炎の城と氷の婚姻_第五章_4


つまり…ギルベルトがここに戻ったのは、死ぬ前に最期の挨拶がてら、アントーニョに覚悟を促しにきたということなのだろう。

おそらくギルベルトが戦死した時点でこちらとエリザに連絡が行き、その時点でエリザがどうにかして撤退。

アントーニョ達は退避という流れになる。


アーサーが居る事をきづかってその手の話は一切しないが、

「お姫さんか…
美人になるな、きっと。
エリザが護衛としてつく事になると思うけど、フライパン振り回すような女には育ってくれんなよ?」

と、そっとその小さな頭を撫でながら言う言葉で、その未来に自分が居ないという覚悟がみてとれる。


「さて、んじゃ、行ってくるか~!」

しばらく名残惜しげに赤ん坊の頭を撫でていたギルベルトだが、そう言って頭から手を放そうとした瞬間…パシっとその指を赤ん坊が掴む。

「…へ??」

驚きに目が丸くなり、すっとんきょうな声が出るが、そう言えばさきほどまでずっと泣いていた赤ん坊は泣きやんでいて、瞑らな目でじっとギルベルトを見あげたまま、手を放す様子がない。


「もしかして俺様懐かれた?」

その行動にギルベルトが破顔した。

「お姫さん、俺様ことりさんのようにカッコ良く戦ってこねえとだからな?
放してくれな?」

と、その小さな手をそっとはがすが、そこでドアへと歩きかけた瞬間…アントーニョの腕の中からいきなり赤ん坊が消えた。

「「へっ?!!!」」

驚く大人達を尻目に、赤ん坊は悠々と宙を移動し、ギルベルトの胸元に移動する。
そしてスルスルと高度を落とす赤ん坊に慌てて差し出したギルベルトの腕の中にすっぽりとおさまった。

「ちょ、どういうことなん?!」
「俺様にわかるわけ……」

とりあえずアントーニョの腕の中に戻そうと戻るギルベルト。
しかしアントーニョの腕に戻した瞬間に、赤ん坊はまたその腕を抜けだしてギルベルトの腕に戻ってしまう。

何度かそれを繰り返したあとに、外までのドアをそっと開けて再度アントーニョの元に赤ん坊を戻したギルベルトはわき目も振らずにダッシュ。

しかしそのあとを凄まじい勢いで飛ぶ赤ん坊。

呆然と見送る両親…。


「…どないしよ…あれ…戦場までついてくつもりちゃう?」

と、アントーニョも追うかどうか悩むが、アーサーがその腕をそっと取った。

「たぶん…陛下が以前言ってたように、彼女は“森の民の女”なんだと思う」

何かを悟ったように言うアーサーの言葉通り、諦めたギルベルトの腕に抱かれて戦場まで同行した赤子は、その将軍と配下の周りに嵐を巻き起こし、向かってきた敵兵に雷を落として、敵軍を恐怖の渦に巻き込んだ。

それで敵は悟ったのである。
もうなんびとたりとも太陽の国に敵対して勝利する事は敵わない。
全てはなされてしまって、すでに手遅れなのだと言う事を。


彼女”は自らの能力で、正統な王位継承者であるという出自を証明することとなり、その圧倒的な正統性で信心深く迷信深い森の国の国民の圧倒的な支持を受けて、現王を排して太陽の国と森の国の王位を兼任することとなった。

そして取って返したギルベルトの兵と間近で展開される“彼女”の能力に、大国である雲の国もまた、国境から慌てて兵を引き、自国の防衛にのみ力を注ぐようになる。


こうして戦いはあっけなく幕を閉じた。




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