炎の城と氷の婚姻_第三章_22

絶望しそうになったが、いや、まだだ…と思う。

相手が自分を信じなくなったからと言って全てを投げ出して良い訳ではない。


もしゾフィーが言った事が真実なら…少なくとも打つ手はある。

国を救ってアントーニョの気持ちを救って……その途中で自分は力尽きるかもしれないが…目的のために全てをかぶるのも仕方ない。


「俺を信じなくて良い。

でも話は聞いてくれ。

森の国が裏切ったのは本当だ。

でも打つ手はある。

アーサーが本当に子どもを身篭っているなら、太陽の国には森の国を滅ぼす大義名分が出来る。

それが逆にこの国で本来なら裏切った国の王族であるアーサーの身分を保証する事になる。」


それはもしアーサーが子を産める女だったら…とありえない可能性を考え続けてきた時の選択の一つである。

ずっとぐるぐると考えてきた。

だから覚悟も即ついたし、言葉もすんなり出てきた…


「どういうことや…」


「つまり…アーサーは本来は正妻の唯一の実子で第一王位継承者だったのを他の兄弟に奪われた形になっている。

だから今の王を王位簒奪者としてアーサーとアーサーの腹の子が正当な後継者であると主張すれば良い。

ようは、お前らの子どもは太陽の国と森の国、両方の国の正当な王位継承者であり、その二つの国を統べることになんら問題はないと主張できるんだ。

太陽の国だってその方が戦いやすい。

もちろんそうすれば自分の娘に未来の王を産ませたい太陽の国の貴族達からは猛反発をくらうだろうが、それは俺様が絶対にどうにかする。

でも万が一失敗した場合にまずいから、お前は手ぇ出すな。

ただ今まで通り全てを俺に任せているという形で静観しろ。

で…もし失敗した時は詳細は知らなかったで俺様を切り捨てて良い。

そうなったらバイルシュミット家は終わるから、エリザを頼れ。」


「…なにするつもりなん?」


「お前は一切聞くな。アーサーの容態を理由に離宮に篭れ。一切外と交流を持つな。

これからすることは俺様が個人的な判断に基づいてやることだからな。

いいな?アーサーが大事なら絶対に1週間ほどはここから出るな。」

それだけ言うとギルベルトは立ち上がった。


失敗すれば楽には死ねないな…と思うが、それが自分の運命なのだろう。

戦場で敵の剣で死ぬか、王城で処刑されるか…どちらにしても国と王を生かそうと思えば長生きもできなさそうだ。

が、それもあの日、将軍であった父親と共にアントーニョに王位を継げと言ったあの日に覚悟していたことだ。


「あ、あのな…」

とリビングを出かけてギルベルトは一度立ち止まってアントーニョを振り向いた。


二人三脚で国を立て直してきた幼馴染とこうして近い場所で顔を合わせるのも、下手をすればこれが最後になるかもしれない。

言うだけは言っておこう。


そう思って、ギルベルトは言うべき言葉を少し考える。

そして口を開いた。


「俺様は第一に国を守る騎士で…第二にお前の幼馴染で親友だ。

確かに国のためにお前の人生犠牲にしてるけど…お前にだけ犠牲にさせるつもりはねえ。

俺様の人生であがなえるならあがなってやるから。

お前はお前の人生を第一に優先してもいいけど、もし俺様が志半ばで倒れたら、余裕があったら国も救ってやってくれ。」


信じてくれなくても良い。

けど、これが事実で唯一の願いだ。


ギルベルトはそれだけ言い置いて、戦場よりよほど気の休まることの無い王城にいる敵の只中戻っていった。


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