温泉旅行殺人事件_殺人者の影と捕らわれの姫4

二人が中に入ってくると、ギルベルトは温かいお茶をいれる。
ルートは湯のみを手にして、ようやく自分が冷えきってた事に気付いた。

「ルート君、良かったじゃないか。お兄さんが意外に元気そうで」
雅之が温かい笑みをルートに向ける。
ルートはそれに笑みを返して応えた。


「心配…かけて悪かった。」
ギルベルトはルートの正面に腰を降ろす。

「氷川さんもありがとうございます。
でももう大丈夫そうなんで…」

ギルベルトの言葉に氷川は無言で不思議そうな視線を送り、それに気付いたギルベルトが続ける。

「さっき誘拐された1人の実家から電話があって…誘拐犯から身代金の要求がきたそうです。
今回の殺人事件に巻き込まれてという事なら生存の可能性はほぼないに等しいと思ってましたが、身代金目的なら帰ってくる可能性はかなり高いかなと。
たしか…戦後以降の営利誘拐のおよそ85%は無事解決してますし。
身代金はその子の祖父が9時に銀行があいたらすぐ用意させるって言っていたので、ほぼ大丈夫だと思います。
その子の親は現在海外なので、全部俺らに振るように警察に言ったっていうことだったんで、身代金とかの受け渡しは自分でさせてもらえそうですし」

戦後の営利目的誘拐の解決率なんて情報がすぐ出てくるあたりがさすが兄だと思いつつも、ホッと胸を撫で下ろすルート。

「まあそういうことなら兄さんがやるなら間違いないな…。
これで事件解決か。明日には4人揃って食事できるな」
と言うルートの言葉に続いて、雅之が少し驚いた様子で言う。

「そんな大金即用意できる親御さんもすごいが…営利誘拐の解決率なんて言うのがスラっと出てくるギルベルト君もすごいな」

「ああ…誘拐されたフェリちゃんの家はかなり裕福な家なので。
で、俺らの親は実は警察関係者ということもあって、わりあいと日常的にそんな会話が飛びだします」

それにギルベルトが説明をする。

「なるほど。でももう一人のお嬢さんは?」
と言う雅之にギルベルトが

「あ~…一緒に誘拐されてるならフェリちゃん返してお姫さんだけ残しておく意味なんてないでしょうしね。
そのくらいならせいぜいお姫さんの分も2倍身代金要求するくらいでしょう?
まあ…要求されたらフェリちゃんの家は普通に出すと思いますし、出してもらえなければうちで出します。
その辺りは詳しくは聞いてませんが…まあ生きている人間を連れて逃げ続ける意味はないですし、殺したらさらに罪状重くなりますから。一人返しておいて一人だけ意味無く殺す馬鹿はいないかと…」
と、淡々と説明する。

「そ…そうだよね」
あまりに慣れた様子で普通にとんでもない説明をするギルベルトに少し雅之は引いている模様。

ルートは逆にそのギルベルトの様子に、立ち直りかけてるな、と、ホッとした。


「ところで…」
と、こちらの話は一段落という事でギルベルは持ち前の探究心に火がついたのか、雅之に視線を向ける。

「奥さんがあれからまた事情聴取というのは?」
いきなりふられて少し驚きつつも雅之は説明した。


「ああ、行きのバスの中のやりとりは覚えているとは思うが…妻は殺された小澤さんと昔つきあっていた事があってね。まあ小澤さんをここに呼び出したのも妻なんだ。
でもその呼び出し方にちょっと問題があって…あの時は他の人に聞かせる事でもないんで言わなかったんだが、実は妻が小澤さんと別れる原因になった浮気というのが妻の親友と小澤さんの浮気というのはその通りなんだが、その後、その親友はここからそう遠くない崖から投身自殺しててね…。
その自殺した親友の名前を使って小澤さんを呼び出したものだから。

彼女にしてみたらほんのいたずら心だったんだ。
元々彼女はなんていうか…そういう…まあ夫の口から言うのもなんだが常識はずれたところがあってね」
その言葉にギルベルトとルートは、本当にそんな感じだよな、と苦笑した。

20年も前の事だし、今はこうして幸せに暮らしているし、その生活を崩すつもりなんて妻には全くないんだ。
ただ、妻としては、カッとなりやすい人間なんでその時親友をすごい勢いで罵って責めた事で親友が自殺してしまったと思ってて…謝罪したかったんだ、彼女に。
で、親友の自分よりも彼女が愛したであろう小澤さんにも花を手向けてあげて欲しいと呼び出そうと思ったわけなんだが…例の悪い癖が出て…。
妻的には本当に過去の事でもそんな呼び出し方したんで、警察の方でもね…色々と疑われたわけで…」

本気で困ったものだよ…と、ため息をつく雅之に、悪いと思いつつ内心おかしく思うギルベルトとルート。



そんな話をしながらちらりと時計に目をやるともう7時半だ。
仲居さんが食事を運んでくるのでルートも雅之も自室の離れに戻って行く。

ギルベルトは並べられた料理を見て小さくため息。
さすがに食欲はない。

それでもこれから身代金の受け渡しがあるわけだろうから…昨日胃の中の物を全て吐いているし、絶食はよろしくないだろう。

ギルベルトは自分の荷物の中からバランス栄養食品の類いや各種ビタミンのタブレットを取り出すと、無造作に胃に流し込む。


そして少し希望が見えて来たところでいつもより遅い基礎鍛錬をしていると、9時半、警察がギルベルトを呼びに来た。



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