炎の城と氷の婚姻_第四章_1

Side マルガリータ

それは突然にして異例な事であった。

本来は国王以外の男は入れない後宮に医師として出入りしている国王の側近、ギルベルト・バイルシュミット将軍が謁見を申し込んできたのだ。

将軍…と言っても、国がいったん滅びかけた時から現王アントーニョの側に仕えて一緒に国を建て直した忠臣で、今では国王に対して一番影響力を持っている、国内第二位の権力者だ。

もっとも、本人は至極真面目で堅実、そして公平な人柄で、将軍としての責務を疎かにする事なく、しかし王の補佐として国政にも携わりと、非常に周りから信頼を置かれている好人物である。

ただ、それにしても国王の妃に謁見とはあまりに異例な事で、それも後宮を出て王城の執務室でという事だったので、侍女達は何事かと落ち着きを失っている。

が、マルガリータは違った。

おそらく正妃の諸々についてであろうという事は見当はついている。
緑の国が太陽の国と水面下で敵対しようとしている。
しかし王は緑の国の出身の正妃に心を傾け過ぎていて、非常に危険な状態だとなれば、おそらく自分に何らかの協力をという話なのだろう。

そう予測して、マルガリータは了承した。
ここが自分の正念場だと思う。

バイルシュミット将軍と共に正妃を国王から遠ざけて排する事に成功すれば、正式に正妃になるのは間違いなく自分だ。

怯える侍女達を叱咤して身支度を整える手伝いをさせると、わずかに2名ばかりの侍女を連れて、実に2年ぶりに後宮の門をくぐった。

そして…それが彼女が後宮を見る最後の日となったのである。



例え側室だとしても、マルガリータは太陽の国で一番の大貴族グラッド公の娘である。

だから後宮内でも一目置かれていたし、一時的に迎えた子の産めぬ少年の正妻を排したあと、寵愛を受けて子を生む者はあっても、正式な跡取りを生む事を見据えた正妻には彼女がつくものと自他共に思っていたし、そう遇されていた。

が、後宮を出て王宮の門で彼女を迎えたのは、礼服を着た貴族ではなく、軍服を身につけた兵士達だった。

それに若干違和感は感じたものの、呼びだした相手が将軍であるバイルシュミット公だからか、と、思いなおし、彼女は尊い妃に相応しい様子で

「出迎え、ご苦労です」
と、鷹揚に頷いて、彼らに促されて城内へと足を踏み入れた。

──前後左右を兵に囲まれて歩くなど罪人のようだわ…

と、内心多少不快に思いながら……


彼女が王宮の門をくぐるのもまた、これが最後になる事を、この時当然ながら彼女は知る事はない。




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