そのせいで唯一の相手と見てもらえない?
それとも出会った状況が悪かったのだろうか……。
ああ、でもあの出会いはアーサーにとっては大切すぎて否定したくても出来ない記憶だ。
それが兄、ギルベルトの父親だ。
それまでアーサーは幼稚園に行く事もなく家庭教師がついていたし、両親とも仕事が忙しく、たまに帰ってきたかと思えば喧嘩ばかりしていて、アーサーに目を向ける事は限りなく少なかった。
だからあの顔見せの日、
「宜しくな、アルト」
と、わざわざしゃがんでアーサーに視線を合わせて笑いながら頭を撫でてくれた兄は、まるで暗い世界で唯一自分を明るく照らしてくれる太陽のような存在だった。
おどおどとした自分と違い、明るく友達もいっぱいいて、頭も良く運動も出来る。
兄は全く完璧な人だった。
そんな兄はアーサーがただ“お兄ちゃん”と呼ぶだけで、その小さな訴えを聴きとって駆けつけてくれる。
笑いかけてくれる。
兄の事を好きな人間は星の数ほどいて、いつでも人の輪の中心にいるのに、たった一人、自分のために全てを置いて駆けつけてくれるのだ。
親にすら見向きもされず育ったアーサーからしたら、兄はヒーローで神様だった。
小さい頃は兄と同じとまではいかなくても、兄を囲む友人たちくらいに、いっぱい勉強をして運動も出来るようになれば、兄と一緒に学校に行けると信じていた。
だから勉強もしたし運動にも励んだ。
まあ日本の学校制度ではいくら勉強しても飛び級は出来ないと知った頃には勉強をするのが習慣になっていたので、成績は常にトップクラスだ。
それでも小学校時代は兄が5年の時に同じ小学校に入学して、毎日二人で手をつないで学校に通えて幸せだった。
兄は学校でもやっぱり人気者で児童会の会長をしていて、とても格好良かったし、そんな兄が事あるごとに弟の自分を気にかけて様子を見に来てくれるので、同級生にもとても羨ましがられた。
しかしそんな幸せな2年間はあっという間に終わりを告げ、兄は卒業して中学生になる。
フランはそんなアーサーが兄の学校生活をつぶさに知る事が出来なくなった中学校からの友人だ。
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