睡眠薬がどの程度国体に聞くのか…そんなデータは取った事がない。
だから、なるべく最速で。
夕食後の紅茶に混ぜた睡眠薬で眠っているプロイセンの整った顔を見ながら、イギリスはポロリと零れた涙を拭った。
もう二度とこんな側で無防備な顔を見る事は敵わなくなるのだから、泣いている場合ではない。
少しでもしっかりと網膜に焼きつけなければ…。
そんな事を思いながら自分に許したのは10分ほどだった。
そうしてそろそろ…と決意して気を落ちつけようと息を吐きだす。
今回は前回とは違って一度に大勢に作用させる大掛かりな魔法は使えないので、まずはプロイセンの記憶を消して、しばらく定期的に薬で眠らせて、その間に国体達を数人ずつ呼んで同じく記憶を魔法で消すと言う地道な作業だ。
プロイセンと数百年ぶりに愛を交わしたあの日…二度と記憶を操作するような魔法を使う事はないと思っていたが、やっぱり自分は誰かと一緒に生きるなんて事はできない運命なのだろう…。
いや、正確には伴侶を持つ事が出来ないだけか…。
1人ではない…
(…お前は…一緒だもんな…)
イギリスは自分の腹にそっと手をあてる。
そう、そこにはありえない奇跡が宿っている。
本来は出来るはずのない国体の子…プロイセンと…自分の子…
最初は風邪かと思った。
ひどくだるくひどく眠い。
それが胃のむかつきに変わったあたりで、普段ならイギリスが体調不良だと心配してくれる妖精達が妙に楽しげなのが気になった。
──もしかして…俺はなにかお前達に嫌われるような事をしてしまったのか?
不安になって聞くと、妖精達が
──なぜ?あたし達はいつだってあなたの事が大好きよ?
と言うので、彼女達の機嫌の良さの理由を聞いて、唖然とした。
なんと自分の腹にプロイセンとの子がいるというのだ。
ありえない。
国体に子が出来るなんて聞いた事がない。
と驚いて言うと、なんと彼女達の贈り物だと言う。
──だって、子どもがいればウサギさんはずっとあなたと家族でいてくれるんでしょう?
──だから、あなたを一時的に子の出来る身体にしたの。
──ウサギさんがあなたを愛したら、人のように赤ちゃんが出来るように。
──おめでとう、イギリス。
──おめでとう、あたし達の愛し子
眩暈がした…。
彼女達には一片の悪意もない。
本当にイギリスの幸せを願ってくれたのだろう。
いつも一人ぼっちだったイギリスに本当の家族ができるように…と思ってくれたのだろうが…
子どもを作るという目的で身体を重ねるわけではない事もあるということは、妖精達には理解してもらえないだろう。
でもプロイセンは子どもを作ろうと思ってイギリスを抱いたりはしていないはずだ。
国体である前に男同士で子どもが出来るなんて思ってもみないに違いない。
ああ、そうだ。
同じ国体でも自分がまだ可愛らしい女性の国体だったら微笑ましい事だったのかもしれないが、男で子どもを身ごもったなどとわかったら、さすがに気味悪がられるだろう。
いやだ…と思う。
プロイセンにだけは嫌悪の目で見られるのは耐えられない。
…捨てられたら…どうしよう……
子どもが出来て身体が色々変わってバランスが崩れているのだろう。
ひどく気分が沈んで不安で涙が止まらない。
喜びたいのに喜べない。
せっかくの妖精達の贈り物…おそらく望んでも手に入れられない夫婦は少なくはないであろう小さな命。
それを素直に喜べない自分にも嫌気が指す。
ずるずると這いずるようにしてトイレまでたどり着くと、イギリスは声を押し殺して泣いた。
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