途中で加わった菊も1号車に加わった。
と、実に淡々と紅茶を淹れて回りながらアーサーが呟く。
それにお館様のパートナーにお茶を淹れさせるわけには…と、菊が自分がいれるからとついて回るが、
「好きでやってるので気にしないでくれ」
と、アーサーににっこりいなされ、さらにギルベルトに
「あ~、紅茶はタマのこだわりだから、菊も落ち着いてお茶でも飲んでろ」
とソファにうながされて
「はぁ…申し訳ありません。それでは…」
諦めておずおずとルビナスの横に腰を下ろす。
そうしてほぼ皆が落ちつくあたりに落ちつくと、
「んで…やっぱりアーサー君も廃墟跡には行くの?」
フランソワーズがちらりとギルベルトの顔を伺った。
視線に気づくと、ギルベルトは今度は何か確認した気な様子でその綺麗な紅い目をアーサーに視線を向ける。
さらにそれにアーサーはにこりと
「ああ、味方の遺体も一般人の遺体も崩壊した建物も慣れてるから、俺のことは気にしないでくれていいから」
と、最後に自分の分まで紅茶を淹れ終わって当たり前にギルベルトの横に座った。
「それに隠れ家のことを知っている俺が行った方が、どこに何があるかがわかるだろ。
情報の多くはたぶん他の隠れ家に散った職員も共有してるとは思うんだけど、なにしろ極東支部は歴史が古いからな。
ブルーアースと合併前から自衛組織みたいな感じで存在していて、たぶん独自の情報も多く持ってる。
だから膨大な情報を全て共有は無理だし、瑣末な情報は一部の人間しか所持していない可能性もあるから残っているなら早々に回収しないと本当に永遠に失われちまう」
アーサーは本部で起こったあの忌まわしい諸々の出来事は知らないはずなので、単純にこれから攻勢に転じるにあたって情報は多い方が良いだろうと言う事で言っているのだろう。
しかし本部の事情を知っているギルベルトとエリザはそれを聞いて難しい顔になった。
フェリシアーノの身に起こったことについて、今回壊滅した隠れ家の情報次第で状況が変わる可能性だってないとは言えないのだ。
「…ポチ……」
と、そこまで言ったアーサーは言葉を切ってギルベルトを見あげる。
「ん?」
と、応えて見下ろすギルベルトに、アーサーはちらりと一瞬、意味ありげな視線をフランソワーズに送って考え込んだ。
「なんだ?」
と、ギルベルトがさらに聞くと、アーサーは
「いや…なんでもない。あとでな」
と、首を横に振る。
なんでもなくはないのだろう。
が、ここでアーサーがあとでというなら、あとで、なのだ。
そのあたりのタイミングに対するアーサーの几帳面さはギルベルトの比ではない。
だから聞き返したいのはやまやまだが、ギルベルトは言葉を飲み込むことにする。
こうしてその後、話題はより具体的に、廃墟となった隠れ家の構造や敵に会った時の対処などに移って行った。
数時間後…車は静かに停車する。
「さあて、発掘作業に行くか~」
と、悲壮な顔の面々を尻目に大きく伸びをして言うアーサー。
暗い空気の中、そんなアーサーのいつもと変わらぬ声音にフランソワーズが少しホッとした様子で小さく息を吐きだした。
「そうね。運転してるフリーダムの人達には悪いけど、ずっと車で話しあってるのも疲れちゃったわ。
あたしは打ち合わせより外で暴れてる方が性に合ってるかも」
と、そんな空気を引き継ぐようにエリザがぶるんぶるんと腕をまわす。
ベテランのエリザがリラックスした様子を見せる事で、自然と周りの面々の緊張も少し和らいで、降車準備を始めた。
そしてまずフリーダムが降車し、それを追うように第二段階で盾モードになったアーサーが降りようとしてふとギルベルトの横で足を止める。
そして聞いてきた。
──…で?どういう情報が欲しいんだ?何か切実に欲しい情報があるんだろ?
へ?と、ギルベルトは一瞬固まって、あーー!!!とその意味を察した。
車内で情報の消失の危険について語った時、自分やエリザの表情が硬くなったことに、アーサーはどうやら気づいていたらしい。
──フランソワーズには聞かれたくないらしいから、詳細は今は要らないけど情報は寄越せ。
と、そこまで身抜かれていた事には脱帽だ。
「悪いな…そうだな…とりあえずイヴィルの感情とか戦闘以外の行動についてと…あとは過去、ジュエルが体内に取り込まれたジャスティスがいたかどうかとその影響?」
一部かなり具体的な事を口にした割に全容を言っていないので、自分だったら気になるだろうなと思ったが、アーサーはそのあたりの割り切りもきっちり出来るのだろう。
「わかった。じゃあ、あとでな」
と、あっさり先を行くフリーダムを追って車を降りて行った。
0 件のコメント :
コメントを投稿