アーサーの惚れた欲目ではなく、本当のイケメンで性格良し成績良し運動神経良しの完璧な人物らしい。
フランシス・ボヌフォワ…確かに気障な遊び人という話だが、反面、友情に篤い性格でもあるという。
(…一体どういう人物なんだろ…)
と、頭をひねりながらも、情報源の高校生のお姉さま達に愛想よく手を振って別れを告げると、自称高校見学の中学生、フェリシアーノは一路体育館を目指す。
アーサーの兄はバスケ部で今日は練習日らしく、フランは放課後はバスケ部のアーサーの兄のところか、サッカー部所属のもう一人の悪友のところをフラフラしながら2人を待って、3人で一緒に帰るのが常だということだからである。
幸いにして、フェリシアーノも中学2年生も半ばすぎ。
ぎりぎり高校見学で済まされるだろう。
「こんにちは~」
と、小さく声をかけ、ヒョイっと入り口から顔を覗かせると、バスケ部は丁度休憩に入ったところらしかった。
各々がタオルで汗を拭きつつスポドリを飲んだり、座って休んだりしている中で、バチっと一人のイケメンと目が合った。
これ…もしかして?と思っていると案の定で、
「見学者か?もしかしてその制服、△△中だよな?俺の弟が行ってんだけど」
と言う言葉で、これが噂のアーサー愛しのお兄ちゃんだとわかった。
確かにイケメン臭を全面に出しているくせにチャラくはない。
もう漂うオーラでモテ男だとわかる。
ああ、これは確かにモテルよね…と、納得の、大きな包容力を感じさせる兄貴オーラ。
あの、中学では成績トップの優等生で顔も可愛いけどしっかりしていると評判のアーサーが惚れ込むのもわかる気がした。
さて、身元がバレるのは想定の範囲内。
下手にあとで知られるよりはこちらから挨拶をと思ってたくらいなので、フェリシアーノもヘラっと笑って
「アーサーのお兄ちゃんですよね?
初めまして、フェリシアーノでぇすっ☆
ピッツァとパスタの好きなおちゃめさんで、アーサーとはもう一人菊っていう奴と3人でいっつも一緒に昼ごはん食べたりしてるんですっ
今日はちょっと早い学校見学に来たんですけど…」
と、人懐こいと評判の調子で話しかければ、お兄ちゃんはちょっと目を丸くして、次にニカっと爽やかな笑みを浮かべつつ、フェリシアーノの頭をグシャグシャ撫でる。
「そっか~、アルトの友達だったかっ。よろしくなっ。
あいつもまあ兄貴の目から見ても出来た弟だとは思うんだが、如何せんちょっと素直に育ちすぎたっつ~か…色々危機感にかけるっつ~か…おかしな輩にひっかかったりしかねないから」
「あ~、うん、わかるよ。
この前もなんだか変なおっさんに声かけられたとかで、俺と菊で駅まで送って行ったもん。
アーサーて何だか変な奴に好かれるんだよね」
そう、可愛い系童顔なせいか、アーサーは女性よりもおかしな趣味の同性に付きまとわれる事が多い。
年齢がいって背が伸び、少年の域を脱すればまた変わってくるのだろうが、少なくとも今の時点では
「ああいうおかしな輩って、本当に春先になると数が多くなるんだよ」
と、ごくごく普通に慣れてる風に話してしまう程度には、その手の人間に出会うらしい。
そして、肝心のお兄ちゃんはというと、フェリシアーノの言葉に
「あ~…あいつ可愛いからなぁ。部活なければ送り迎えしたいくらいなんだが…」
と、アーサーに負けず劣らないブラコン発言をして下さる。
これぜんぜん心配ないんじゃない?とフェリシアーノが内心思っていると、そこに、
「あらぁ、ギルベルト、可愛い子と一緒じゃない」
と、親しげな様子の言葉が降ってくる。
ああ、これだ、と、聞かなくてもわかった。
フランだ。
「フェリシアーノで~す☆少し早い学校見学に来ましたっ」
シュタッと手をあげていうフェリシアーノを
「うわあ、かっわいい♪」
と、いきなり手が尻に伸びてくる。
「てめえ!アルトのダチに手ぇ出しやがったら明日の新聞の一面に載せっぞ!!」
いきなりのことに硬直するフェリシアーノの目の前で、あわや手が届くかと思った瞬間に鉄色の塊がフランにクリーンヒットした。
そして…良い音をたてて吹っ飛んで行くフラン。
「お、エリザ、良い所に…」
とギルベルトが振り向いた先には何故かフライパンを持ったどこかで見た美女。
「あんたねぇ!!これ以上ローデ先生のバスケ部を妨害したら、今日の月は拝めないと思いなさいよっ!!!」
と、どうやらフランにクリーンヒットさせたらしいそのフライパンをぶんぶん振っている。
──…明日の朝…より、死亡時刻が早くなってるよ~~
と、その勢いにぴるぴる震えるフェリシアーノ。
しかし彼女は
「とりあえずあの子、私の古い知り合いでもあるから、私が保護しとくわね。
あんたはローデ先生にご迷惑をおかけしないようにしっかり練習してきなさいっ!!」
と、ギルベルトにピシッと言うと、今度は
「フェリちゃんじゃない、久しぶり~!」
と、実に優しいお姉さんの顔でフェリシアーノに駆け寄って来た。
「あ…やっぱりエリザさんっ!!どうしてここに?!!!」
地獄に仏とはまさにこのことだ。
エリザベータ・ヘーデルヴァーリ。
フェリシアーノが幼い頃ピアノを習っていた当時音大生だった先生から同じくピアノを習っていた優しいお姉さんだ。
数年後にフェリシアーノは両親が亡くなって祖父の元に引き取られたのでピアノ教室もやめてしまったが、よもやこんな場所で再会するとは…と驚いていると、目の前まできたエリザはにこりと
「積もる話もあるし、お茶でも飲みに行かない?」
と、フェリシアーノの腕を取って体育館をあとにした。
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