温泉旅行殺人事件_安堵の香り2

かくして…たすきがけをして備え付けの羽織を羽織った浴衣姿のアーサーと一緒に風呂場へ。

自分はもちろん腰にタオルを巻いた状態でさっさと頭と体を洗い、身を清めるだけ清めるとさっさとあがる。

そしてバスタオルで体を拭いて下着をつけると、ギルベルトはちょっと迷ったが結局備え付けの浴衣を手に取った。

それを身につけるとアーサーがちょっと目を丸くして、次の瞬間ふわりと笑う。

着慣れない浴衣はなんだかスースーする気がするが、それでも目の前で嬉しそうに微笑むアーサーがいれば何も問題はない。


「やっぱり♪ギルは体格良いから何来ても似合うな。
絶対に和装似合うと思ってた!」
ふわっと抱きついてくるアーサーをギルベルトが抱きとめると、アーサーはちょっと首をかしげた。

「どうした?お姫さん」
不思議に思って聞くギルベルトから体を離すと、アーサーは浴衣の置いてあった備え付けのタンスの下のスペースを覗き込み、香が炊いてあった香炉を手に取って匂いをかいだ。


「香の匂い…だったんだな」
その一言で理解したギルベルトは、浴衣の袖を顔に近づけて匂いをかぐ。

「ああ、そうだな。その匂いが浴衣にも移ってる」

それからアーサーは自分もタンスから着替えの浴衣を出して
「浴衣やっぱり濡れちゃったし、俺も着替えるな」
と宣言するなりいきなり着替え始めたのでギルベルトはあわてて後ろをむいた。


そこで初めてギルベルトは玄関を始めとして、各部屋に置いてある香炉に気付く。
床の間には掛け軸や花が飾ってあるのにも、それまでは全く目がいってなかった。

「これで同じ香りになったな♪お揃いだ♪」
そのギルベルトの周りをふわりとした足取りで一周するアーサー。

その言葉にギルベルトはつくづく…自分は実利的な物しか目に入らない、情緒のない人間なんだと実感する。
少なくとも…香りをまとうという感覚は自分では思いつかない。

疲れた…と、その細い身体を腕の中に閉じ込めて、その柔らかな香の匂いと確かに腕の中に存在する小さく温かい幸せを自覚してくると、一気に疲れが押し寄せて来た。

「…眠い…」
つぶやいたギルベルトにアーサーは

「ベッドで休めよ」
と言うが、ギルベルトはちょっと悩んだ。
一瞬でも目を離すのが怖い…。

「目が覚めた時に…またお姫さんがいなくなってたら今度こそ俺様死ぬ…」
言ってぎゅっとアーサーを抱きしめる右腕に力をいれる。

その言葉にアーサーは
「心配性だよな、ギル…」
と、言いつつ

「じゃ、添い寝してやるっ!」
と、ベッドのある洋室にギルベルトをうながした。


徹夜…は別に珍しい事ではないのだが、本気で色々ありすぎた。
ベッドに倒れ込むように潜り込むギルベルト。

アーサーはその右側に寄り添うように横たわって、疲れきっているギルベルトより先にちゃっちゃと眠りにつく。
昨日からずっと眠りっぱなしだったのに、よくまだ眠れるものだとギルベルトは感心した。

ベッドに入るまでは隣で寝られたりしたら色々気になって眠れないのではと心配だったが、おかしな気分になる気力もないほど、疲れきっているらしい。

アーサーが寝るのを確認した次の瞬間には自分ももう目を開けていられない。
抱き枕のようにアーサーを抱え込むと、ギルベルトはそのまま深い眠りへと落ちて行った。




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