温泉旅行殺人事件_救出7

「そうやって当たり前に自分を含めて客観視できる君はすごいな…」
「そうですか?」

「うん。僕は昔すごくコンプレックス持ってた相手がいて…相手の事すごく嫌だった。
でさ、自分の彼女がそいつと浮気した時に彼女の話も聞かずに彼女を責めたんだ。
そいつが自分より優れてるって聞くのが嫌でさ…。

結局それは誤解だったって言う事後で知って、でもそれは彼女失った後だった。

ま、昔の事だけどね。今は反省してるから妻の事はホント信じてるよ。
というか…もう企んでるならこんな馬鹿な事しないってくらい行動ぶっとんでるから、彼女は」

少し笑みを浮かべると、雅之はまた歩き始めた。
雑談だったらしい。

それなら、と、ルートも始める。

「奥さんとは…古いつきあいなんですか?」
「君達の年だとすごい歳月なのかなあ…。
初めて会ったのは彼女が小澤さんと別れた直後くらいだから20年くらい前かな。
それから5年の付き合いを経て結婚。今15年目だね」

「奥さんの…亡くなった親友さんとか小澤さんとは面識は?」
「いや、親友の子は妻が小澤さんと別れた時には亡くなってたし、妻とは彼女が小澤さんと別れてから出会ってるから小澤さんとも初対面だよ」

一瞬…澄花の親友の彼氏が雅之か、などという図式も思い浮かんだのだが、違うらしい。
まあ本当の事を言ってるとは限らないが、調べればわかる事だろう。
一応頭の中でチェックをいれつつ、ルートはその話は打ち切った。

「プライベートなのにあれこれ聞いて申し訳ない。しかし少し気がまぎれました」
と、念のためフォローも入れておく。




その後二人が離れに着くと、中からは澄花がバタバタと出てくる。

「おっそ~い!ほら、入って!寒いでしょ!」
二人を中に追い立てる様に招き入れると、澄花はドアを閉めて鍵をかけた。

「しっかし、ルート君、君ってよくこんな殺人容疑かかってる人間のとこになんか来れたわねっ。
ほんっきで怖いもの知らず?」
カラカラ笑いながらお茶を出す澄花にルートはぎょっとして硬直する。

「こらっ。ルート君びっくりしてるじゃないかっ、やめなさいっ!」
それを雅之が眉をよせてたしなめた。

「すまないね、いきなりこれで。もう彼女はホントにいつもこのノリで…」
と頭を掻きながら申し訳なさそうに言う雅之に、ルートやや困った笑いを浮かべる。

「いえ…でも殺人容疑とは?小澤さんのですか?」

あんまりあっけらかんと言ってくれるので、逆にそれが真実らしいと思っていても信じられなくなってくる。
それでも情報を集めるためきたわけで、そう聞き返すと、

「そうなのよ~」
と澄花は大きくうなづいた。

「親友の志保が死んでもう20年。
まあ…確かにね、私のせいなわけなんだけど、あいつが浮気したのが原因でもあるわけじゃない?
花くらい手向けてもバチは当たんないかな~って思って呼ぶ事にしたんだけど、ただ呼ぶのもむかつくんで亡くなった志保の名前で呼び出したところに光二があんな事になったもんだから、もう警察には犯人扱いでねっ!
でもね、いくらあたしがカッとしやすい体質だからって20年も前の浮気で殺したりしないわよっ」

本気で憤ってる様子の澄花。
すごい演技力だなと感心するルート。

「まあ…でもたまたまアリバイがあって容疑晴れたわけだし…もういいじゃないか」
それをなだめる雅之も本当に演技とは思えない自然さだ。

「アリバイ…ですか?そう言えば俺達もきかれましたが」
とルートがふってみると、雅之がうなづいた。

「一応…最後に生存が確認されてる午後520分から死亡が確認された午後840分までのアリバイを聞かれたんだけどね、
僕はたまたま午後550分から露天風呂の予約を入れててね。知っての通り遠いだろ?あの風呂。
だから530分にはフロントで鍵をもらって風呂に向かってるんだ。で、戻ったのが650分。
妻はその間僕を母屋のラウンジで待ってたから。

で、それからすぐ離れ戻って7時から750分まで食事。
その間席を外してないのは食事を運んできてくれた仲居さんが証明してくれて…
それ以降は花火見に外庭にでちゃってアリバイないんだけど、問題ないような態度だったから、たぶんその前に殺されてるって警察の方ではなってるんだろうね」

「お話中に申し訳ない、トイレお借りします。寒いからか近くなって…」
ルートは言って頭を掻いて立ち上がるとトイレにかけこんだ。

そして鍵を閉めると即、聞いてから一生懸命反芻して暗記していた今聞いた話を忘れないうちにとメールにして兄に送る。重要な証言だ。


「冷えて腹こわしたようです…」
と言いながらまた戻り、

「しかしたまたま予約いれておいて良かったですね。
俺達もその前の時間はいってたんですよ、露天」
と雑談を始めた。



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