温泉旅行殺人事件_安堵の香り1

部屋に入るとアーサーがまず宣言する。

「とりあえず…寝る前にギルは風呂かもな?
あちこちボロボロだし…髪の毛とかも葉っぱやクモの巣や色々ですごい事になってる」

確かに…あちこち走り回って木登り崖登り色々やったからそうかもしれない…が…

「ん~洗面台で髪だけ洗って体はタオルで拭くからいい」

一瞬でも目を離すのが怖いくらいなのに、アーサーを部屋に残して一人で風呂なんて入れるはずがない。
そう言うとアーサーは苦笑する。

「そんな風呂入ってる時間くらいでいなくなったりはしないから」

そうは言っても本人は眠っていたから全く無自覚なわけだが、目を離したほんの5分ほどの間に拉致られてるわけで…。
さらにそれを主張するとアーサーは、ん~、とちょっと首をかたむけた。

「じゃ、俺も一緒に入ろっか」

うん…まあもっともな意見ではあるのだが…まあギルベルト的には色々と…

「お姫さん…それ俺が無理。一応な…俺も男だから…。
裸とかきわどい格好とかで一緒に風呂入られたりしたらきつい…」

と、暗に悟ってくれないか…と思いつつ言うが、そういう意味では…というか、自分に対する好意に関しては非常に鈍感なお姫様には案の定まったくわかってもらえない。

「だから?俺も男だけど?
普通に温泉一緒に入っただろ?」
と、きょとんと首をかしげる様子がすでにやばい。

可愛い…。
可愛すぎて色々元気になりそうでやばい。

「ああ、そうなんだけどな。
ルッツやフェリちゃんも一緒なのと2人きりは微妙に違うと言うか……」
「…俺と2人きりだと…嫌なのか?我慢できないくらい?」

大きな目にじわりと浮かぶ涙。
自己評価が著しく低いギルベルトの恋人様は、きっと別の意味に取っているに違いない。
そんな事が容易に想像出来すぎて、ギルベルトは肩を落とした。

「ああ、そうだよ。我慢できねえんだよ!!
……劣情的な意味で……」

ああ、もう本当に色々と…みっともないやらやばいやら。
くしゃりとギルベルトは自身の前髪をつかんだ。

「俺様、お姫さんのことはマジ本気だから、絶対にきちんとした手順踏めねえ状況でいい加減なことしたくねえんだけど、自分の理性をぜんっぜん信じられないくらいには惚れこんじまってるから。
お姫さんにあって初めて、自分のその手の欲望がまだまだ理性で抑えられねえくらい未熟な高校生に過ぎないって自覚したからな。
他がいるところでならとにかくとして、2人きりの時に裸のお姫さんとか、まじ無理だから。
襲うからっ!!!」

頼むから自衛してくれ…と、言うと、それをどこまで本気にしてくれたかはわからないが、一応どうして欲しいか…いや、正確にはどうして欲しくないかは、わかってもらえたようだ。

「わかったっ、じゃ、俺は普通の地の厚い物着てなるべく濡れないようにするな?
それならもし濡れちゃっても雨にふられた程度の感覚ですむだろ?」

アーサーをその場に待たせて自分がゆっくり風呂と言うのも落ちつかないが、確かにこのままほこりや蜘蛛の巣だらけの状態で自分だけならとにかく、お姫さんも寝る布団に入るわけにはいかない。

仕方ない…。
ギルベルトはそこがお互いのぎりぎりの譲歩ラインと判断して、それに従う事にした。




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