炎の城と氷の婚姻_第四章_2

こうしてマルガリータが想像していたものと色々が違う現実を決定づけたのは、バイルシュミット将軍の執務室に辿りついた時に、彼が当たり前に立ちあがって彼女を迎える事もなく、そしててっきり案内役と思っていた兵士達がそのまま下がる事なく、彼女の左右と後ろを囲むように立ち続けていた事だ。

ここに来てマルガリータはようやく様子がおかしい事に気付いた。

確かに彼は国の重鎮である。
しかし未来の国母に対して座ったままで出迎えるのはさすがに無礼というものだ。

しかし室内はそれを口に出来るような空気ではなかった。

バイルシュミット将軍は挨拶もなしに、いきなり質問を投げかけて来た。

「…さきほど正妃様が自死を図られたが、それに関してなにか心当たりは?」

声を荒げたりはしないが、冷やかな声音。
厳しく躾けられしっかりしているとは言っても、マルガリータは有力貴族の娘だ。
こんな冷やかな声をかけられた事はない。

…怖い…と初めて思い、しかしそれでも彼女は自らの立場を忘れはしなかった。

冷静さを欠いてはいけない取り乱すな…
そう自分で自分を叱咤して、クイっと顎をややあげて、敢えて見下ろすように目の前に座る男を見下ろした。

「将軍の耳によもや未だ入ってはいないとは思いませぬが…正妃様の生国である森の国は先ごろ水面下で太陽の国の宿敵である雲の国と結び、太陽の国に害をなそうとしております」
と、説明を始めるが、

「失礼。質問の仕方が悪かったのか?
あなたはなにか正妃様のお心を乱す行動を取られたりした心当たりがないか?とお聞きしているのだが?」
と、スパッと遮られる。

その氷の刃物で切りつけるような言い方にさすがに一瞬すくみあがるが、それでもマルガリータは深窓の貴族の令嬢とは思えぬ気丈さで続けた。

「…お逃げなさいと申しました」
「ほう?」
「正妃様の森の国が風について、正妃様に陛下を暗殺するように指示していると耳に入って来たので、陛下を害するならわたくしもそれを見過ごす事はできないが、森の国の裏切りが露見したなら逃げると言うなら協力しても良いと申しました。
人質として処刑というにはまだ幼くもあり憐れかと思いましたので」

背信…と言えなくもないが、おそら森の国の諸々は当然将軍の耳には入っているであろうし、それでもなお正妃の少年の心身の安全を慮る方針なら、彼をかばったという事実は打ち明けた方が得策だろう。

マルガリータとしてはそんな判断の元、全てを正直に話す事にしたのだが、それに対して返って来た言葉は思いがけないものだった。




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