「入学式でな、隣に面白い奴がいたぞ。」
と、話してくれた時点で嫌な予感はしたのだ。
せめて牽制くらいはしておきたくて、兄が私立の中学で弁当なのを良い事に、毎日弁当を手作りして存在をアピールしてきた。
そんな努力の甲斐あってか、その後5年間は兄はフランの話はするものの、それは友人止まりだった。
まあそんな完璧に格好いい兄の事だから女生徒にも人気でしょっちゅう告白されているのも知っていたし、時には短期間だが彼女がいた時期もあったが、いずれもまずアーサーの事を一番に優先してくれたし、兄の態度は彼女がいてもいなくても全く変わる事はなかったから、取られる気はしなかった。
しかしフランは別だ。
長くても1ヶ月ほどで影が消える女生徒達と違って、フランはかれこれ5年もの間ずっと兄の側に居すわり続けているのだ。
そしてついに兄の自分に対する態度を変えさせる行動に出始めた。
「どうしよう…このままじゃ兄さんをフランに取られる…」
グスグスと泣きながら言うアーサーの手をガシっと握って菊は言った。
「弱気になってはいけません!人事を尽くしましょうっ!」
「…菊……」
手を握り合って盛り上がる二人に、フェリシアーノが少し困った顔をする。
――菊…アーサーのこと大好きすぎるから……
菊は可愛いものが大好きで…ゆえにアーサーの事が大好きだ。
“アーサーさんは私の心の嫁ですっ!!”
と公言するのを憚らないレベルで…
別に本当に夫婦的な意味での嫁ではない。
可愛くて見ているのが好きな相手の事を、菊の周りでは“推し”、あるいは、“嫁”というらしい。
アーサーはそういう意味で、紛れもなく菊の“推し”であり、“嫁”ならしい。
別に自分が相手とどうこうなりたいわけではなく、相手が最高に可愛い様子でいるのを眺めていたい。
出来る事なら相手の幸せに自分が貢献したい。
それが自分の幸せである。
そんな気持ちを持つ相手であるらしいので、今回のこれは菊にとって全身全力で解決しなければならない案件だ。
普段は冷静な菊の目が、若干血走って来た。
暴走は怖い。
普段大人しい人間の暴走は本当に怖い。
そんな気持ちから、フェリシアーノはこの問題を可及的速やかに解決するためにアーサーに聞いた。
「ね、アーサーは結局、お兄ちゃんとどうなりたくて、どこまでやってみる気があるの?」
そこでアーサーが考えこむ。
う~ん、う~んと唸って、やがてコクンと首を傾けた。
「どうしたいんだろう?フェリ、どう思う?」
――予想してたけど、やっぱりそこからかぁ…
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