炎の城と氷の婚姻_第三章_19

「ちゃうねんで?
確かに自分を娶ったのは子を産まないっちゅう前提やったけど…

惚れてもうたら相手との子ぉが嬉しくないわけないやん。


親分それ知った時めちゃ嬉しかってん。

父親は国王で他に子ども仰山居ったから、俺の父親言う事はなかったし、母親は早くに亡くなってずっと一人やったからな。

好きな子ぉとの間に子ども出来たって知ってめちゃ嬉しかったんや。

あとでギルちゃんに怒られるの承知で仕事放り出してここに会いに来てしまうくらいには嬉しかったんや。

自分だけの家族が出来るってほんま嬉しかったんや。」


言っているうちにまた溢れてきた涙を、白く細い指先がぬぐっていく。


…ごめんな…と小さく謝罪して、愛妻はまた困ったように小さく微笑んだ。


「…王はすごく強くて優しくて…きっと心から愛してくれる妃が今度こそ家族をつくってくれるから…。

裏切った国の人間が迷惑かもしれないけど…俺は子どもと空の上で祈っているから…

王が幸せになれるようにって…ずっと祈ってるから……」

「……っ!」


言いたい言葉がたくさんある。

まるで永久の別れを告げるような愛妻の言葉は断じて受け入れられるものではない。


「いややっ!!」

と、まずその言葉が口から飛び出て、その後、そのまま感情的に叫びだすのを必死にこらえた。


きちんと伝わるように…冷静に…と、それは感情先行型のアントーニョにとっては随分と忍耐を要する作業ではあったのだが……


「他の妃なんて要らんねん。

親分が家族になりたいのは…その間に子ぉが欲しいのはアーティ、自分だけや。

せやからいくら祈ってくれたかて、自分がおらへんようになったらその時点で親分の幸せなんてありえへん。

まずそれは言うておくわ。

それはそうとして…なんなん?その裏切った国の人間言うのは…」


裏切ったというのは…森の国に何かあったのか?
自分は何も聞いていない。

最近森の国からの手紙や荷物をアーサーの所に届けたという話も聞いていない。

アーサーと接触しているのは自分とゾフィーと医師とギルベルトのみ。

ゾフィーはずっと後宮に詰めているので他国の情勢など知りようもないし、医師は万が一何か知っていたらさきほど自分に言ったはずだ。

…ということは……?
「ギルちゃん大急ぎで呼びっ!!!」

腹の底からわきあがる怒りのまま、アントーニョは叫んだ。



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