泣くだけ泣いたあとにイギリスの出した結論は、結局そういう方向のものだった。
なにしろ今回はもう離れる事はないと思っていたので、周り中に言ってしまった。
近所の人間と違って全国に散らばる国体達の記憶のみならず、送ってしまった結婚報告のハガキをどう回収するかも、難しい問題だ。
さらに言うなら、今回はおそらく妖精さん達はプロイセンの味方だ。
もちろん自分よりもプロイセンを大切にしているというわけではなく、自分の幸せのためにはプロイセンの言う事を聞いておいた方が正しいと思われると思う。
そう、そもそも妖精さん達のこの行動はプロイセンがこれで自分をもっと大切にしてくれると信じてのものなのだから。
むしろそのせいで一刻の猶予もない。
妖精さん達が腹の子の存在をプロイセンにバラしたら終わりだ。
そういうわけで、時間もなければ協力者もいないとなれば、段階を踏んで少しずつやるしかない。
なので、まずここにいる間のプロイセンの記憶を全て消す。
妖精さん達との交流の記憶がなければ、自分が言わない限り、プロイセンは妖精さんの存在に気付かないだろうし、気づかなければ信じるも信じないもないので、当然見えない。
その後は…ここにいるのは当分遊びに来ているのだとでも言おう。
その間に次のターゲットはドイツ。
そう、プロイセンが帰る先なのだから、真っ先に忘れてもらわねば困る。
その後は本当に少しずつ、プロイセンに近い国体から記憶を消していくのだ。
そう決めてイギリスは妖精さんが寝静まった夜にプロイセンにも睡眠薬を盛って眠らせた。
プロイセンがそれを知ったのはこの結婚後だが、イギリスは数百年前、人間の女性に化けて一緒に暮らしてからずっと、この男と家庭を築いていくのだと思っていた。
ずっとずっと、そう思っていた。
でも…それも終わりだ。
今後二度とこの男は自分の手には戻らない。
手放してそれきり…こんな風に無防備な姿を目にする事はないだろう。
…大丈夫…大丈夫だ。俺はもう1人じゃないんだから……
悲しくて胸が痛くて、一瞬死んでしまいたいと思うくらい気分が落ち込んで…でも…と、イギリスはそっと両手を腹にあてる。
そう、男を永遠に失う代わりに、自分には男との子どもが残るのだ。
しっかり育てないと…と、気力を振り絞ってイギリスは宙からステッキを取りだした。
…さよなら…プロイセン……
止まらぬ涙を拭って、小さく小さくそう呟いてステッキを振りあげた瞬間…
──俺様…勝手に俺様を判断して勝手に俺様から逃げるのは許さねえって言ったよな?
という声と共にステッキを握る腕を掴まれて、それをとりあげられた。
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