そして
「…話がある。」
と、リビングの方を指差した。
こうして再度戻ったリビングで促されて王の正面に座る。
普段は感情的な王が静かで、どこか今まで感じたことの無かった壁のようなものを感じて、ギルベルトはひやりとした。
これは何かまずい…と、そんなときでも冷静に分析してはじき出された考えが当たってしまうのが辛い。
「…自分の事…買いかぶってたんやな。
やっぱり自分かて所詮俺のこと単なる便利な孤児としか思ってないんやんな。
俺は何も持って生まれてきぃひんかったから…自分に一番近い人がええんやったらええように使われたってもしゃあないなって思うて来た。
せやから向いてへんてわかってても、もしかしたら象徴として死ぬだけかもしれへん状況でも、王になったしな。
それでも…今は大切なもんが出来たの知っとるよな?
自分らの希望をなるべく崩さんようにしとっても、これなん?
森の国のこと、知っとったんやろ?
全部知っとって親分にだけ隠してアーティに言うたん?」
ああ…と、ギルベルトはため息をつきたくなった。
何も考えずに無条件の信頼を向けるアントーニョは、その分信頼をなくすのも無条件だ。
生半可な言い訳はきかない。
感覚で信じ、感覚で信じない。
今はもうお前のことは信じないオーラがひしひしでていると思う。
いったい自分は何のために胃薬を片手に頑張ってきたのか…
確かに…確かに自分と自分の父がやってきたことはアントーニョの人生を丸ごと犠牲にすることだった。
でも自分だって別にアントーニョの事をどうでも良いと思ってきたわけではない。
アントーニョを犠牲にした分、自分の人生はもっと後回しにしてきたつもりだ。
今回だってそうだ。
アントーニョが嫌なことを少しでも避けるために他国からもらった正妻。
そこまでの道のりだって平坦ではなかった。
自分を下級貴族の出のくせにと蔑む大貴族達に頭を下げて下げて説明して理解を求めて根回しをした。
緑の国が裏切ったことを知ったあとだって、いかにアントーニョの意向に沿うようにするかを模索し続けていたことが、今回戒厳令を敷いた原因の一つだったはずだ。
全ては無駄だったのか…
ここで全てが終わるのか……
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