震えが止まらない手にはじっとり汗をかいている。
しかし何故か、その手の汗が乾いてしまうほどの時間がたっても手術室のドアは開かれない。
まさか何かあったのか?!
また手足が震えてきた。
子どもの泣き声は普通に聞こえてきたということは、イギリスに何かがっ?!
限界だった。
いついかなる時もどんなピンチでも、膝をついたら終わりだと、震えながらでも立ち続けて来た足から力が抜けて、へなへなとその場にへたりこむ。
そして…嗚咽。
そんな風に感情に流されて泣きわめくなど軍国として騎士としてあってはならないと思い続けて律してきたものがガラガラと崩れた。
道しるべを失って行く先がわからなくなった幼い迷い子のようにただただ泣く。
そんな時だった。
震える携帯。
発信者を確認する余裕もなく、反射的に出ると、しゃくりをあげているのがわかったのだろう。
電話の向こうから一瞬息を飲む声。
しかしすぐ穏やかな落ちついた声が聞こえてくる。
──プロイセン君、今私イギリス国内にいるんですよ。伺ってもよろしいですか?
世界一空気を読む国と言われる東の島国…。
かつて色々な事について指導してやったため、自分の事を師匠と呼んで敬ってくれるが、彼は自分より遥かに長い年月を重ねて来た国だと、この時実感した。
「…日本…日本、日本……どうしよう…」
事情も説明せずに嗚咽するプロイセンに、日本はまるで孫をなだめる老人のように、静かに穏やかに
「はいはい。爺が行きますからね…。場所を教えて下さいね」
と、余分な事を言って感情を刺激する事なく、必要な事だけを訊ねてくる。
そこで施設の場所を告げると、おそらく地図を調べているのだろう。
一瞬の間があって、すぐ
「そうですね…1時間以内には着くと思いますので、爺が行く事を係の方に伝えておいて下さいね」
と返事が返って来た。
こうして電話が切れると、また廊下で頭を抱えてしゃがみこんだまま、子どものように泣くプロイセン。
しかしそれからすぐ手術中のランプが消えた。
「……っ!!」
はじかれたように立ち上がって手術室のほうにかけよるプロイセンの前でドアが開く。
「おめでとうございます。男女の双子のお子さんですよ」
と、笑顔で出てくる看護士を押しのけるように
「アルトは?!」
と中を覗き込むようにすると、移動用ベッドで眠っているイギリス。
「まだ麻酔が効いて眠っていらっしゃいますよ」
と、なんでもないことのように言われて力が抜けた。
Before <<< >>> Next (6月24日0時公開)
0 件のコメント :
コメントを投稿