フェイク!verぷえ_第七章_3(完)

「…俺様…お前が消えた1700年代後半からずっと禁欲生活してんだけど?」

「ああ、お前、物ごころついた頃からずっとそうなんだろ?本来淡泊だったんじゃねえの?」

「…誰かさんに初めて捧げるまではな。
一度そういう事知っちまうとな、すげえムラムラすんだけど?」

「じゃあ…髭とトマトと一緒にナンパしてれば良かったんじゃね?」

──それ…本気で言ってんのか…?

ベッドマットにプロイセンの拳がめり込んだ。

鋭い視線…怒りを押し殺したような低い声……

「…俺様はな…だければ誰でも良いわけじゃねえ…。
…貞操は一生もんだ。
………
………
いいか?覚えとけ。
俺様はこれまでもこれからもお前しかだく気はねえ。
お前…そういう男の童貞奪ったの自覚しろよ?」

「…で、でも……」
「…ん?」

震える声に、大きな目が少し涙ぐんでいるのに気づいて、プロイセンは少し表情を柔らかくする。

イギリスはマイナスの感情に敏感だ。
怯えさせたくはない。

なだめるように鼻先にちゅっと口づけると、イギリスはおそるおそると言った感じで口を開いた。

「…俺……あの時と違って今男だけど……
………お前…男相手にその気になれるのか?」

………
………
………

本当に…本当に、本当にわかってない…

「…お前…なぁ……
本気で惚れちまった女と重なって見える相手を前に、俺様がこれまでどれほど……
あ~、まあいい。
これでも、それ言うか?」

言いたい事はやまほどあるが、それはもう置いておく事にして、実際に証明した方が良いだろうと、すっかり臨戦態勢になった下半身をグイッと押し付けると、身体の下でイギリスがビクッ!!と飛び上がった。

「…あ…あのっ……」
「…わかったかよ。
お前に童貞捧げて色々知っちまったからな…もう2年も待てねえからな?
明日は一日、小鳥さんのように華麗にお前の世話を何もかもしてやるから、今晩は覚悟しろよ?」

「ちょ、待ったっ!!」

と、ずりりと上に逃げようとするのを、

「これ以上は一日たりとも待たねえっ!!
数百年待たされたんだからなっ!!」

と、がっしりと抑えこまれて数百年ぶりの想いをぶつけられ、プロイセンの言葉通り、イギリスは翌朝は指一本動かす体力すら残らず何もかも世話をされる事になった。






──Guten Morgen(おはよう)アルト

髪を撫でる指先の感触の心地よさで意識が浮上して、重い瞼をわずかに開くと振ってくる口づけ。

労わるように優しいそれは騒々しい国体のものでもシビア軍国のものでもなく、ただただ愛おしい恋人を前にした1人の男のものだった。

蕩けそうに甘い目はこの男にしては珍しい。

数百年前の“初めて”の時は、男は文字通り“初めて”で余裕も自信もかけらもなくて、イギリスの目が覚めるのを息を詰めるように心配そうな目で見守っていたのだから…。

その後はそういう朝を迎えても日常のことだったし、普通に料理が得意ではない自分のために朝食を作って、その前にいつも飲んでいたアーリーモーニングティと一緒に運んできていた。

だからこんな風に幸せを噛みしめるように、普段は奥の奥にどこか孤独というか諦観というかそんなものを潜ませる澄みきった紅い目に欠けるところのない喜びの情を滲ませて、本当に嬉しくて仕方ないと言う視線を向けているのを見る事はなかったように思われる。

「……まえ……なんで、…んな嬉しそうなんだよ……」

昨夜…というか、今朝まで酷使させられてかすれた声でそう問えば

「数百年ぶりに伴侶を手の中に取り戻したんだから当たり前だろ」
と、この男にしては実に屈託のない様子で笑った。

「…アルト、アルト、アルト……」

そう口にした事で気持ちがまた昂ってきたのか、イギリスの人名を繰り返し呼びながらくるりと体勢を変えてイギリスに覆いかぶさると、プロイセンはまるでじゃれつく大型犬のように、鼻先をイギリスの耳裏や首筋などあちこちに寄せてクンクンと匂いを嗅ぎつつ、顔中のみならず、うなじや肩先まで、舐めまわし、甘噛みし、口づけを落とし始める。

「ちょ、くすぐってえ!」
と、身をよじろうとするイギリスの動きをなんなく抑え込み、しばらくそうしてじゃれついていたが、やがて急に動きを止めた。

「…プロ……ぎ…ギル?」

習慣で国名で呼びかけて、状況を思い出して人名で呼び直すと、先ほどまでとは違い、静かな声が漏れる。

──もう二度と…勝手に俺様を判断して勝手に俺様から逃げるんじゃねえぞ……

少し涙声のそれに、イギリスは初めて数百年前の失踪を心の底から反省した。

「…悪い…」
「…本当にわかってんのか?」
「…ああ……」
「…次やりやがったら、監禁すんぞ」
「怖いな」
と、クスリと笑うと、
「童貞捧げた俺様の純情舐めてんじゃねえぞ」
と、拗ねたような声が返ってくる。

男でも女でも人間でも国体でも、確かにプロイセンは自分の事が好きらしい。

イギリスは今まで他人に対して感じた事のない安心感を覚えて、その厚い胸板に腕を回してだきしめた。

この瞬間…この結婚はフェイクからのっとフェイクに変化して、2人は仮の夫婦から本当の夫婦になった。

イギリスは二度とプロイセンの気持ちの変化に怯えて逃げる事はない。

……と、この瞬間だけは確かに思ったのだった。

そう、この瞬間だけは……




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