「ええ、そうよねっ!人事は尽くさないとよねっ!」
「……兄さん………」
もう俺帰っていい?帰っちゃダメ?
二人共変なスイッチが入っている。
そしてその異様な二人を全然気にせず、一人妄想の世界――おそらく愛しのお兄ちゃん関係だ――に入ってしまっているアーサー。
そんな3人の横でただ一人、盛り上がりにも入れず妄想も出来ない哀れなフェリシアーノは、うつろになってきた目で遠くを見ながらポテトをかじっていた。
高校のバスケ部の練習する体育館で、アーサーに電話をかけたフェリシアーノがアーサーがマックで待っているというと、エリザはあっさりと部活を抜けて帰る宣言をかましてくれた。
厳しいと思っていた高校のバスケ部で、監督を含めてそれを咎めるモノは誰ひとり居ない。
いや、正確には当のアーサーのお兄ちゃんであるギルベルトが唯一それに難色を示したが、監督に何やら説得されて、引き下がった。
「えっと…いいの?」
と、さすがに聞くフェリシアーノに
「いいのよっ。私は練習するわけじゃないし。行きましょ!」
と即答するエリザ。
それがよもやすでに病的な域に達しているギルベルトのブラコンをなんとかするためならと許可されていたとは思いも寄らないフェリシアーノは、深く考えない事にする。
こうしてエリザと二人で駅前のマックに急ぐことになったが、そこでフェリシアーノはさらに恐怖体験をする事になる。
窓際のボックス席。
向かい合わせに座ってお互いの前にはドリンクとポテト。
片やふわふわと柔らかそうな小麦色の髪に子猫のように少し吊り目がちだが丸く大きなグリーンアイ、片やサラサラの漆黒の髪にすっと切れ長だがやはり大きな黒い目の、対象的な容姿のだが愛らしい2人の少年。
なかなか眼福な光景ではある。
あるのだが…そこでただ目の保養と割り切れなかった愚か者がいたらしい。
「坊やたち中学生?二人だけで来てるの?」
などと声をかけている中年親父。
――俺の大切な友達に何するつもりだよっ!!
と、心の中で叫びながら、でも震えるばかりのフェリシアーノをグイっと見た目からは想像もつかないくらいの怪力で後ろに押しやって、エリザがつかつかと二人に声をかけている親父に声をかけた。
「失礼、おじ様。この子たちに何かご用かしら?」
顔はにこやかなのだが、色々知ってしまったフェリシアーノには空気が怖い。
「なんなら私が代わりにお相手しましょうか?
握るくらいならしてさし上げてもよろしくてよ?」
と言う声に振り向いて、声をかけてきた相手が意外にも綺麗な高校生とわかって鼻の下を伸ばした親父の目の前で、エリザはさらににっこり
「この右手で…ね?」
と相手の鼻先になにか握った右手を差し出した。
その途端、手の中からバリッというような音が聞こえる………
「あら、割れちゃったわ。」
と開いた手の中からは殻の割れたクルミ。
――ヒィィ~!!
と、小さな悲鳴を上げたのは親父とフェリシアーノ。
そこで慌てて逃げていける親父がフェリシアーノにはうらやましかった。
俺も逃げたいよ…アーサー、菊……
心の中でそうつぶやくも、その腕はエリザの左手でがっちり掴まれている。
そして心の声とは裏腹に、ズルズルとアーサーと菊の座る座席に引きずられていくフェリシアーノだった。
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