昼休み早々の校舎裏への呼び出しから戻ったギルベルトにそう声をかけたのは、悪友のフランシスだ。
友人知人は鬼のように多いギルベルト・バイルシュミットの、しかしこれは数少ない気のおけない悪友の1人である。
と、短く答えてカバンから弁当を取り出すギルベルト。
「あら、だって付き合わないんでしょ?」
とさらに追い打ちをかけるフランシスに、ギルベルトは大きくため息をついて肩を落とすと言った。
「仕方ねえだろ、いつも理解と協力を求めたらフラれんだから」
と言いつつ待っていてくれたのであろうフランシスを待たずにさっさと開く弁当箱。
そこには可愛らしい色取り取りのおかずにギルベルトの高校のバスケ部のユニフォームがふりかけと海苔で描かれたご飯が鎮座している。
ギルベルトの前の席のフランシスは、机をクルリと反転させてギルベルトと向かい合うと、その弁当を見てクスクス笑った。
「相変わらず可愛いね。まるで愛妻弁当だよね」
「だろっ?俺のアルト、めちゃくちゃ可愛いだろ?
あれは俺様がここの中等部に入った時のことだな…
給食じゃなく弁当だって知って、俺様の弁当を作りたいとかもう、天使っつ~の?
それまで料理なんてしたことなかったのに、そのために猛特訓してくれてな。
毎日あのしらうおのような手で一生懸命作ってくれるなんて本当に天使だよなっ!
アルトほど健気で可愛い中学生はこの世のどこを探しても……」
「いやいやいや、弟君の事言ってないからっ。お弁当の事だから」
「お前、わかってねえよっ!俺のアルトの可愛さはな…」
この男に最愛の弟を語らせたら昼休みが終わってしまう。
なので突っ込みを入れたがかえって熱弁をふるわれそうになって慌てて先回りする。
「はいは~い!わかってますっ!天使ちゃんなのよね?
不浄なこの世に舞い降りた穢れなき天使ちゃんねっ」
「わかってりゃいいんだよっ!」
「………」
この二人のやりとりはもう半ば日常の一コマだ。
ギルベルト・バイルシュミット17歳。
顔良し、成績よし、身長も高く、運動神経バツグン、性格も真面目だがそこそこ明るく責任感が強く面倒見が良い。
こんな男だから当然モテる。
昼休みに放課後にと、女子からの呼び出しは後をたたない。
だがその8割は告白時に、そしてそれでも残った強者2割も大抵つきあって1ヶ月も経たずにギルベルトに呆れて去っていく。
『付き合うのは良いけど、俺はなんかあったらあんたより弟を優先するし、弟と仲良くしてもらえないならやっていけないから別れるけど。
俺のアルトは世界で一番可愛い中学生だから、会えば絶対に好きになるけどなっ。
絶対に変な気起こすなよ?
あいつはこの世に舞い降りた天使みたいなモンだからなっ。汚すなよっ?』
という厨2病+ブラコン÷2としか言いようのない、実に残念な発言によって……。
そう、ギルベルトは重度のブラコンだった。
その有り余る長所を全て台無しにするレベルの残念さの…。
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