ブラザーコンプレックス_1_兄の日常2

彼の最愛の弟は4歳年下で名前はアーサー。
相性はアルト。
ギルベルトの父とアーサーの母の再婚によって出来た義理の弟である。


――ぎぅべぅとたん?

10年前の互いの家族の顔見せの時……

父の再婚相手の綺麗な女性の後ろにへばりついて顔だけチラッと出しながら、零れ落ちそうなほど大きく丸い目でそう言って見上げてきたアーサーの愛らしさに、ギルベルトは生まれて初めて胸のときめきを覚えた。

父性本能とか保護本能とか、そういうものがグラフになって見えたとしたら、その瞬間一気に最高値まで上がりきったのがわかっただろう。

しかし出会いの衝撃はそれだけでは終わらない。

小さな息子を少し前に出しながら、

「アーサー、今日からはギルベルトさんじゃなくて、お兄ちゃんよ」

と言う義母の言葉に、幼児は恥しそうにうるうると目を潤ませながらうつむいて、次の瞬間、おそるおそる…と言った感じに幼児特有の高い声で言ったのだ。

「…おにい…たん?


どっか~ん!!

この時、ギルベルトのときめき保護本能ゲージが限界を突き破った。

なに、この可愛い生き物っ!!
生き物っつ~か、これ絶対に天使だろっ?!
マジ?マジ?地上にいて大丈夫なわけっ?!!
俺、天国まで送ってこうかっ?!マジ送ってくよっ?!!

と脳内ワタワタと動揺しながらも、こちらもおそるおそる

「宜しくな、アルト」
と、しゃがんで幼児に視線を合わせながら、その頭をくしゃくしゃっと撫でてやると、幼児は一瞬びっくりしたように目を大きく見開いたが、次の瞬間へにゃっと可愛らしく笑った。

この瞬間からギルベルトの人生の目的は、この天使をいかに世俗の害悪から守るかという一点に絞られたわけである。



ゆえに彼女というモノを持つのは良いが、前提条件はこのギルベルトの高尚な目的に理解を示し、出来うる限り協力的な女性という事になる。

弟を最優先は当たり前。
むしろ彼女の方も彼氏である自分よりもアーサーの事を優先して欲しいくらいだ。


当然休日は、平日は学校が違うため一緒にいてやれない分一緒にいてやりたいので、可愛いアーサーを置いて二人きりで出かけるなどありえない。

それでは学校にいる間は…というと、とりあえず手作りの弁当などは弟が毎日作るのでバツだ。

二人の時の会話の半分はいかに弟が可愛らしいかである。

残りの半分?
もちろんそんなのそこまで可愛らしい弟を一人で学校にやるのがいかに心配かに決っている。


ギルベルト的にはもちろん、大切な弟のそんな可愛い面を誰彼かまわず吹聴して、変に興味を持たれても心配なので、それを言う相手はある程度信頼できる相手で、彼女にはその信頼を寄せているからこそ話すわけなのだが、何故か向こうからは

そんなに弟が大事なら弟と付き合いなさいよっ!!ばかあぁ!!!!
と、信頼に対する見返りとしてはあまりにもな平手打ちと共に別れを告げられるのだ。


「何がいけないんだろうな…」
と、本気でわかっていないらしい呟きに、フランシスの方こそため息をこぼす。


――これがなければ良い男なのにねぇ……

と、彼女に次々フラれるギルベルトの数少ない弟自慢ができる相手である悪友は思うわけである。


「お前ねぇ…わからない?」
と呆れて言えば、

全然。
俺の天使と一緒にいる権利を少し分けてやるなんて最大限の愛情を示しているのに、何が相手を怒らせるんだろう…。
いっその事、俺抜きでアルトを愛でたいとかそういう事か?」

と、こちらは冗談抜き、真面目な顔でそう返してくるので、フランシスは机に突っ伏した。


駄目だ…この男……

そう思うと同時に、こんなブラコン兄貴にがっちりガードされている弟の身を案じてみる。

ギルベルトの方はそれはそれは可愛い弟と居られれば彼女なんてどうでも良いのかもしれないが、弟だってもう中学生だ。
そろそろ思春期にもなるし、女の子に興味を持つ事もあるだろう。

「ねえ…もしも…もしもよ?天使ちゃんの方が彼女とか連れてきたら、お前どうする?」

と答えがわかってる気もするが聞いてみると、ギルベルトは箸を持ったままピキっと固まり、次の瞬間

まだ早いっ!!
まだあんな幼くて純粋なアルトに手を出そうなんて女、ロクな奴じゃねえっ!!
そんな奴をあのピュアで可愛くて可愛くて可愛いアルトに近寄らせるわけにはいかねえっ!!
断固阻止するっ!!!!!」

と、ドン!!!と机を叩いて力説した。


ああやっぱり……可哀想に…弟君……。
とフランシスは額に手をあて、天井を仰いで嘆息した。

「あのねぇ…中学って言えば思春期だから。
第二次性徴ってだいたい小学校高学年から中学くらいには始まるって習わなかった?
弟くんだって中学生なんだから性に興味持ってもおかしくないお年ごろなのよ?
いつまでも赤ちゃんじゃないの。
だんだんお兄ちゃんより彼女と居たくなるようになるんだから、あんまり束縛しちゃ可哀想よ?」

とフランシスはおせっかいと思いつつも、この放っておけば少なくとも弟が成人するくらいまでは弟に構いまくるであろうはた迷惑な兄に振り回されるであろう弟のためにそう忠告すると、ギルベルトはあまりの衝撃の事実にピキ~ンと固まったまま、昼休み終了のチャイムを聞くことになった。



Before <<<  >>> Next(11月23日0時公開)


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