「ごめんください」
と声がかかった。
「は~い♪」
その声に止める間もなくフェリシアーノが転がり出て行く。
ドアを開けて軽食の盆らしき物を持った先ほどフロントで謝罪していた女将らしい女性が中に入ってくると、フェリシアーノはその女性に抱きついた。
「フェリちゃん、どんどんママに似てくるわねぇ」
まとわりつくフェリシアーノごと部屋に入って来た女将は盆から布巾を取った。
「はい、これに着替えてね」
と、盆の中身…従業員用の着物をフェリシアーノに渡す。
なるほど、それなら離れをうろついていても目立たないか、と、ギルベルトは感心しつつ、気転のきく秋に少しホッとする。
「今回はありがとうございます。色々ご迷惑をおかけして申し訳ない」
「いえいえ、フェリちゃんのお友達ですもの。
というか…フェリちゃんの恋人のお兄ちゃんと言った方が良いのかしら」
と、みかけの和風美人ぽさとは反対に、秋はコロコロ笑う。
そしてそのままフェリシアーノは無事に秋に連れられて母屋へと戻って行って、ギルベルトも安堵の息をついた。
これなら安心して事件の捜査に打ち込めるな、と、頭を切り替えて事件に気持ちを向け始めた。
まず全員がアリバイを聞かれたのは17:20~18:40。
遺体が発見されたのは20時40分だったから、おそらく硬直が始まる程度に時間がたってたから単純に2時間以上たってるということで20時の2時間前という感じなのだろう。
しかし始まりの17:20分というのはなんなんだろうか…。
情報が…欲しい。
「殺人事件の方の情報欲しいな…」
ああ…親父に迷惑かける事になるかなぁ…と思いつつ、頼るあては他にない。
しかたなしに父親に電話をかける。
意外にも父親はあっさり手まわしを了承してくれた。
そして…
「失礼します」
父親の電話を切って3分ほどたった頃、和田が離れを訪ねて来た。
「本当にお手数おかけして申し訳ありません」
ギルベルトは立ち上がってそれを迎え、深々とお辞儀をする。
「いえ、バイルシュミット総監のご子息のお役に立てて光栄です」
とそれに対して和田も深々と礼を返した。
父親のコネ絶大である。
「早速なんですが…」
と、現状を説明する。
「なるほど。つまりフェリシアーノさんが誘拐されたのは身代金目的ではなく、犯人を目撃されたからかもしれないという事ですね?」
「はい。相手も俺に気付いていたら、その可能性は充分あると思います。
そう思って考えてみれば、あの身代金の受け渡しは不自然だと思うんです。
元々一人しか返す気がないなら、あんな条件付けするのは無意味だと思いませんか?
1億欲しいなら2度も身代金の受けとるなんて危ない橋渡らなくても、始めから二人分で1億よこせですむはずですよね?
犯人はフェリシアーノを返したくなくて、でもそれを気付かれたくなかったんじゃないかと思うんです」
「なるほど!さすが総監のご子息ですね」
ギルベルトの言葉に身を乗り出して言う和田。
なるべくそちらに話を持って行って欲しくないんだがなぁ…と、ギルベルトはそれに対して内心苦笑しつつも続ける。
「そう考えるとですね…誘拐と殺人は同一犯の可能性が出て来るんで、殺人が解決すれば誘拐も解決するんじゃないかと思うんです。
本当に無理なお願いというのは重々承知しているんですが、絶対に俺一人の胸のうちに閉まって漏らしませんので、ある程度の殺人事件の側の捜査状況を教えて頂けないでしょうか?
それによって俺も自分でも見落としていた関連性のあるものを思い出せるかと思うんです」
ギルベルトの言葉に和田は悩んだ。
しかし最終的に覚悟を決めたようだ。
「これは…露見すれば私のクビが飛びますが…ギルベルトさんの身元を信用しましょう。
ただし他に知れると絶対にまずいので、私個人の携帯とのメール連絡にして下さい。
メールは内容を確認したら即消す事。よろしいですね?」
まあ…苦肉の選択なんだろうな…とギルベルトは自分で言い出しておいて心中和田に同情する。
捜査情報を部外者に漏らすなんて事は本人も言っている通り絶対に許されない、クビですまないくらいの事だ。
しかし…ここで下手に断ってそれが原因で総監の息子の関係者を万が一死なせるような事になったら、警察人生が終わりかねない。
あまり長くいると問題になるので、それ以上はメールでと言う事にして和田は帰って行った。
ということで、警察が知りうる限りの殺人関係の情報は入って来る事になった。
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