それはある種、不思議な光景だった。
いつものように早めに会議場入りした日本が目にしたものは、なにやら資料を手に真剣な様子で打ち合わせをしているスコットランドとプロイセンの図。
どうやら今日の議事進行と席順についての最終確認らしい。
一方でUKの代表として世界会議にはほぼイングランドが出席はしているが、そのイギリスが都合や体調が悪い時は長男であるスコットランドが代理で出席するのもまた、決して不思議なことではない。
そう、単体だとごくごく普通のことのはずなのだが、この2人が普通にこんな風に一緒に居る図を見るのは日本としても初めてだった。
(不思議な事もあるものですねぇ…)
と、思いつつ、好奇心の赴くまま、日本は会議室内に足を踏み入れた。
「おはようございます。プロイセン君…と、スコットランドさんですね?
お初にお目にかかります。
わたくし日本と申しまして、弟さんのイギリスさんとは大変仲良くさせて頂いている者でございます。
宜しくお願いいたします。」
普段は万事について控えめだが、こと、自分の趣味に関しては何も躊躇をしない日本である。
心の嫁であるイギリスの身辺に何かあるというのなら、なにびとも恐るることなし!
そんな気概で、にこやかに挨拶を述べる日本に、気難しい性格と聞いていたスコットランドは視線を日本に移し、
「あ~、愚弟の!俺はスコットランド、UKの長男だ。宜しく頼む。
今愚弟はあまり遠出できねえから、良ければ家を訪ねてやってくれ。」
と、意外にも穏やかに親しげに挨拶を返してくる。
「ええ、私もなにぶん家が遠いモノですから、ご結婚なさった直後に一度伺わせて頂いたきりなので、ぜひまたお邪魔したいと思っていたところなのですが…よろしいので?」
と、その最後の言葉は隣にいるプロイセンに向かって発する。
それに対してプロイセンは、『おー、ジジイ、久しぶりだな』と片手をあげて普通に挨拶をして、それから笑顔で
「ああ。もちろん歓迎するぜ?
アルトもようやく安定期に入ったし、お前が来たら喜ぶだろうしな。
なんならこのあとにでも時間あるようなら、うちにくるか?」
と続けた。
はあ?安定期?なんの安定期ですか?
まさか普通想像するような意味の安定期じゃないですよね??
そんな自身の心の声はおいておいて、日本は尋ねる。
「あの…安定期とは?」
「文字通りの安定期だぜ?
俺様とアルトとの間にな、子どもできたんで。
で、そろそろ5ヶ月で落ち着いてはきたんだけどな、会議とか疲れすぎても良くねえし、スコットに代理出席頼んだんだ」
な、と、同意を求めて視線を向けるプロイセンに、スコットランドはすました顔で
「まあ…UKの血を引く姪に何かあったら大変だからな。」
と、答える。
日本もどこから突っ込んでいいのかわからない。
ただまあ…男同士だろうと国同士だろうと、あの不思議国家のイギリスのことだ、子どもくらい生まれる事があっても不思議ではないのかもしれない…。
(プロイセン君だけなら、修道会育ちですし、そのあたりの知識がストンと抜け落ちた童貞の妄想と言う事も考えられまずが…)
などと失礼な事を考えつつ、しかし、イギリスにスコットランドまでそれを認めているのだから、そうなのだろうと日本は結論付けた。
「ああ…イギリスさんのお子さん…さぞや可愛らしいでしょうねぇ…」
あの日本の心のアイドル、心の嫁の可愛い可愛いイギリスの子ども…。
女の子だったらやっぱり不思議の国のアリススタイルだろうか…いや、メイド服やうさ耳も可愛いかもしれない…。
しばし組み合わせた手を胸につけて妄想の世界に浸る日本。
男の子なら小さなシャーロック・ホームズや、もちろん今ならハリポタ仮装も捨てがたいのだが…というところまで至ったところで、ふと気づいた。
「そう言えば…お子さんの性別、もうわかったんですね?」
と、プロイセンに問いかけると、プロイセンは
「ん~、いや、わかってねえよ」
と首を振る。
しかしそこでスコットランドはきっぱり
「姪だ!女に決っている!
男4人続いたんだっ。
次こそはUKの血を引く世にも愛らしい少女が生まれるに違いない!」
と断言した。
もうそれはそれは、某超大国の『反対意見は認めないんだぞっ☆』という言葉がふわふわと軽く戯言にしか聞こえないくらいに重々しくも反対を許さないような断固とした口調で。
あ~…それでしたか…。
この方…男兄弟によくありがちな『可愛い妹が欲しかった!』方だったんですね…。
きっと下に弟ができるたびガッカリ感に苛まれていたんですね…。
それが3人続いた時点で期待が怒りに変わったんですね…
なまじ可愛い顔してんのになんで女じゃねえんだよ、コンチクショウ!という事でイギリスさんへの当たりがきつかったと言う事なんですね…
きっといっそのことこいつ女として育てちまおうか…と葛藤の末、そんな黒い自分から保護するために距離ができるような真似したんですね…。
それで妹はもう無理だと諦めて…『可愛い姪が欲しい!』にスライドしたんですね…。
生まれる前から伯父バカ全開なんですね…。
日本はそんな大いなる妄想の末、、それで父親であるプロイセンとの関係が一気に良好になったのか…と納得した。
ああ、黒スコットランドさんが勝てば楽しい事になってたのかもしれない…と、妄想が脳内をクルクル回る。
次の新刊は心の葛藤の末、黒兄さんが勝って女の子として育てられる弟の話とかどうでしょう…。
そんな事を考えながらも、そこは表と裏を使い分ける空気を読む国としては、
「そうですね。イギリスさんのお嬢さんならさぞや可愛らしい事でしょう。
お生まれになったら私もお祝いに我が国の女の子の晴れ着を贈らせて頂いてよろしいでしょうか?
洋風の物はスコットランドさんが素晴らしい物を用意されるでしょうから」
ニコリと笑みを浮かべて申し出ると、スコットの機嫌は途端に良くなる。
なかなか色々が渦巻くカオスな人間が一人増えた事で、会議室はますます異次元空間へと化してきて、結局その後に来てその空気の中に飛び込むのにためらわれた他の国々が中に足を踏み入れられたのは、こういう時に意外に豪胆さを発揮するカナダにうながされた会議ぎりぎりの時間だった。
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