青い大地の果てにあるものGA_13_29_一族13

アーサーが身にまとうのは菊が用意したのだろうか…
昨今では極東でもあまり着られなくなった着物。
しかも何故か女物。

しかしギルベルトが居た頃の実家では皆、普通に着物を着ていた。


遠い記憶…

ギルベルトの母親は側室だったため、跡取りを産んだ側室の立場が子の産まれぬ正妻を脅かさないようにと、ギルベルトが生まれてすぐ実家に戻されて、そこで亡くなったらしい。

病死…となっているが、一部の噂では正妻から何か…という話もあったが、いまとなっては追及しても仕方ない。

ただはっきりしているのは、ギルベルトは乳が必要だった極々幼い頃をすぎたらすぐ教育係の男衆の中で育てられたので、優しく慈しまれた記憶がない。


母親の膝で甘えて眠る幼子の図と言うのは常に他人を外から見る場合にのみ存在するものだった。

跡取りとはそういうもの…と言われて自身には与えられなかったのに、跡取りの座を追われてからも、何故か母や乳母の膝で慈しまれて育つ弟ルートを横目で見ながら暮らしていた気がする。

もっともルートはそういう女衆よりも自分に懐いていて、3歳にもなると自分のあとを追って来ては文武ともに教えを乞うてきたりしていたのだが…

弟だけではない。
館に住む使用人達もみな、産まれた幼子は母の手に抱かれていた。

その時はもうそれが…自分には与えられないと言う事が当たり前すぎて、どこかずきりとしたものを感じつつも、何故だかもわからずに過ごしてきたのだが、こうして今、子ども達がまるで母に甘えるようにアーサーに甘えているのを見て、羨ましいと思った。

そう、あの頃の自分もきっと、それを羨ましいと思っていたのだろう。


アーサーが柔らかい声で子守唄を歌い始めると、時間も時間なだけに子供達はすぐスヤスヤ寝息をたてる。

「…子供は…いいな」
と、それを見て感情が口を突いて出た。

すると眠ってしまった子どもを優しい手で撫でていたアーサーが顔をあげ、そして小さく微笑む。

「子ども達、布団に寝かせてやってくれ。
そうしたらお前もよしよししてやってもいいぞ」

と、言葉ではからかいの色をみせながらも、その声音はギルベルトの気持ちを正確にくみ取っているように優しい。

その言葉にアーサーの手から熟睡してしまった最年少の子供を受け取って布団に運んだあと、ギルベルトが目を細めて一人一人の布団をかけなおしていると、アーサーが静かにつぶやいた。


「お疲れさん。今日はいきなり悪かったな。
俺も一緒に戦っても良かったんだけどな、ちょっと気になる事きいたんで…。
菊いわく、一族じゃなくレッドムーン本部の方で気になる指示がでていたらしい。
いわく、元極東支部組のジャスティスは何があっても生け捕れということだ。

で、いったんここに来て、極秘にトーニョに連絡取って、桜の警護を強化してくれるよう依頼するついでに、極東支部の生き残りに連絡取ってもらってそれらしき何かを感じさせるような事がなかったか聴取してもらったんだが、そこでまた情報。

今までとは段違いに多数投入されているイヴィルはそれぞれ魔導生物を5体ずつ連れて基地内を回って何かを探している様子だったらしい。

ってことは…だ、探してたのは多分俺と桜な可能性がな、高いなと。

逆に俺らが本部に行ったあとでみつからなかったのが幸いしたんだろう。
おかげで奴らはそれだけの戦力投入しながらも探し物優先だったから、職員に対するせん滅行動に移るのが遅かった。
だから職員がほぼ全員無事に逃げる時間が稼げたってわけだ。
いくら極東の基地が逃げるのに適してたって、ほぼ死人なしに皆逃走できるってのは、考えてみればありえないからな。

てことで…総合的に判断して俺と桜はもう少し状況が分かるまでは出ない方が良いのかもしれないと判断して、匿ってくれるっつ~菊の言葉に甘える事にしたわけだ。

その理由についてはたぶんじきに鉄線が明らかにしてくれるだろうから、それまでは俺と桜は極力乱戦になる場所には出ねえ。

俺の護衛については菊が失踪中の河骨の頭を呼びもどしてくれるらしいぞ。
なんだか人間離れした強さの集団らしいな」

そう説明した後、ほら、来いと、両手を差し出すアーサーに、ぎゅっとギルベルトは抱きついた。

「よしよし、今回は頑張った。
菊が情報持ってくるまで、もう少し頑張れよ」
と、アーサーは自分より大きなギルベルトを抱きしめ返して、それからその頭をゆっくり自分の膝へ誘導する。



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