食事を摂りながらアーサーが唐突に言った。
「わるいっ」
「すまん…」
それに即謝る兄弟に、アーサーはきょとんと首をかしげた。
その勢いでぴょんっ!と飛び跳ねた小麦色の髪が揺れるのが愛らしい。
不思議そうに言うアーサーに不思議そうな顔をする二人。
「やる気の…問題なのか?お姫さん」
愛しの恋人様の言う事ならなんでも肯定してやる気は満々だが、意味はわからない。
だから理由を訊ねてみれば、アーサーは真顔で首を縦にふった。
「だって…身代金欲しければ取りにくればいいじゃないか…ルートは寝てたわけだし…」
ズッキ~ン!とくる事を言われて胸を押さえてため息をつくルート。
普段ならそこでさすがにフォローが入るわけだが…ギルベルトは無言。
「わざわざ2回にわけるくらい欲しいなら、少しくらい自分も頑張らないとだろっ!
欲しくないとしか思えないぞっ!」
ぷぅっと頬を膨らませるアーサーに、それまで無言で考え込んでいたギルベルトは
「…そう…だよな」
と、まだ何か考え込みながらうなづいた。
「兄さん?」
何か真剣に考え込んでいる兄にルートが問いかけると、ギルベルトは何か思いついた様にもう一度、
「そうだよなっ!」
と、今度ははっきりと口にした。
「どう考えてもおかしくないか?!」
箸を放り出してギルベルトはルートに詰め寄る。
「お、おかしいとは??」
その勢いにちょっと戸惑うルート。
「考えてみろっ。
2回も受け取りにくるなんて危ない橋渡んないでも、1億欲しければ最初に二人で1億って言えばいいわけだろ?
二人を同時に返すのが無理なら別に同時に返さないでも別々に返せばいいわけだしな。
考えてみれば、なんだか色々がおかしい気がして来た…」
「そう言われてみれば…」
勢い込んで言うギルベルトにルートもそんな気がしてくる。
そうだ…二人さらったなら返すなら二人とも返すはずだし、返さないなら二人とも返さないはずだ。
(…よく考えろ…何かひっかかる…)
ギルベルトは腕組みをして考え込んだ。
最初の受け渡しの時…犯人は元々アーサーしか返す気がなかった。それは確かだ。
一人しか返す気がないなら何故条件をクリアしたら二人とも返すと言ったのか…。
犯人は…フェリシアーノを返したくなかった…あるいはアーサーを返したかった…いや、両方なのか?
最初の受け渡しの時に条件をだしたのはフェイクだ。
犯人はフェリシアーノを返す気がないのを隠したかったのでは?
だがそれなら物理的に返せない様に殺してしまえばいいだけなのに何故隠す必要があったのか…
それはおそらく…アーサーを返す事によって犯人が他にそれと知られる事なく恩恵を受ける事を隠すため。
普通にフェリシアーノだけ殺してアーサーだけ返せば、”犯人がアーサーを返さなければならなかった理由がある”のを悟られる可能性が高かった。
フェリシアーノは”犯人が返しては困る何か”を知っていて、アーサーは”犯人が返さないと困る何か”を知っているのか…。
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