温泉旅行殺人事件_救出失敗3


眩しい…。
ルートは眩しさに腕で明りをさえぎった。

「ルッツ!!気がついたか…」
明りと自分を遮るようにできる影。

聞き慣れた声がそう言って、大きなため息。

「…にい…さん?」
いぶかしげに目を細めるルートにギルベルトは
「平気か?どこか痛んだりとかはないか?」
と心配そうに言うと、顔をのぞきこむ。

何してるんだ、自分…と一瞬考え込むルート。

そして…思い出したっ。


「兄さんっ!受け渡しはっ?!!」
ガバっと起き上がってギルベルトの腕をつかむルートに、ギルベルトは無言。

「俺は……失敗…した…のか?」
呆然とつぶやくルート。

「暗闇で足を取られて転倒したあと、そのまま意識失ったっぽい…。
お前…部屋帰っても寝てなかったんだって?
雅之さんが心配して聞いて来て…責任感じてた…」

確かに…寝不足だったかもしれない…でも…こんな状況で寝てしまうのは…
言葉もなく青くなるルート。

「身代金は転倒したお前の近くにあった。手つかずだった…」

「そうなの…か…」
ルートは頭を抱えた。

「それでっ?!次の受け渡しはっ?!」
自分の腕をつかんだまま揺さぶるルートに言葉がないギルベルトの代わりに、和田が答える。

22時の時点で犯人から身代金を払う気がない認定の電話が入りました。
が、まだ遺体が見つかったわけではありませんし、気が変わって再度の身代金の要求があるかもしれません。警察としても全力をあげて解決に向けて動いてます。」


ありえない…自分のせいだ…。さらわれたのも自分のせいなら、戻れなくなったのも…。
茫然自失のルート。

ギルベルトは少し身をかがめてそのルートに視線を合わせる。

フェリちゃんは絶対に助ける
ルートの腕をつかんでギルベルトが言う。

無理だ…とルートは思う。
身代金を払う意志がないと見なされたのだ…。

当たり前だ。
2時間…普通に歩けば30分の距離を2時間かけてたどりつかなければそう思われても仕方がない。

兄のように妨害があったわけじゃない。
犯人は辿り着かせる気満々で、思い切り時間の余裕を持たせたのだ。

それを自分は……


「…無理だ…」
虚ろな目で言うルートにギルベルトはきっぱり言い切った。

「無理じゃないっ!遺体確認するまでは絶対に無理じゃない!
助けるぞ!諦めるなっルッツ!!」

「無理だろうっ!普通に考えてっ!」
ルートはギルベルトの手を振り払って叫ぶが、ギルベルトはそのルートの声を上回る大きさで叫ぶ。

「俺様は諦めないっ!絶対に諦めないから、お前も諦めるなっ!!」


「とりあえず…二人ともご飯。腹減ってると余計に悲観的になる。
部屋にもって帰って良いそうだから、部屋でゆっくり食おう?」

そこでアーサーが食事を指さした。

怒鳴りあう男二人とは対照的に、その泣くのを必死に堪えているような幼げな顔は、常に周りを守り保護するようにと育てられてきた兄弟の庇護欲を刺激して、憐憫の情を起こさせる。

「俺様達が動揺したらだめだろ。守れるはずのもんも守れなくなる」
「ああ…そうだな…」

自分の感情よりまず守るべきものを優先しろ…という共通認識の元、兄弟はなんとか平静さを取り戻し、大人しくお姫様の言う通り食事を離れに運び込んだ。

そして3人で食事をする。




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