イギリスが手術室に運ばれていったのは丁度昼の12時だった。
手術室のドアまで付き添って、そこで運ばれていくのを見送って、パタンとドアが閉められた瞬間、プロイセンの胸中を不安が占める。
実際プロイセン自身はその喪失が恐ろしくなるくらいには、自分にとって家族と言えるレベルの相手を失った経験があるし、元々が修道会で医療に従事する事も少なくはなかったため、普通の死というものもおそらく普通よりもかなり多く見て来たほうだ。
そして自身も国でなくなったため一時は常にそれを意識し続けて来たというのもあり、おそらく死や消失というものは、他の国々よりもかなり身近に感じ続けて来た。
だからこそ、恐ろしい。
喉から手が出るほど子どもが欲しかった…しかしそれはイギリスが無事という前提だ。
子どもが居れば以前のように簡単に繋がりが切れない、まず第一の理由がそれなのだから、伴侶を失ってまでという事ではない。
点灯する手術中のランプをジッとにらみつけて、冷や汗をかく。
あまりに幸せすぎる状況だったがゆえに、逆に反動で何かあったらどうしようと怖くて仕方がなくなる。
普段は理性で押し込められているマイナスの感情が脳裏を占めた。
ソファに座る気もせずウロウロとドアの前を往復する。
イギリスになにかあったら…それはプロイセンにとって一人で抱えるには重過ぎる不安だった。
なにしろ自分が死ぬ、自分が消えるという可能性は随分と長い間抱え続けていたが、今もなお大国として君臨するイギリスが死ぬなんて事は考えた事もなかったし、そんな覚悟は到底できそうにない。
自分が守るはずの対象が自分より先に死ぬ…そんなことに怯えたのは、7年戦争時のフリッツの親父ことフリードリッヒ2世以来だ。
あの時はどういう風にその不安に耐えた?
と思いだそうとしても、あれはあれで辛い体験だったので自衛本能なのか、エリザベータ女帝が急死して戦局がひっくり返る頃までの記憶はうすぼんやりしている。
辛い…怖い…でも国であるプロイセンにはそんな時に無条件に泣きつける相手などいない。
こうしてとてつもなく長い時間がたったように思われたが、それは実際はほんの20分もたってないくらいだった。
ピエェェとか細い泣き声がプロイセンの耳に飛び込んできた。
(…無事…産まれた…のか……)
緊張がドッと解けて、プロイセンはその場にしゃがみこむ。
嬉しいとかいうより、ただただ安堵が心を占めた。
もう緊張のあまり泣き声がこだまして音声多重に聞こえるほどだ。
0 件のコメント :
コメントを投稿