のっと・フェイク!verぷえ_第三章_1

前夜

「いよいよだな……」

イギリスが大きなお腹を抱えて入院したのは帝王切開をすると決っている日の前日だ。

国であるとか男であるとか色々極秘なので、国が用意した特別な施設で、関係者以外立ち入り禁止ということもあり、静かなものである。

各国で色々騒動になっているので、場所はプロイセンとイギリスの他はドイツとカナダしか知らない。



「なんか…コソコソと悪い事してるみたいだな……」

イギリスは静かすぎることに少しナーバスになる。

普通の妊婦でもマタニティブルーというものにはなるらしいが、なにしろ元々が悲観主義者のイギリスである。
本来は出来ない男が本来は出来ない子ども…ということで、子どもを身ごもってからずっとこんな風に情緒不安定だ。

プロイセンなどは、自分が最初にそれを望んだと言うのもあるが、それを別にしても、本来出来ない相手との本来出来ないはずの子どもというものは、非常に稀なレベルの幸運だと思うのだが…


まあイギリスがそれで気がすむというのなら、この場所を漏らせば絶対に押し掛けてくる国は少なくはないと思う。

しかしそれをしたくない理由はたぶんにある。

「ん~、この場所ばらせばみんな押しかけてきて大騒ぎだけどな。
でも他に知らせると赤ん坊産まれた瞬間から取り合いで、親のとこに戻してもらえない気ぃしねえ?
俺様は最初くらいは親子水入らずで過ごしたい思うんだけど…。
うるせえだろうしアルトだってゆっくり休めねえぞ?」

ここ数カ月のスコットランドだのアメリカだのハンガリーだのの大騒ぎ思い出してみろよと、プロイセンにに言われて、イギリスは、ああ、そうだったな、と、そこで思い出して苦笑した。

「それでもアルトがそうしたいって言うなら知らせるぜ?
来ていいって言ったら皆喜んで来ると思うけど…知らせたいか?」

と、さらにプロイセンが畳み掛けると、イギリスは小さく首を横に振った。




「ずっと腹ん中いたから出ちまったら少し寂しいだろうな…」

お腹をなでるイギリスの手にそっと自分の手を重ねるプロイセン。


「俺様はずっとアルトの腹越しの接触だったからな~。
早く直接抱っことかしてやりてえー」

可愛いだろなぁと嬉しそうにお腹に目をやるプロイセンに、イギリスも少しナーバスさが薄れ、楽しい気分になってくる。

誰に望まれなくても少なくとも両親が望んでいる。

それだけで十分ではないか…。


親子であの暖かい2人の家でひっそり暮らそう。

実兄がスタイに刺繍をしてくれなくなったなら、自分がすればいいのだ。

刺繍なら得意だ。

それをつけた赤ん坊にミルクを与えるのはプロイセンだ。
料理全般得意だし、子ども育て全般得意な、自他共に認める子育て成功者だ。


プロイセンはイギリス似の子どもが良いと言ったが、プロイセンに似たほうが他人に好かれる子どもになる気がするな…などとイギリスも生まれたあとに思いをはせた。



「男かな…女かな…」

スコットランドは女の子希望で…ハンガリーは男が良いと言っていた。

日本は男の子ならハリポタ、女の子なら不思議の国のアリスのコスプレがいいですっ!と、微妙にずれた返事をよこし、アメリカは男でも女でもイギリス似なら良いとプロイセンと同じ事を言っていた。


「男なら一緒に鍛錬してヴェストみてえなムキムキで頼れる男に育てるし、女だったら可愛くも清楚な淑女に育つといいな」

どっちも楽しそうだ、と、笑うプロイセンは本当に嬉しそうで、イギリスもなんだか楽しくなってきた。


「子どももアルトも無事なら本当に性別なんてどっちでもかまわねえよ。
ヴェストを育てたりはしてきたけどな、今度は弟とは違って正真正銘自分の子だぜ?
国を背負ってたりもしねえから、普通の親子みてえに、ただ可愛がって、色々教えて、たまにはきっちり怒ったりもして…
そんな普通の家族みてえな生活を出来る日がくるなんて、夢にも思ってなかったぜ。
ましてやアルトと俺様の血引いた子なんて、ほんとうに幸せすぎて夢見てえだ」

ピクニックに水族館に遊園地…と、家族で行ってみたかったという場所を指折り数えるプロイセンの楽しそうな声に、なんだか安心すると共に眠気が襲ってくる。


そのままウトウトと眠りについたイギリスがその日見た夢は、子どもを挟んで歩くプロイセンと自分の幸せな時間の夢だった。




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