誰もいないはずなので鍵はかかっていない。
ギルベルトは靴もぬがずに中に入って寝室の洋室に駆け込んだ。
もちろん最終的には断固として両方取り戻すつもりではあるが、それでも…一刻も早く無事を確認して手の中に取り戻したいのは、自分の恋人だと言うのは仕方ないことだろう。
だって自分の大切な恋人は本当に繊細に出来ているのだ。
あまりに恐ろしい思いをし過ぎたら壊れてしまうかもしれない…。
ギルベルトの脳内に浮かぶのは、前回救出した時の精神が病みかけていた恋人。
もちろんあの時とは事情が違うのだが、メンタルが弱いというのは間違いがない。
「…お姫さん…」
フラリとベッドに歩み寄るギルベルト。
祈るような気持ち覗き込んだベッドの上には小さなバッグを胸のあたりに抱えて、まるで眠り姫のようにすやすや眠っている恋人の姿。
安堵で眩暈がした。
「…お姫さんっ!」
ギルベルトがアーサーの上半身を起こして抱きしめる。
温かいぬくもり。
おそらく後ろから何かで眠らされて、そのままずっと眠っていたのだろう。
下手に抵抗する間もなかったのが幸いしたのかもしれない。
かすり傷一つない。
消えた時のまま蝶の浴衣。
「…起きろよ…お姫さん」
静かに声をかけると、アーサーは特徴的な少し太すぎる眉をちょっと可愛らしくよせた。
「…ん…もうちょっと…だ…け…」
薬がそろそろ切れて目覚めかけてるらしいが、途切れ途切れにそうつぶやいてまた眠りに落ちそうになるお姫様に、ギルベルトは少し目を細めて
「…起きてくれ…お姫さん…」
と、軽く唇を重ねた。
温かく…柔らかい感触。
ギルベルトがそうして恋人がちゃんと生きている事をあらためて実感していると、パチリと白いアーサーの瞼が開いた。
「…おはよう、お姫さん」
感極まって少し潤みかけた目で微笑むギルベルトをは不思議そうに見上げてパチパチと二度まばたきをする。
そのままポカ~ンと硬直するアーサーをギルベルトは抱きしめた。
「どこも…痛いとか苦しいとかないか?」
「…?」
抱きしめられたままきょとんとするアーサー。
「えっと…どうしたんだ?」
本気で…ずっと寝てたようだ。
そしてギルベルトは今、何故だかひどく感情的になっているらしい。
自分をそっと抱きしめている筋肉質な腕が震えていて、頭をおしつけられている厚い胸板に耳を寄せれば、鼓動が早鐘を打っているのがわかる。
なので、より冷静そうな方に聞くのが正しいだろう。
アーサーそう判断して、少し離れた所でたたずんでるルートをに視線を向けた。
状況がホントにわかってないらしいアーサーにルートは苦笑して答える。
「あ~…お前はついさきほどまで誘拐されていたのだ。で、今兄さんが救出したところだ」
「…??」
と、そのルートの言葉も起きぬけの頭では容易に理解できなくて、アーサーはきょとんと小首を傾げた。
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