですが…
女性の中に1人と言うのはなかなか心の準備が必要になるジジイなので…」
と、少し冗談めかして恨み事を言いつつ、それでも本田は仕方なしに部屋に入った。



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