ブラザーコンプレックス_2_弟の悩み1

「アーサーさん…大丈夫ですかっ?!」
「ア~サ~、教室のドアは自動じゃないからねっ」

呆れたように言う菊の横で、フェリシアーノが笑いながらアーサーのためにドアを開けてやる。


「…兄さんが……」

普段なら礼を言うところだが、閉まったドアに激突したことも気づいていないくらい呆然とした様子で、アーサーはブツブツと呟きながら自分の席に座ると、机に肘を付いて両手で顔をおおった。

「どうしたんですっ?」
「なあに?愛しのお兄ちゃんになんかあった?」

と、その友人のタダ事ではない様子に、優しい友人二人はガタガタっとそれぞれアーサーの前と斜め前の自席に後ろ向きに座ると、心配そうにアーサーの顔をのぞき込んだ。


「ヴェ、泣いてる?泣いちゃってる?」
とワタワタ慌てながらもフェリシアーノが差し出すハンカチを受け取ってグズグズと鼻をすするアーサーに、

「一体どうしたんです?」
と、菊がその細く綺麗な指先でアーサーの頭をなでてやる。

「…兄さんがっ……」
「「うんうん?」」

昨日…弁当を残してきたんだ…

それだけ言って泣き崩れるアーサーに、友人二人はドベっとずっこけた。


「あのね…」
と呟いたあと、言葉を探すフェリシアーノの代わりに菊が言わんとすることを察して代弁する。

「お兄様だって食欲無い時とか、時間がたまたまない時とかあるのでは?」

その若干呆れも入った菊の言葉に、アーサーはハンカチに顔を埋めたまま、フルフルと頭を横に振った。


「兄さんが中学に入ってから5年間…毎日心を込めて作ってたけど、こんな事は一度もなかったんだ…。
しかもそれだけじゃない…。
昨日は自分の時間も必要だろって、いつもなら帰って二人で居間で宿題して、ご飯作って食べたら一緒にソファにくっついて座ってお互い本読んだりテレビ見たりして、一緒にお風呂入って、一緒に寝てたのに、兄さん、一人で部屋に篭ってしまったんだ」
と、それだけ言うと、ワっと泣きながら机に突っ伏した。

「それは……」
「おかしいね……何故か聞いてみたの?」

「いえいえ、フェリシアーノ君、おかしいのポイントが違うのでは?
一般的には高校生と中学生の兄弟でそこまでベタベタ一日中一緒にいないと思いますよ?
ソファでくっつくのが日常ってのがすでにおかしいし、風呂も一緒に入らないし、一緒にも寝ません…」

一般ピープルの自分の視点からすると、それをしないのが普通だ。

しかしフェリシアーノは極々当たり前と言った表情で、

「いや、とりあえず一般的にどうであれ、アーサー兄弟にしたらくっつくのが普通で、離れるのが異常なんでしょ?
今は一般的、一般的じゃないという話をしているわけじゃないんだよ。
とりあえずアーサー達の“普通”の日常が覆された理由を見つけるべきじゃない?」
と、意外にまともな発言をして、菊を感心させた。

「なるほどね…。そう言われればそうですよね。
で?理由聞いてみました?」
と、菊が先をうながすと、アーサーは机に突っ伏したまま小さくうなづいた。

「フランに言われたって……。俺を束縛しすぎるなって」

「フランって誰です?」

「…兄さんの友人…。
電話かかってきたことあるけど、なんか気障な感じの奴。
兄さんが学校の話をする時はいつも話題に出てくるんだ。
もしかして俺はあんな奴に兄さんを取られるのか?」
グスンとまだ鼻をすすりながらも顔をあげるアーサー。

大きな目は泣いたせいで真っ赤で、心細げに眉を寄せる様子は、童顔も相まってどことなく幼い子どもを思わせる。


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